第28話
「国に居られなくなったら出て行けば良い」
「出て行ってその先はどうする気なの!?」
国から出るなんて簡単に言ってるけど、そんな気軽に出来る事じゃない。
見知らぬ土地で生きていかなくてはいけないのだから、とんでもない苦労をする。
「また、一からやり直すさ」
だが、ジョージの目にはそんな恐れは全くなかった。
「俺にはこの両腕がある。地位も名誉も自分の力で一つずつつかみ取れば良い」
ジョージは自分の力だけで爵位を手に入れた。
知らない土地に行っても、また同じ事が出来ると考えているのだろう。
「俺はお前さえ居れば何度でも立ち上がれる」
ジョージ、本気なの?本気でエドワードと決裂する気なの?
私はジョージにとって何なの?そこまでするような女なの?
「それを教えてくれたのはお前なんだからな」
「冗談はよして!」
私はジョージは私をからかって面白がっているのだと思った。
いや、本当は思おうとした。
「本当に冗談だと思うか?」
「どうしちゃったの?今日のジョージ、変よ?」
「……その様子だと本当に気付いちゃいねぇみたいだな」
「気付くって何?何の話しをしてるの?」
嘘である。私は本当はどこかで彼の気持ちに気付いていたのだ。
でも、気付かないふりをしておけば今の関係を保てると思っていた。
「お前の事を好きなのは王子サマだけじゃねぇって事だ」
「……え?」
でも、こんな場所に追い詰められて目の前で気持ちを伝えられたら逃げられない。
どんな鈍い系の主人公でもここまでされて気付かないわけがない。
「俺も最初はこんなつもりじゃなかったさ」
ジョージがこんな思い切った行動に出たのは、さっきのやりとりを見たからだろう。
エドワードに顔を赤らめる私を見て、彼の中に焦りが生まれたのだ。
彼から心の余裕を奪ったのは他でもないこの私だ。
私が今まで決断を先送りにし続けたせいでこうなったのだ。
「だが、いつ頃か知らねぇが俺は自分の本当の気持ちに気付いちまった」
「……それって」
「俺はお前が欲しいんだ。メアリー」
私は彼の目を覚悟を決めて見た。
彼の目は真剣そのものだった。さっきのエドワードと同じように。
「……ジョージ」
この状況でどうしたら良いの?私は何をするべきなの?
エドワードの気持ちに応えればジョージは深く傷つく事になる。
ジョージの想いに応じればエドワードを裏切る事になる。
でも、ここまでなって答えを出さないなんて言うのはただの逃げだ。
「私は……その……」
私には二人を天秤に掛けるなんて事は出来ないよ。
どちらも私にとってとても大切な掛け替えのない人なのだから。
でも、二人は秤に掛けられる事を望んでいる。
「何を勘違いしているんだ?お前たちは?」
「!?」
不意に私たちの世界に割って入る存在が居た。
赤みがかった茶髪のその少年を私は先ほど生徒会室で見た。
「グリーン君!?」
「……まさかこのタイミングで現れるとはな」
そう言うとジョージは私から離れてグリーン君に対峙した。
今更気付いたんだけど、私たち以外誰も居ないんだけど?
「お前も攻略対象ならそれらしくしたらどうだ?ジョージ・ジョンソン」
「攻略対象?面白いな、俺はだれに攻略されるんだ?」
ジョージはどこからか剣を取り出した。あんなのどこに隠し持ってたの?
「……ほう、風で隠していたか。見た目の割に器用なヤツだな」
「コイツを一発で見破るなんてな。お前、ただ者じゃねぇな」
「どれほどの実力か手合わせしてみたいところだが、今はそんなつもりじゃない」
グリーン君はポケットに手を入れたままの状態で話しをすすめた。
だが、それでも絶えず私に殺気を向けているのが肌で分かった。
「ジョージ・ジョンソン、お前が愛するべきはそこに居るバグじゃない」
「バグ?世の中には虫と人の区別もつかないヤツが居るみたいだな」
ジョージは私を隠すようにグリーン君と私の間に入った。
二人はこんなところで戦う気なの?なんとかして止めなくちゃ!!
「待って!グリーン君、バグってどう言う事?」
「バグはバグさ。お前だって良く使ってた言葉だろう?」
グリーン君の言う『バグ』と言う言葉を私は前世で耳にした事がある。
「バグってあのバグ?」
私の知る『バグ』とはプログラム用語のバグの事だ。
ゲームには必ず1つはバグがあるものだ。残機増やしバグとか。
グリーン君も私と同じ事を言っているの?
