第31話

「さて、お邪魔虫は居なくなったし……」

 アレックスさんがパンパンッと二度拍手をするとエドワードたちの戒めが解けた。

 皆、立ち上がり私に駆け寄ってきた。

「メアリー!大丈夫ですか!?」

「まあ、一応生きては居るみてぇだな」

「メアリー様!お怪我は御座いませんか!?」

「一人で無茶しないで下さい!!」

 私は疲労困憊だったが、皆に無事をアピールして見せた。

「大丈夫よ、この通り怪我もしてないわ」

 皆はその様子を見て、一応は安心してくれたようだった。

 だが、私にはハッキリさせなくてはならない事がある。

「アレックス……さんでしたね、ありがとうございます」

「礼には及ばないわ。こっちの不手際が原因なんだから」

「あの、いきなりで恐縮なんですが貴方は何者なの?」

 私は十数年前にもアレックスさんを見ているが今と全く同じ姿だった。

 この人は年をとっていないように見えるが何者なのだろう?

「そうね貴女の疑問はもっともだわ。アタシで教えられる限りの事を教えてあげる」

「ありがとうございます」

「アタシたちは『管理人』なの」

「管理人って何ですか?何を管理しているんですか?」

「世界が正しい方向に向かっているかを管理するのがアタシたちの仕事なの」

「グリーン君も世界がどうとかって言ってたわ」

「彼は『秩序』を管理しているの。だから貴女を殺そうとしたの」

「メアリー様と秩序に何の関係があるのですか?」

「彼女が居ると世界の秩序が乱れてしまうの。あの子は世界を守りたいの」

「どうしてメアリー様が居ると世界が乱れてしまうんですか?」

「あなたたちは物語に触れた時に『自分だったらこうするのにな』って思った事は?」

「しょっちゅうあります。自分がこの場にいたら主人公を助けられるのにとか」

「メアリーさんはそれを本当にしてしまっているの」

「え?どう言う事ですか?メアリーが?」

「つまり、コイツはメアリーであってメアリーでないって事か?」

「そんな事ってあり得ますの?」

「にわかには信じがたいです」

 皆にはいまいち話が飲み込めていないようだったが、私には分かった。


「信じられないでしょうけど、この世界は『物語の世界』なの」

「物語?つまり僕たちは物語の登場人物と言う事ですか?」

 エドワードはアレックに尋ねた。にわかには信じられないと言った様子だった。

 普通、誰でも自分が生きている世界こそが現実だと思うでしょうからね。

「そうよ。あなたたちには本来、決められた運命や役割があるの」

「決められた役割ってどんな役割ですか?」

 ジェニファーは怖々アレックスに質問をした。

 自分たちにとんでもない運命が待ち受けているかもと思ったら怖いのだろう。

「そうね、例えばエドワードさんはメアリーさんを嫌うはずだったの」

「僕がメアリーを?そんなはずありません。僕は彼女を愛しています!」

 エドワードはアレックスに抗議した。

 だって大好きな人が本当なら嫌いなはずなんて訳分からないものね。

「そうね、貴男の感情は嘘偽りのない本物よ。でも、そうじゃない世界もあるかも」

「どう言う意味ですか?良く分かりません」

 そりゃそうよね。いきなり『平行世界』とか言われても意味不明よね。

 でも、私には徐々に話が飲み込めつつあった。

「何かの歯車が少し違っただけで運命は大きく変わると言う意味よ」

「つまり、僕たちの今の世界は歯車が狂った世界だと?」

「そう言う事ね。この世界は本来の姿とは少しだけ違うの」

 アレックスは少しと言ったがかなり違う事を私は知っている。

 本来なら私は皆から憎まれているはずだったのに、こんなにも味方がいる。

「グリーンはそれを元に戻そうとしているのですね!?」

「そう、だから狂いの原因であるメアリーさんを排除しようとしたの」

「メアリー様は運命を変えてしまったのですね!?」

 だんだん皆にも話が飲み込めて来たようだった。

 私が自分の運命を変えるために皆の運命を狂わせてしまったのだ。

「そうよ、メアリーさんは本来ならば処刑される運命にあったの」

「処刑っ!?メアリーは罪を犯すと言う事ですか!?」

「そう、だからその運命を変えるために彼女は足掻いてもがいたの」

「だからグリーンはメアリー様を殺そうとしたんですね?」

「彼女を排除すれば運命が元に戻ると思ったみたいなの」

「そんな事したって今更運命が元に戻るわけねぇだろ?」

「そうね、だからあの子たちは世界を終わらせる事にしたの」

「……え?」


 え?世界を終わらせるってどう言う意味?何が起ころうとしているの?

