第37話 要請

 机の上に肘をつき、組み合わせた手の甲に顎を当て、黒髪の青年は何かを考え込んでいる。

 その目の前に、プラチナブロンドの髪、赤い瞳の少女が現れる。


「アメリアか。」

「まぁ。名前を憶えていただき光栄ですわ。」

 少女は艶やかに笑みを浮かべる。

「何用か?」

「エンダーン様からのお言葉を言付けに参りました。このところ貴方様はあの工房とかいう部屋に、こもってしまっていて、すっかり遅くなってしまいましたが。」


「それで、奴の言葉というのは?」

 アメリアの後半の言葉を受け流して、カミュスヤーナは問いかける。

 アメリアは面白くなさそうに頬を膨らませた。その後思い返したように自分の胸に手を当てる。

「この身体の初花を散らされたくなければ、エンダーン様の元においでになるようにとのことです。」

 アメリアの言葉に、カミュスヤーナは動きを止めた後、深々と息を吐く。


「まったく、厄介なことしか考えないな。彼奴は。」

「エンダーン様は貴方様を殊の外好んでいらっしゃいますから。」

「こんなもの、好意とは呼べぬ。」

「ちなみに、カミュスヤーナはこの身体の初花は散らしていらっしゃいませんよね?」

 念のための確認ですが。と言葉を続けるアメリアに、カミュスヤーナは顔を赤くして口元を覆った。


「それをそなたが聞くのか。」

「この身体の指はそれほど長くはないので、確認ができないのです。」

 自分の指をしげしげと眺めながら、アメリアが答える。

「エンダーン様も確認はして下さらなかったので。」

「当たり前だ!そんなことをしていたら、奴を屠ってくれる。」

「エンダーン様は、貴方様を傷つける行為を先んじて行う方ではありません。」

 するなら貴方様の目の前で行われるのでは?とアメリアは艶やかに笑った。


「で、どういたしますか?このまま一緒に来てくださいますか?」

「・・必ず赴くが、こちらでの作業を済ませておきたい。どうせ、そなたは近くで私のことを監視しているのだろう?赴けるようになったら呼ぼう。」

「かしこまりました。では後ほどお呼びくださいませ。」

 言葉が言い終わると同時に少女の姿がかき消えた。

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