第4話
「・・・暑い、下のシャツいらなかったかな?」
額の汗を拭いながら俺は呟く
いつもはそれほど長いようには感じない7月も
今年だけは延びているように感じた
多分、あのメールのせいだが
現在の日時は8月7日
蝉が鳴き太陽が一層輝きを増す中、
目的の駅を目指す
駅の名前は・・・長くて覚えてすらいない
ただ、全く使わないということはなく
道はしっかりと頭の中にインプットされている
「電車の中なら多少は涼しいだろ・・・あれ?」
俺が駅への道を歩いていると
前に杖をついたおばあさんが見えた
今どき杖をつく老人、なんて
想像すらしていなかったが
気になったのはそこではない
挙動が少しおかしいのである
そこにはちょうど横断歩道があったのだが
その前の所で
前に行ったかと思えば後ろに下がり
急に方向を変えたかと思えば
身をかがめたりして
近くにいた人はそれを見て
明らかに距離を置いていた
「・・・時間、大丈夫そうだな。よし。」
自分がなんとかしなきゃならないな、と
思ったのならすぐに動くのが吉だぞ!
・・・と、昔
誰かに言われたのを思い出したが
今気にすることでもないだろう
不思議とすんなり話しかけられた
「あの・・・どうしたんですか?」
俺が話しかけると
おばあさんは驚いたようで
一瞬体を硬直させた後、
ゆっくりとこちらを向いた
「え、えぇ・・・実は落とし物をしてしまいましてね・・・。ここら辺に落ちてるかと思ったんですが・・・。」
「なるほど・・・。じゃあ、探すの手伝いますよ。」
そう言うとおばあさんはまたもや驚いたようだ
「いいんですか?」
「はい、そんなに急いで取り掛かる用事は今のところないので。」
嘘だ。
ぶっちゃけちょっとまずい事に
首を突っ込んだかもしれないと後悔している
幸い、おばあさんは
俺の心情に気づかなかったようで
そのままの勢いで
落とし物探しを手伝うことになった
少しして___
「・・・もしかしてですけど、これですか?」
暑さという難敵になんとか耐えながら
捜索をした結果、一つだが
こんな道端には落ちていないような物を
見つけることができた
「あ・・・そうです!これですよ、これ!」
案の定、探していた物だったようで
おばあさんはとても喜んでいた
「見つけた時も思ったんですけど、これ・・・すごい綺麗ですよね。」
「これの良さが分かりますか・・・お目が高い。」
見つけたのはネックレスだった
首にかける部分には白と青のビーズが
交互に使われており
そこも丁寧で良かったのだが
俺が一番惹かれた部分は
夜空の絵柄が入った月の形をした
"飾り"であった
改めて見直してみると
その造形は本当にリアルで
気を抜いたらその中へ吸い込まれて・・・
「・・・あの、大丈夫ですか?」
おばあさんの言葉で俺はハッとする
・・・今の感覚はなんだったのだろうか
「あ、はい・・・大丈夫です。」
「ならよかった。助けてくれてありがとうね。」
ニコニコと笑顔を浮かべている姿を見ていると
少しだけ心が暖かく感じたような気がした
「いえいえ。それじゃあ、また。」
「ふふふ・・・"またね"。」
そんな言葉を最後に交わしてから
俺は再び歩き出した
でも、なぜだろう・・・
なにか・・・なにかが引っかかって・・・
「・・・あ、電車。」
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