 私には世界が終わるとはどう言う事か分からなかったが、猛烈に嫌な予感がした。

「ちょっと待って!アレックスさん!!世界が終わるってどう言う意味!?」

「言葉通りの意味よ?始まりがあれば終わりがある、当然の事でしょ?」

 アレックスは特に慌てた様子もなく当たりまえのように答えた。

 どうしてこの人はこんなに落ち着いて居るの?世界の終わりなんだよ!?

「何でそんな大切な事を黙ってたの!?急いで止めなくちゃ!!」

「……儀式は教会で行われているわ。円盤が世界を終わらせる為の鍵よ」

 アレックスはそう教えてくれた。とにかく円盤をなんとかすれば良いのね?

 私は気合いで立ち上がった。

「皆!急いで教会に行きましょう!!」

「世界の終わりとかいまいちピンと来ませんが、メアリーが行くなら行きましょう」

「あのグリーンって野郎には借りがあるからな」

「わたくしも行きますわ!儀式とやらを止めましょう!!」

「このまま皆さんとお別れなんて嫌です!」

 エドワードもジョージもソフィアもジェニファーも力を貸してくれるようだ。

 この四人が居れば心強い。私たちは音楽室を後にした。

「……さて、最後の見せ場よ?しくじらないようにね」

 アレックスはそう言うと音楽室から音もなく消えた。

 まるでアレックスなんて人物は最初から居なかったかのようだ。

「皆、つらいだろうけど頑張って!」

「お前が一番キツそうなしてんだろうが!!」

「メアリー様!やはり一度お休みになった方が……」

「ありがとう、ソフィア。でも、そんな時間はないわ!」

 儀式とやらにどれだけの時間が必要なのかは教えてもらわなかった。

 しかし、急ぐに超したことはないだろう。

「でしたら僕が抱えて走りましょう!」

「お前のひ弱な身体じゃ背負っても無理だろ?」

「私、そんなに重くないわよ!!」

「皆さん!誰か立っています!!」

 私たちが教会へと走っていると、それを待っていた人物が居た。

 その人物はさっきまでの制服からローブのような物に着替えていた。

「案外早かったな。もっと待つものだと思っていたぞ?」

「グリーン君!!」


「ここに来たと言う事はアレックスから話しを聞いたと言うわけか」

「この世界を終わらせたり何かしない!!」

「出来るものならやってみろ」

 グリーン君は音楽室の時と同じように拳法の構えをした。

 だが、さっきとは同じ展開にはならなかった。

 私とグリーン君の間に割って入った人物が居たからだ。

「てめぇの相手は俺がしてやるよ!」

「ジョージ!」

 ジョージは腰から剣を引き抜くと高めに構えた。

 彼は一人でグリーン君と戦おうとしているのだ。

「ここは俺に任せてお前らは先に行きな」

「……でもっ!」

 ジョージを一人で置いていく事なんて出来ない!

 グリーン君の強さは私自身が戦って先刻承知済みだからだ。

「君一人に良い格好なんてさせませんよ?ジョージ」

「エドワード!?」

 何とジョージだけではなくエドワードまでもがグリーン君を戦うと言い出した。

 二人の背中は私に先を急ぐように言っていた。

「メアリー様!早く教会へ!!」

「でも、二人がっ!!」

 このままじゃ二人が殺されちゃうかも知れない!

 世界を救っても、二人が居なかったら意味ないじゃない!!

「二人ではありませんわ、三人ですわ」

「えっ!?ソフィアまで!?」

 何とソフィアまでもがジョージやエドワードと肩を並べてしまった。

 どうしてこんな時にこうなっちゃったの!?

「これで三対一、圧倒的にこちらが有利ですわね?」

「それがどうした?」

 グリーン君は音楽室の時と同じように床をダスンッと鳴らした。

 さっきはそれでエドワードたちは動けなくなってしまった。

「……床に虫でも居ましたか?」

「さっきと同じようには行かないみたいですね?」

 だが三人には何の変化も無く、平然と立っている。

 アレックスさんが何かしたの?

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