第38話 共闘1

「アメリア。貴方と交渉したいことがあるの。姿を現して。」

 私は工房で、空中に向かって話しかける。


 カミュスヤーナが魔王のところに行ってしまった。カミュスヤーナを追いかけるには、アメリアを頼るしかない。私は魔王の居場所がわからない。命の危険にこの身をさらして、カミュスヤーナの夢の中に再度退避することも考えたけれど、それではカミュスヤーナを助けることが難しくなるだろう。

 もっとも、アメリアがカミュスヤーナとともに魔王のところにいると、この声は届かないけど。


 何度呼んでも応答がなく、涙がボロボロとこぼれる。

 こんな形でカミュスヤーナと別れたくない。

「うぅ・・アメリア。」

「・・貴方が私を呼ぶなんて初めてじゃない?」

 目の前にプラチナブロンドの髪、赤い瞳、私にそっくりな容姿の少女が姿を現す。


「ちゃんと来てあげたわよ。」

「アメリア。私貴方にお願いが・・。」

「まあ、落ち着いて。お茶でも飲ませてよ。」

 アメリアは机に置いてあったアンダンテが準備していたお茶の道具を使って、紅茶を入れ始める。テーブルに自分の分と、私の分を並べた。


「カミュスヤーナ様の様子を聞かせてあげるから、座って。」

 彼女の言葉に、私はしぶしぶ椅子に腰を下ろした。

「カミュスヤーナ様は魔王エンダーン様の元にいるわ。ほぼ賓客扱いでね。」

 彼女はゆっくりと紅茶を口にする。

「私がカミュスヤーナ様をエンダーン様の元に送り届けた時に、ここでのやり取りを一時的に忘れるという暗示を解除されたの。だから、貴方の呼びかけに答えられたというわけ。」


「カミュスヤーナ様は無事なの?」

「身体として言えば無事よ。魂的には弱っているけど。」

「弱っているって。いったい何をされてるの?」


「う~ん。カミュスヤーナ様とエンダーン様は兄弟のためか魔力の色が近くて、お互いに状態異常の術はかからないのよね。だから、エンダーン様はいろいろな薬を作って、カミュスヤーナ様に飲ませているの。」


「薬?」

「命にかかわらない程度の毒薬とか、眠り薬とか、痺れ薬とか、媚薬とか。」

「・・・。」

「エンダーン様は、カミュスヤーナ様が苦しそうにしたり、辛そうにしているのを見るのが楽しいみたい。普通の人なら狂ってもおかしくないかもね。カミュスヤーナ様が強いから、こんなもので済んでいるのかもしれないけど。」

「そんな・・ひどい。」

 状況を聞けば聞くほど、早く助けないと、と焦る。


「そもそも、カミュスヤーナ様はなぜ魔王の元に行くことになったの?」

「この身体を人質に取られたからよ。」

 アメリアが自分の胸を軽く掌でたたく。

「カミュスヤーナ様がエンダーン様の元に来なかったら、この身体の初花を散らすと脅されたの。」

「初花・・。」

「まぁ、この身体は貴方のものではないから、散らされてもよかったのではないかと思うけど。」


 いや、そんな行為に応じられたら、アメリアの身体が作り物であることは露見する。そっくりなのは見かけだけで、そんな行為ができるように作ってはいない。私も。もちろんカミュスヤーナも。


「最初にエンダーン様の言葉を伝えた時には、私の暗示は解けていなかったので、社交儀礼的なやり取りをして、後ほど呼ぶから待ってほしいと言われたわ。その後、こことは別の場所に結界を張って、そこに呼ばれて暗示を解かれたの。その後は貴方のことは知らないことにして、彼の方をエンダーン様の元に連れて行くように言われたの。」

「・・・。」


「カミュスヤーナ様は、エンダーン様に会われて、私の身体、つまり貴方の身体も含めて貴方に手を出すようなら、自死すると言って、エンダーン様を脅されたわ。エンダーン様の優先順位の最たるものはカミュスヤーナ様だから。エンダーン様はその要求をのまざるを得なかったの。エンダーン様は毎日のようにカミュスヤーナ様で遊んでいるわ。」

 私は何か口を挟みたいのだが、あまりの内容に、アメリアが語るのを聞いていることしかできなかった。


「おかげで私にはお呼びがあまりかからなくて。。唯一呼ばれるのは、カミュスヤーナ様に媚薬を飲ませた時かしら?私が見ていると、カミュスヤーナ様が嫌がるからって。」

 理解が追いつかない。むしろ想像するのを拒否しているのかも。


「でもね。私はエンダーン様の一番の寵愛を得たいの。」

 アメリアの様子が一変した。真剣な様子で私を見つめてくる。


「カミュスヤーナ様は、私がエンダーン様の寵愛を得るよう取り計らってくださると言ったわ。多分エンダーン様に攻撃する機会を見計らっているのだと思うけれど、今の状態を見ると、先にカミュスヤーナ様が陥落する方が早いかと。それにカミュスヤーナ様が今の状況に慣れてしまい、反応、抵抗が鈍くなってくると、きっとより刺激を求めて、エンダーン様が貴方に手を伸ばしてくることは十分想定されるわ。」


 正直、私はカミュスヤーナ様にエンダーン様の近くにいてほしくないの。とアメリアは語る。


「だから、カミュスヤーナ様をエンダーン様から引き離すことを、貴方が望むのであれば協力するわ。」

「私がカミュスヤーナ様の中にいないことは露見していないの?」

「彼の方は、夢の中で貴方は眠り続けており、現状交流が取れないとエンダーン様にはおっしゃっているわ。エンダーン様は夢の中を確認することはできず、今はカミュスヤーナ様が近くにいるから、追及はしていない。今のところは、だけど。」

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