第3話


「いやいやいや! 絶対おかしい! 幽霊とかそんな事あるわけないだろ!」


「だから! 私の暗黒の邪眼ダークネスアイズのなせる技で…………!」


「あ、いや、今そういうのいいから。」


「ふえぇっ!? な、なんだかいつもよりも扱いが酷いっ!」



未来はなんか言ってるが、それはスルーするとして、俺は未来をまじまじと見つめた。


じーっと見つめているとたまーに少し照れたように視線を外すところが飛びっきり可愛かった。



「ふふふ、先輩も黄泉の国の三大美女と称えられた私の美貌にやっと気づいたみたいですね!」


「ん? あぁ、可愛いぞ。」


「うぇっ!?」


「まぁ、幽霊になったとはいえ、また会えて本当に良かった…………。なぁ、ちょっとだけ抱き締めていいか?」


「ちょ、何言ってるんですか!? 昨日から先輩なんかおかしいですよ!? それに、私の為にあんなに感情的に…………。それってまるで私の事…………。」


「ん? どういう事?」



ちょっと何言ってるのか分からないが、これは抱き締めていいって事なのか?


俺は立ち上がり、未来へとにじり寄る。



「えっっ!? ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が!」


「ちょっとくらい良いじゃないか! 俺はもうお前と会えないと思ってたんだぞ!? てか昨日からってことはもう昨日から居たんじゃねぇか! 声くらいかけろ! ガチで悲しかったんだからな!」


「うぐっ、いやぁ、昨日は先輩がすんごい感情的だったから話しかけにくくてぇ。」


「そんなの関係無いんだよ。ちょっとくらい俺の心を癒せよ!」


「ううっ、そこまで言うなら…………。」



未来は恥ずかしがりながらも腕を広げた。


家に帰ってきてから電気も付けずに電話をかけたため、未来の顔色は分からないが、少なくとも嫌そうな顔はしていなかった。


月明かりに照らされた未来の顔は、幽霊だからかは分からないが、透き通るようで美しかった。


未来の体をそっと抱き締めると、ひんやりと冷たかった。


生前の未来の温かさはない。それでも何だか温かくなるように感じた。


ずっとこうしていたいと素直に思えた。



「先輩…………もうそろそろ…………。」


「あとちょっとだけ…………。」



というかもう一生離れたくない。


大切な物は失って始めてそれが大切な物だと気付くものだ。


俺はもう一生未来を離さない。


そう思い、未来の体を一層強く抱き締めた所で俺の意識は徐々になくなっていった。




◇◇◇◇




「ううっ、さぶっ。」



俺は寒さに凍えながら起床した。



「あ、やっと起きた。」



見上げると未来の顔があった。


どうやら未来に抱き着いたまま眠ってしまったようだ。


ムギュ



なんかもうどうでも良くなった為、もう一度未来に抱き着く。



「あぁもうしつこいですよ! いい加減離れてください! でなきゃ、えーっと、なんだろ、そう! 私の闇の力で先輩は生気を吸われてしまうんです!」


「別にいいよ。死んだらお前と同じ感じになるんだろ? それなら全然いいさ。」



そう言った瞬間、未来は少し怖い顔をした。



「先輩。先輩はもっと自分を大切にしてください。 それに…………この姿はそんなにいいものじゃ無いですよ。」


「そ、そうか。」



俺はあまりの迫力に言葉が出なくなってしまった。



「なんでそんな…………。」


「まぁ、そんな事は良いんですよ! 私は力のコントロールが出来ているので先輩の生気を吸うなんてことしませんから! それより見てください!」



そう言うと、未来は俺の机の前に立った。


そして何を思ったのか、思いっきり机に手を振りかぶった。



「おまっ!? 何やって!?」



これから来るであろう音に備えて、少し構えていてたが、思ったような音はならなかった。それどころか、少しの音すらならなかった。



「ふふふー! 凄いでしょう!」


「あ、あぁ。これはどうなってるんだ?」



俺が目にしたその光景は、あまりにも現実的ではなかった。


何が起こったかと言うと…………。





「触ろうと思えば触れるんですけどね!」



そう言うと、未来は机をバンバンと叩いた。



「お前、本気で幽霊になったんだな…………。」



そこまで幽霊感が無かったため、実感があまり湧いてなかったが、いざその姿を見てしまうと、認めざるを得なかった。


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