第7話 第二夜の1
どうやら眠っていたらしい。
目を覚ます前にはなかった柔らかい寝具の感触を身体の下に感じた。目の前には白い空間が広がっている。それにしても広い部屋だ。
「目を覚ましたか?」
背中側から声がした。驚いて振り返った顔に柔らかい布の感触。
私の側には白の丈の長い上着にガウンをはおり、同じく白のズボンをはいたカミュスが、枕を背に当てて上体を起こしていた。
今回は目に当てていた布はなく、赤い瞳が私に楽しげに向けられている。
私の顔はカミュスの太腿あたりに当たったのだ。
「起きるのを待っていたのだ。」
喉は乾いていないか。と彼が尋ね、私はのどの渇きを覚えた。頷くと、カミュスはサイドテーブルと水差し、グラスをだして、グラスに水を注ぎ、私に差し出した。
寝台の上に正座して、グラスを受け取り口にする。
果実水がのどをひんやりと通っていく。
「少し回復したか?身体も成長したな。」
夢の中なのだから、成長も何もないのだが、言われてみると、手足が前より伸びているような気がする。
「私が起きている時は、寝て過ごしたようだな。想定通りだった。来た時には、柔らかいとはいえ床に寝ころんでいたので、寝台を出して寝かせたのだ。」
「おかげでよく寝られたけど、あなたは夢の中でも起きているのよね?いつ寝ているの?」
カミュスでよい。と言って、彼は私の頬を撫でた。
「そなたが起きる前に休みを取ったので、問題ない。」
頬を撫でる手の温かさがなぜか懐かしくて、私は彼の手を上から自分の手で押さえた。
彼はそんな私の様子を驚いたように目を瞬かせて見ていた。
「では、話の続きだ。」
前回と同じように、お茶道具一式を出し、ソファーに腰かけた状態で、カミュスは口を開いた。
さっきまで着ていた夜着は、手で払ったと同時に、襟元の詰まった袖の長い黒の上着とズボン姿に変わった。
夢の中って便利!
私は、胸の前で手の指を組み合わせて、その様子を眺めていた。カミュスは、私に目をやると、君も着替えるか?と私に向けて手をかざす。
私がずっと着ていた白いワンピースは、フリルとリボンがたくさんついた水色のドレスに変化した。まさかドレスに変わるとは思わなかった。一体私とカミュスの身分は何なのだろうか。
「君の身体が魔王に奪われた話はしたが、状況が変わって3月以内に取り戻さなくてはならなくなった。」
「状況?」
「まずは君が何者かから話さないとならないか。」
カミュスは考えるように、顎に手を当てる。
「君の名前はテラスティーネであることは伝えたな。歳は15。私の父の妹の子どもだ。」
つまり、私と君は従兄妹にあたる。とカミュスは続けた。
「君の母は早くに亡くなっており、君と私は幼いころから生活を共にしていた。生まれたときより、ともに魔力量は多かったので、院を卒業する前から魔法士になることは決定していた。」
「院とは?」
「魔力の扱い方を学び、学問を学ぶところだ。」
学び舎ということね。
「君はまだ院を卒業していない。院を卒業するのは、16を迎えた年の冬だ。」
「ちなみに今の季節は?」
「今は春だ。」
「では卒業するのは、来年の冬?」
「いや今年の冬だ。君はあと3月で16になってしまうからな。卒業後は院で教鞭をとる予定であった。」
「え、私先生になる予定だったの?」
そうだ。とカミュスは頷いた。
「魔法って、敵と戦う時などに使うのではないの?例えば前回話していた魔人とか、魔王とか。」
「魔人とは敵対関係にはない。通常住みかとしているところも、海で隔たれており、交易も微々たるものので、ほぼ関わり合いもない。魔王は更に会うことがない。畑などを荒らす魔物駆除には使うかもしれんが、ほとんどは領内で、建築物を建てたり、河川を整備したり、薬を作ったり・・・人の手にはあまるところを魔法で補うのだ。」
魔法士は職業ではなく、魔法を使うための資格であり、通常は他の仕事についているそうだ。魔法が必要な時だけ招集されたり、公募されたりするらしい。
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