第32話

「ちっ!やっぱりアイツが何かしてやがったか!!」

 グリーン君は忌々しそうに舌打ちをした。

 やっぱり、アレックスが知らないうちにエドワードたちに何かしたんだ。

「どうやら、万事休すのようですね?」

「さっきのお礼はたっぷりしてやるから覚悟しろよ?」

「多勢に無勢で申し訳ありませんが、これもわたくしたちの未来のため」

 エドワードたちはグリーン君に向かって攻撃態勢に入った。

 流石にグリーン君も三人を相手に戦う事なんてできないはず。

 私はそう思っていた。

「ふん!なめるなよ?最早、お前たちに手加減する必要は無い」

 グリーン君は三人を相手にしてもひるむ事は無かった。

 依然として構えたまま闘気をみなぎらせている。

「メアリー!早く行って下さい!!」

「で、でもっ!?」

 グリーン君の強さは半端じゃないんだよ!?

 三人にもしもの事があったら私は……

「ジェニファーさん!メアリー様を連れて行って下さいませ!!」

「はい!行きましょうメアリー様!!」

「ちょ、ちょっとジェニファー!?」

 私はジェニファーに手を引かれて半ば強引に教会へと向かわされた。

 三人の横を通り過ぎる時に顔を見たが、三人とも迷いが無かった。

 迷っているのは私一人だけだった。

「……」

「案外あっさり通してくれるんだな?俺はてっきりメアリーに向かうと思ってたぜ?」

「あの女を足止めする理由は無い。すべてはプロット通りだ」

「こうなる事もすべて織り込み済みと言う事ですか?」

「さあな、話す必要は無い。オレの役目はお前たちと大立ち回りを演じる事だ」

「あら?なんだかんだ言いながら結局わたくしたちとやるんですの?」

「役目は果たさねばならん。それがどう言う意味であってもな」

「ジョージ!ソフィア!!コンビネーションです!!行きますよ!!」

「指図するんじゃねぇ!王子サマ!!」

「お手合わせ願いますわよ!?グリーンさん!!」

「さあ、来い!オレたちの滑稽さを踊り明かそうではないか!!」

 四人は世界の終わりに花を添えるべく、死闘を演じ始めた。


「メアリー様!頑張って下さい!!」

「ハァッ!ハァッ!!」

 私は後ろを振り返る事無く走り続けた。

 今の私に出来る事は世界の終わりを食い止める事だけだからだ。

「メアリー様、教会が見えてきましたよ!」

「あと、もう少し!」

 私は気力を振り絞って教会の中へと駆け込んだ。

 教会の中では黒髪で眼鏡を掛けた男が『のりと』を唱えていた。

 中央で光っているおぼんくらいの円盤、あれが世界を終わらせる鍵なのだろう。

「そこまでよ!!」

 私は男の背後から剣を向けた。

 どんな事をしてでも世界を終わらせたりなんかしないわ!

「これはこれは、お早いお着きで」

 男は慇懃無礼な態度と共に私の方を振り向いた。

 男は知的でクールな印象の美男子だった。

「その円盤をこっちに渡してもらうわ!!」

「世界を終わらせたりなんてしません!」

「そう焦らなくても、誰も渡さないなんて言ってないでしょう?」

 そう言うと男は光る円盤を私にホイッと投げてよこした。

 私は慌ててそれを受け取ったが、意味が分からなかった。

 この円盤が重要なアイテムだったんじゃないの?

「さて、世界の始まりと終わりの象徴である円盤が彼女の手に渡った」

「……世界の始まりと終わりの象徴?」

 え?何の事?この円盤は一体何なの?どう言う事?

「これで物語は終局へと向かう。そうですね?アレックス」

「……そうね」

「アレックスさん!?いつの間に?」

 私が事態が飲み込めずに居ると円盤がひときわ強く輝き始めた。

 それと同時に、私は宙に浮くような感覚になった。

「メアリー様!周りが!!」

「何よ!?これ!!?」

 ジェニファーに言われて周囲を見渡すと教会がブロック状になって崩れた。

 いや、教会だけでは無い。地面も大気もすべてが崩れているのだ。

「これが、世界の終わり!?」


 私は訳が分からず、アレックスに説明を求めた。

 円盤を手に入れれば世界の終わりを防げるんじゃ無かったの!?

