第5話

「電車は・・・よかった。まだ来てないみたいだ。」


俺はプラットフォームの電光掲示板を

見ながら安堵し

人々が左右に行き交う中

息を整えていた


おばあさんを助けていたことで

かなりの時間を消費していたと思ったが

早めに家を出ていたこともあって

まだ目的の電車が来るまでに

数十分単位で余裕があった


ただし、ここでの数十分というのは

待ち時間として考えるとかなり長い


暇つぶしできるような道具類などは

持ち合わせていないので

とりあえず椅子がないか辺りを見渡してみた


この駅は田舎ではないにしろ

他の駅と比べると少し大きさがある


背中合わせにそれぞれ3脚ずつ

くっついているような造りのものが

ここだけで三ヶ所は設置されており

プラットフォームも

自分のいる場所含め4つもある


まぁ、この確認だけで待ち時間を

済ませられればそんないのだが


「・・・飲み物買っとこ。」


やることがないと喉が渇いてくる


椅子に座る前に何か飲み物でも

買っておくか・・・


近くに自販機が二つ並んであったため

右の方にあったミルクティーを買う


「後は・・・特にないか。」


買ったものを片手に

空いている席へと座り込む


「・・・。」


この瞬間、一気に辺りから音が消える

人々が忙しなく移動しているというのに

全くそれが騒がしくなかった


「いつから・・・こんなんだったっけ。」


静寂というのは長く続くものだ___






「・・・。」


電車の中に入ってもまだ音はなかった


たまにこんな感覚に襲われることはあったけど

今日はいつもよりそれが長い


中に座っていた人は数人降りていき

俺と一緒に乗ってくる人もいる


こんな騒がしそうな光景だと言うのに

何一つ音が聞こえない


ふっと体が前後に揺れ

窓に映る景色が変わり始める

電車が動き出したのだ


まだ、無音である


マンションを過ぎ

公園を過ぎ

デパートを過ぎ


・・・なにかないかと探していた


もしかしたら、見つかるかもしれない


あれが、あの情景が、あの子が、

まだどこかにいるかもしれない


もしかしたら、いやきっと___


その瞬間、窓の外が一瞬にして暗くなる


こんなことはありえないはずだ


電車の中で景色が暗くなるのは

だいたいトンネルくらいだ


だが、トンネルなんて

ここらでは聞いたことがない


何が起こって___


わけも分からぬまま

俺の意識はここで暗転した

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