第13話
私は取り皿に盛られた料理をいただく事にした。
料理は肉も野菜も魚もどれもおいしくて、私はすっかり夢中になってしまった。
こんな場面をロベルタに見られたら、また叱られちゃうけど今は良いでしょう。
「ふふ、おいしそうに食べますね」
「あ、すみません。食べる事に夢中になってしまって」
「いえ、気にしないで下さい」
エドワードは飲み物を片手に私の顔を優しく見ていた。
そんなに見られたら食べにくいんだけど?言った方が良い?
何か話題があったら良いんだけどな。
「そういえばさっき何か言いかけてませんでしたか?」
「・・・・・・さっき?」
私は苦し紛れにさっきの話題を蒸し返してみる事にした。
何かエドワードが真剣な顔で言いかけてたけど、私の腹の虫が邪魔してしまった。
ちゃんと聞いてあげた方が良いだろう。
「ええ、確か『ジョージと喧嘩する理由がなんとか』って」
「あ・・・・・・ああ、その事でしたか」
しかし、エドワードは気まずそうな顔をして言葉を濁した。
え?何か私、まずい事を訊いちゃったの?
でも、先に言い出したのはエドワードの方だよね?
「何を言おうとしたんですか?」
「いえ、何でもないんです」
エドワードは笑ってごまかしていた。
やっぱり触れちゃいけない事だったの?じゃあ、なんでさっき言おうとしたの?
私は二人が喧嘩する理由をちゃんと知りたいんだけど?
「でも、私は二人にあまり喧嘩してほしくないです」
「・・・・・・それは難しいでしょうね」
「なぜですか?」
「ジョージは私から大切なものを奪おうとしているからです」
「大切なもの?」
「はい、世界にたった一輪しかない大切な花なんです。それ以外は言えません」
「・・・・・・そうなんですか」
結局、私はエドワードが何を言おうとしたのか聞けず仕舞いだった。
パーティーはつつがなく終わり、私は正式にエドワードの婚約者になった。
つまり、順調に破滅への階段を登っているわけだ。
私がエドワードの正式な婚約者となって月日が流れた。
相変わらず私は剣の稽古をしているし、エドワードやジョージと勉強もする。
ぱっと見で大きな変化はなかった。
「メアリー、七歳の誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、お兄様」
今日で私の七歳を迎える。これからそのお祝いと言うわけだ。
この世界では三歳、五歳、七歳は特別な歳でお祝いをするのが習わしだ。
エドワードが七歳になった時なんて国を挙げてお祝いをしていたくらいだ。
「良くここまで立派に育ってくれた!メアリー」
「お父様のおかげです」
「美しいレディーに育って私も鼻が高いわ」
「お母様の娘ですもの、当然です」
私の七歳の誕生日をお父様もお母様もお兄様もとても喜んでくれた。
ただ、当の本人である私は素直に喜べる気分ではなかった。
七歳になったと言う事は私の破滅が少し近付いたと言う事だからだ。
「今日は盛大にお祝いするぞ!ゲストも招待してある」
「・・・・・・お父様、いくら何でも大げさでは?」
「そんな事はないさ!こんなにおめでたいのだから!!」
「親戚にも声をかけてあるし、今日は忙しくなるわよ?メアリー」
「・・・・・・お母様まで」
この夫婦、異常なまでに波長が合う。喧嘩してるところなんて見た事がない。
夫婦仲が良いのは嬉しい事だが、ブレーキ役が居ないのはたまに困る。
二人そろうと『暴走列車』のように突き進んでしまうのだ。
「メアリーのお友達にも招待状を出してあるから大丈夫だよ?」
「・・・・・・ありがとうございます。お兄様」
親戚が集まって、友達が集まって私を祝うって言う事はどんな規模になるの!?
エドワードの七歳の誕生日や婚約発表パーティーよりは小さいとは思うけど・・・・・・
私はもっとささやかなお祝いで十分嬉しいのに・・・・・・
「衣装も今日のために新調しておいたぞ?メアリー」
「また新しいドレスを作ったんですか!?お父様!?」
私の衣装ダンスをパンクさせる気なの?この両親は!?
一度しか着てないような衣装もかなりあるんだよ?お金は大切だよ?