「アレックス!どう言う事!?説明して!!」

「ごめんなさいね。この世界が終わる事は最初から決まっていたの」

「なっ!?」

 何よそれ!?それじゃ私たちは何のために頑張ったの?

 ここまでの努力や犠牲は全部全部無駄だったって事!?

「大切なのは『どう終わりを迎えるか?』それだけだったの」

「ふざけないで!私たちの人生は何だったの!?」

 私がアレックスに抗議する間も世界はブロック状になって崩れていた。

 周囲は灰色一色になり、私の意識も徐々に遠退きつつあった。

「無駄じゃ無いわ。あなたたちが今まで紡いだ物語はすべて観測者たちが見ていたわ」

「何の事?観測者って何?それが何の関係があるの?」

 私たちの人生を誰かが見ていたとしてそれが何の慰めになるだろうか?

 間もなく、私たちの世界も人生も終わってしまうと言うのに。

「観測者たちにこの物語が『承認』されれば新しい物語が始まるの」

「……新しい……物語?」

 まぶたが重い。身体に力が入らない。なんだかとても眠たくなって来た。

 死ぬってこんな感じなのかな?

「アタシはこの物語が承認される事を願って……」

「私たちはこんな物語は否定される事を願って……」

 意識が途切れながら私は理解した。

 この世界は最初からゲームの世界なのだ。だから終わるのだ。

 大切なのは終わらない事では無く『続編が出せるかどうか?』なのだ。

「そして、今から裁定が下されるのです」

「アタシはこの世界、嫌いじゃ無いけどね」

 アレックスと眼鏡の男、ジャックが何かを話しているがもう聞き取れない。

 ふと目をやると、ジェニファーも完全に意識を失っているようだった。

「……もっと……皆と……一緒に……居たい」

 私の頭の中を走馬灯のように皆の顔が浮かんでは消えた。

 ロベルタ、エドワード、ジョージ、ソフィア、ジェニファー。

 それ以外にもお兄様、お父様、お母様、ハリー先生。

 私は皆ともっと一緒に居たい!これでお別れなんて絶対に嫌!!

 そんな事を考えながら、私の意識は途絶えた。


 ドサッと言う音と共に私はベッドから落ちた。

 打った頭をさすりながら、私は絨毯から起き上がった。

「……あれ?私、どうしたんだろう?」

 確か教会で世界が終わって、意識が遠退いていって。

 その後、どうしたんだっけ?

「メアリー様?大丈夫ですか?」

「ジェニファー?ううん、何でも無いの。夢を見ていたの」

 そうよきっとあれは夢だったに違いないわ。世界が終わるなんてあるわけが無い。

 そう思いながら私がベッドに戻ったら、隣のジェニファーがこう言った。

「わたし、変な夢を見ました。世界が終わって何もかもが崩れてしまうんです」

「え?ジェニファーも見たの!?」

 私はその言葉を聞いて眠気が飛んでしまった。

 二人して同じ夢を見るなんて、いくら何でも都合が良過ぎない?

