第21話
その後の学園生活は割と普通だった。
ただし、現実世界と同じと言う意味ではなく良くある設定と言う意味でだ。
「生徒会長様は今日もいらっしゃらないのですわね」
「エドワードは忙しいからね」
まず、この世界での生徒会はかなりの権力を持っている。
現実だったら生徒会にそんなに権限は無いのだが、やはりゲームだからだろうか?
エドワードは雑務に忙殺され私たちと会う機会が減っていた。
「エドワードさんって卒業した後は国王になるんでしょうか?」
「最終的には王位を継承するとは思うけど、卒業していきなりじゃ無いと思うわよ?」
「エドワード様が王位を継ぐ頃にはわたくしたちはどうなってるのでしょうね?」
ソフィアの何気ない一言で私はなんだか寂しい気持ちになった。
私たちのこの時間は残り少ないのかも知れない。
卒業したらみんなバラバラになってしまうのだろうか?
「メアリー様?どうかしたんですか?」
「え?ああ、何でも無いのよ。ジェニファー」
「そうですか?なんだか悲しそうな顔をしていました」
表情に出てたか。普段は上手く隠してるつもりなのに。
「大丈夫ですわ、メアリー様」
「ソフィア?大丈夫ってどう言う事?」
「メアリー様はわたくしたちが離ればなれになるのが心配なのでしょう?」
「あ、あはは~~。バレてたか」
ソフィアには私の気持ちが筒抜けだったようだ。
彼女って私よりも洞察力が鋭いから気をつけておかないとすぐ見抜かれる。
「例え卒業してもわたくしとメアリー様は従姉妹ですから会いに行けますわ」
「ソフィアさん……わたしは?」
「心配要りませんわ。ジェニファーさんはシーモア家とつながりがありますわ」
「そうでした!わたしもメアリー様に会って良いんですね!?」
ジェニファーは珍しい回復魔法の使い手だ。
それを見込んだ私のオリバーお父様が支援しているのだ。
だから、ジェニファーは私の実家と接点があるのだ。
「メアリー様はエドワード様とご結婚なさるし、ジョージも男爵になった」
ジョージは学園に入学する前に自力で男爵の位を手に入れた。
「今とは少し形は変わるかも知れませんがわたくしたちのつながりは続きますわ」
ソフィアは私とジェニファーにそう言ってくれた。
「それに、卒業した後の事を考えるにはまだ気が早いですわ」
「わたしもそう思います!未来ばかり見て今を楽しめなかったら損だと思います」
「ソフィア、ジェニファー、そうよね。未来なんてまだ分からないものね」
そうよ、未来も大切だけど今をエンジョイするのも同じくらい大切よね。
せっかく二度目の学生生活がやって来たのだから楽しまないと!
「メアリー様、ロベルタさんはいらっしゃいませんが『お茶会』などいかがですか?」
「良いですね!入学して初めてのお茶会、楽しみです」
「そうね。確か庭園に良い感じの場所があったはずだからそこでしましょう」
私たちはお茶やお菓子を持ち寄って『秘密のお茶会』を開く事にした。
天気は快晴で、気持ちの良いお茶会日和だった。
庭園の一角にある石造りのドームに私たちは集まった。
「良いところでしょう?私が偶然見つけたの」
「お庭にこんなところがあるなんて知りませんでした」
「でも掃除が行き届いているようですし、ほったらかしでは無いようですわ」
私たちは白いドームの中央にある白い石製のテーブルに茶器を広げた。
と言っても、私たちは何もお茶を楽しむために集まったのではない。
お茶会の形をとった『勉強会』がその正体だった。
「ではメアリー様、本日は何のお話をしましょうか?」
「このクッキー、おいしいですね!?」
「ジェニファーさん、クッキーはいったん置きませんか?」
「そうね、じゃあ『紫の人について』なんてどうかしら?」
お茶会の議題は以前から私たちが気になっている『紫の人』にした。
紫の人とは昔、私たちの前に現れた不思議な人物の事だ。
男性とも女性ともつかない見た目で、紫の髪をなびかせている。
「わたくしも前々からあの方については色々と考えてましたの」
「あの人ってそもそも男の人なんですか?女の人なんですか?」
「それを今から三人で考えましょう」
私たちは早速、紫の人についての意見を出し合った。
あの人って何のために私たちの前に現れたのかしら?
エドワードの時もジェニファーの時も私たちの前に出てきたし偶然じゃ無いわよね?