そんな風に心の中で叫んだが、シーモア家の人間に届くわけがなかった。
こんな甘やかされ方したら誰でも自己中心的な性格になるわ。
お昼を過ぎた頃から、ゲストたちが集まり始めた。
ゲストの中には私の見知った顔もいくらかあった。
「メアリー様、この度はお誕生日おめでとう御座います」
「同い年なんだから様なんてつけなくて良いわよ?ソフィア」
私はうやうやしく挨拶をする従姉妹のソフィアと話をしていた。
ソフィアは亜麻色の髪をしたお母様の姪で侯爵家の一人娘らしい。
記憶を取り戻す前も何度か顔を合わせた事がある。
「そんな、恐れ多いです。メアリー様は公爵家でしかもエドワード様の婚約者です」
「・・・・・・従姉妹同士なのだから、もうちょっと砕けても良いのよ?」
ソフィアは礼儀正しい娘でご両親からも厳しくしつけられていた。
ソフィアの家には男の子が居ないから、婿養子をもらわないといけないのだ。
そのために、ソフィアは『女の子らしく』育てられたのだ。
「いいえ、私などがメアリー様にそのような態度を・・・・・・恐れ多いです」
「・・・・・・ソフィア、ちょっと二人きりになれないかしら?」
「え?」
私は他のゲストに失礼して、ソフィアを私の部屋に招く事にした。
大人の目があるからソフィアは自分らしくなれないのではと考えたからだ。
同い年の女の子と二人きりになれば、少しは自分を出してくれると考えてみた。
「・・・・・・ここが、メアリー様のお部屋ですか?」
「ええ、そうよ」
ソフィアは私の部屋を物珍しそうに見回していた。
私の部屋は記憶を取り戻す前と後とでは雰囲気が変わっていた。
女の子らしい部屋と言うより、大人の女の部屋になっていた。
「・・・・・・メアリー様がこのように模様替えなさったのですか?」
「ええ。私、あんまりピンクのひらひらとか熊のぬいぐるみとか趣味じゃないから」
私の部屋にあった豪華な壺だとか像だとかは姿を消し、代わりに書籍が並んだ。
部屋の壁紙も気分で張り替えられていた物から落ち着いた白に統一された。
そこはもう『わがままなお嬢様の部屋』ではなくなっていた。
「オリバー様たちは何もおっしゃらないのですか?」
「お父様もお母様も私のやりたいようにさせてくれるから」
ソフィアは心配そうに私に尋ねてきた。
私がこんな女の子らしさが失われた部屋で過ごしている事を心配したのだろう。
きっと彼女のご両親ならこんな部屋は認めないだろう。
「・・・・・・少し、うらやましいです」
「私は・・・・・・自分のやりたいようになんて、させてもらえないので」
「・・・・・・ソフィア、ここには私たちしか居ないわ」
私はソフィアから少し話を聞いてみる事にした。
なんだか今のソフィアはエドワードやジョージに似たものを感じる。
周囲から『こうあるべき』と押しつけられているような、そんな風に見える。
「両親は私に『女の子らしくなりなさい』といつも言います」
「ランズベリー侯爵夫妻か・・・・・・」
ランズベリー家には男の子が居ないから婿養子が必要だ。
この世界では家督は男の子が継ぐのが習わしだからだ。
そのためにソフィアは『男性が求める女性像』を押しつけられている。
「毎日、裁縫やお茶やお花の勉強をさせられます」
「でも、ソフィアはあんまり好きじゃないのね?」
「・・・・・・はい、私はもっと世の中の事をよく知りたいのです」
この世界は女性の社会進出が遅れていて、政は男の仕事だと決まっている。
女性は子供を産み、夫を支え、家を守るのが役目だ。
そんな事を現実世界で言ったらどんなに炎上する事だろうか?
「それなのにお父様たちは『怪我でもしたらどうする!?』と自由にしてくれません」
「外に出るのもいちいち付き人が要るのね?」
私はロベルタと言う理解者が居るから比較的自由にさせてもらえる。
むしろロベルタは私に強さを求めているような気がする。
私に文武両道になって欲しいのだと思う。
「私は家の中でニコニコ笑ってるお人形にはなりたくないのです!」
「・・・・・・ソフィア、これから私と時々『お茶会』をしない?」
「・・・・・・え?お茶会ですか?」
「そう!誰にも邪魔されない『秘密の』お茶会。きっと良い勉強になるわ」
このニュアンスが伝わるかどうか、正直自信はない。
ソフィアがそのままの意味で受け取ったらどうしよう?私、アホ丸出しだよ?
頼むから気がついて、ソフィア。
「・・・・・・あ!そう言う事ですか?」
一瞬の間があった後、ソフィアは私の意図をくみ取ってくれたようだ。
これから私とソフィアはお茶会と言う名の勉強会を開いていく事となる。
「これからよろしくお願いします!メアリー様」
「こちらこそよろしくね、ソフィア」
あとはロベルタから何と言われるかだ。
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