「そうさ。お前はこの世界にとってのバグ、認められない存在なんだ」
「だから私を消すって事?」
「話が早くて助かるぞ」
バグは大抵の場合、好ましい存在ではない。
特にゲームを作った人たちからしたら、憎むべき存在だ。
バグは見つけ次第消すのが当たり前だ。
「おいメアリー!何の話しをしてるんだ!?」
「グリーン君は冗談じゃなくて本気で私を消そうとしてるって事よ」
「オレの役目はお前のせいで狂った歯車を正す事だ」
グリーン君はなぜゲームの事を知ってるの?
もしかして、グリーン君も私と同じような転生者だって言う事?
でも、だとしたらなぜ私を消そうとするの?
「さあ、ジョージ・ジョンソン。お前は本来の場所へ戻れ!」
「俺の本来の場所だと?何を訳の分からねぇ事を言ってやがる!」
「お前が本来愛するべきはその女ではない。ジェニファーだ」
「何でいきなりジェニファーが出てくるんだ!?」
そりゃあジョージからしたら訳分からないわよね。
いきなり出て来た人に好きになる相手を指定されるんだもの。
何で従わなくちゃいけないのって普通は思うわよね。
「いきなりも何も最初からそう言う筋書きなだけだ」
「お前とエドワードはジェニファーに永遠の愛を誓うために存在するんだ」
「ハッ!断るぜ」
だが、ジョージは鼻で笑ってそれを拒絶した。
さっきの生徒会室で見たエドワードと同じように彼もグリーン君に従わない。
それが彼が自分で決めた意思だからだ。
「何?」
「王子サマがジェニファーになびくならそれで構わねぇ。だが、俺は断るぜ」
ジョージは私の手を取ると、自分の近くに私を引き寄せた。
そんな!いきなり手を掴むなんて!!心の準備が出来てないんだけど!?
「俺が心に決めた相手はここに居るじゃじゃ馬だけだぜ」
ジョージの答えを聞いたグリーン君は眉間にしわを寄せた。
ポケットから手を出し、肩から殺気をみなぎらせ始めた。
「お前の意思なんて聴いてない。俺はお前の運命の話しをしているんだ!」
「女子共が騒いでる『運命の相手』の話しだったら余所でしな」
ジョージにとってはグリーン君の話しなんて占いと同レベルらしい。
そりゃ運命の相手なんて言われても普通はそう思うわよね。
「俺が誰を好きになるかなんて俺自身が決める。誰にも口出しさせねぇ」
「そこの女には婚約者が居る筈だが?」
確かに、グリーン君の言うとおり私にはエドワードと言う婚約者が居る。
だが、ジョージはそんなのはお構いなしだった。
「それがどうした?婚約者って事はまだ結婚してねぇって事だろ?」
「その女はお前の気持ちを知りながら気付かないふりをしていたんだぞ?」
それもグリーン君の言うとおりだ。
私はジョージの気持ちに気付かないふりをし続けていた。
それに対してはジョージはどう思ってるんだろう?
「ああ、知ってるぜ」
「……なっ!?」
「え!?ウソっ!?」
あまりにもあっさりとジョージが言ってのけるのでグリーン君は面食らった。
そして、それと同時に私も驚きのあまり変な声を出してしまった。
どう言う事なのジョージ!あなたは知りつつも私を諦めなかったの?
「ガキの頃からそんな事はとっくに知ってた。コイツはしらばっくれてるってな」
「なぜそれでこの女に想いをよせ続けた!?なぜジェニファーに行かなかった!?」
グリーン君の疑問はもっともだ。
普通なら諦めて他の女の子に向かうべきところだがジョージはそうしなかった。
「関係ねぇさ。コイツが振り向かないなら振り向きたくなるようにすれば良い」
「振り向かせるだと!?なぜそこまで頑なに運命に背く!?」
ジョージがこんなにも強くたくましい男になったのは全て私のためだった。
彼は私を振り向かせようと、努力に努力を重ねてきたのだ。
「確かに、ジェニファーは悪くねぇヤツだ」
「そのはずだ!ジェニファーに惚れるようにお前たちは出来ている!!」
確かにジョージやエドワードが攻略対象でジェニファーは攻略する側だ。
ジェニファーは二人にとってとても魅力的に見えるようになっているはずだ。
だが、それでも二人とも私が良いと言ってくれる。
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