「メアリー様もですか?あれは一体、何だったんでしょうか?」

「分からないわ。でも、ひょっとしたら……」

 あれは夢なんかでは無かったのかも知れない。

 そんな事を考えている時に、ドアがノックされた。

「メアリー!居ますか!?」

「エドワード!?ちょっと待って、すぐに行くわ」

 私はベッドから飛び起きるとドアを開けた。

 ドアの向こうではエドワードとジョージとソフィアが待っていた。

「実は僕たち、三人とも変な夢を見たんです」

「それってもしかして、世界が崩れて終わる夢?」

「メアリーもですか?と言う事はジェニファーも?」

「はい、わたしも見ました!」

 つまり、五人とも同じ夢を見ていたと言う事になる。

 そんな事、通常ならあり得ない。何かあると考えるべきだろう。

「皆さん!こんな夜更けに何事ですか!?」

 騒ぎを聞きつけて巡回の先生が駆けつけた。

 生徒たちもドアを開けてこちらを見ている。

「お話でしたら明日にして下さい!!」

「す、すみません」

 結局、私たちは朝までこの件に関する話しが出来なかった。

 でも、私はこれは偶然なんかでは無いと確信していた。


 結局、私は一睡も出来ないまま朝を迎えた。

 この状況で寝ていられるほど、私の神経は太くない。

「皆さん、本日は学園長先生が新学期の挨拶をします」

「……新学期だったのね、今日って」

「どうやらそのようですわね?」

 私たちは朝食を摂りながら、そんな会話をしていた。

 朝食を終えた私たちは先生に引率されて広間へと来た。

「そう言えばエドワードは学園長先生を見た事は?」

「それが一度も無いんですよ。学園長はいつも部屋にこもっています」

「他の皆は?」

「俺は最初からそんなヤツは興味ねぇな」

「わたくしたちの入学の時は教頭先生までしか見ませんでしたわ」

「わたしも学園長先生がどのような方か知りません」

 全員、学園長なんて知らないと答えた。そんな事ってあり得るのだろうか?

 なんだか妙な気分だった。

 そんな私たちの不安をよそに始業式は始まった。

「では学園長先生、お願いします」

「ええ、任せて」

 教頭先生にすすめられて学園長先生が壇上に上がった。

 だがその姿を見た途端、私は変な声を出してしまった。

「えええぇぇぇえええ!!!」

「シーモアさん!お静かに!!」

「す!すみません!!」

 だが、私が奇声を発したのも無理はない。

 なぜなら壇上に上がったのはアレックスだったからだ。

「皆さん、学園長のアレックス・スミスです」

 アレックスは何食わぬ顔でその後も始業式の挨拶をこなしていた。

 何でアイツが普通にここに居るの!?私たちをだましたくせに!!

 私たちは始業式が終わると、アレックスに詰め寄った。

「どう言う事か説明しなさいよ!!」

「そんなに怒ること無いじゃない?これから仲良くしましょ」

「ふざけないで!何でアンタがここに居るわけ!?」

「それはあなたたちが『承認』されたからよ」

「え?承認?」


「あなたたちが観測者たちに承認されたから新しい世界が生まれたの」

「新しい世界って事はこの世界は前の世界とは違うって言う事?」

 見た感じ、前の世界と全く同じように見えるけど?

 この世界って本当に新しい世界なのかしら?

「そうよその証拠にほら、ご覧なさい」

「え?誰、あの人たち」

 アレックスが指さす先には制服を着た個性豊かな男の子たちが居た。

 あんな子たち、私見た事がないんですけど?

「転校生よ、ゲームの続編には新キャラが出るものでしょ?」

「え?それじゃあ、この世界は本当に新しい世界なの!?」

 それってつまり、皆とまだ一緒に居られるって事でしょ?

 私たちの努力は無駄じゃなかった事でしょ?

「だからそう言ってるじゃない」

「やったー!やったんだわ私たち!!」

 私はうれしさのあまり、廊下の真ん中ではしゃいでしまった。

 だってこれ以上に嬉しい事なんて無いでしょ?

「あら?喜ぶのはまだ早いわよ?」

「え?どうして?」

 アレックスは含みのある笑いを浮かべている。

 何?もうこれで私たちは安心して幸せに暮らせるって事でしょ?

「だって新しい世界が始まったなら、新しい物語が始まると言う事でしょ?」

「それってつまり……」

 また私が破滅の運命を回避するために四苦八苦するって言う事じゃ?

 だって観測者とやらはそれが見たいから私たちを承認したんでしょ?

「頑張りなさい、悲劇のお姫様」

「嘘だそんなこと!!」

 新しい物語の始まりを素直に喜べない私だった。


To Be Continued

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