「メアリー様はあの方について何かご存じの事は?」
「あまり多くの事は知らないの。ごめんなさいね」
「いえ、お気になさらずに。一応訊いてみただけですので」
「お二人はあの人を何回か見た事が?」
「わたくしは一度しか見た事がありませんわ」
「私は二度見てるわ」
「メアリー様はいつご覧になられたのですか?」
ソフィアに尋ねられて私は記憶の糸をたどる事にした。
忘れもしない。あれは私が五歳の頃だった。
「一度目はエドワードに王城を案内されてる時だったわ」
「エドワード様に?ではエドワード様もあの方を?」
「ええ、そうよ」
私は二人にいきさつを話す事にした。
でも、私がエドワードを助けたって言うところは教えない方が良いわよね。
「私がエドワードと王城の庭を歩いていたら不意にあの人が現れたの」
「お城にあの人が出たんですか?じゃあ、お城の関係者ですか?」
普通だったらジェニファーの言っている事が正解だろう。
王城は誰でも入れる訳では無く、ごく限られた人しか入城出来ない。
「どうもそうでは無いらしいの。あの人を見たって言う人が誰も居ないの」
「誰にも見られずに王城に入る?そのような事が可能なのでしょうか?」
「普通に考えれば不可能よね?でも、私たちは間違いなくあの人を見たわ」
そう、今でもハッキリと覚えているわ。
あの人は音も無く私たちの前に現れ私たちに微笑んでいた。
「それであの人はメアリー様に何をしたんですか?」
「それが……手招きをしたわ」
「手招きと言うとわたくしたちが闇市に迷い込んだ時と同じような?」
「同じようなと言うより、全く同じだったわ」
私とエドワードはあの人に手招きをされてフラフラとついて行った。
あの時はまるで催眠術にでもかかったような感覚だった。
そして、それはソフィアと一緒に居た時も同じ事が起こった。
「それでお二人はどうなったんですか?」
「貧民街に連れて行かれたわ」
「ちょっと待って下さいませメアリー様。本当に貧民街へ参られたのですか?」
ソフィアが驚いた様子で私に尋ねて来た。そりゃあ信じられないわよね。
貧民街なんて貴族の令嬢や王子が行くような場所じゃ無いし。
「ええ、間違いないわ」
「貧民街ってどんなところなんですか?」
「ジェニファーさんが連れて行かれた闇市のよりもさらに治安の悪い場所ですわ」
「そんなに怖い所にたった二人で行ったんですか!?」
「ええ、今思い出しても本当に嫌な場所だったわ」
荒れ果てた貧民街はネットとかで見たスラム街そっくりだったわ。
ゴミが散乱し柄の悪そうな連中がたむろしてたわ。
「お城の近くにそんなところがあるなんて……」
「ジェニファーさん、それは違いますわ」
「え?」
ジェニファー、何か少し勘違いしてない?
何か王城のすぐ近くに貧民街があると思ってない?
「王城の周辺はちゃんと栄えています。貧民街は町の外れですわ」
「え?じゃあ、子供だけでそんな離れた場所に行ったんですか?」
「それが不思議なのよね。まったく苦じゃなかったの」
王城から貧民街まで数キロは離れてる。
それなのに、私たちは疲労をまったく感じていなかったの。
五歳の子供がそんなに歩いたら、普通はヘトヘトでしょ?
「そして、誰も歩いているお二人に気付いてないと言うのも気になりますわ」
「普通、王子様が歩いてたら誰かが見てる筈ですよね?」
「そうよね?だけど本当に誰も何も見てないらしいの」
私とエドワードが失踪したのを知った王城は大混乱だったらしい。
王城中をくまなく探し、衛兵にも私たちが外に出てないか確認したらしい。
それなのに、衛兵も通行人も誰一人私たちを見ていないと言った。
「それでお二人はどうなさったのですか?」
「貧民街で野犬に襲われたわ」
「ええ!野犬!?」
「そうなの。なんとかエドワードが撃退してくれたから良かったけど……」
「エドワード様が?野犬を?」
私の説明にソフィアが何か引っかかっている様子だった。
いや、本当は私がエドワードを助けたんだけどさ。そこ勘づかないでくれる?
「……なに?ソフィア?」
「いえ、何でもありませんわ。それでお二人はその後はどうなさったのですか?」
「エドワードが私を王城まで送ってくれたわ。婚約したのもその時」
なぜか分からないけど、急にエドワードから婚約を申し込まれたっけ?
「……なんだかあまりにも出来すぎてませんか?」
「ソフィアさん?出来すぎてるって何がですか?」
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