第11話

「・・・・・・なるほど。ですが、この程度ではメアリーを理解しているとは言えません」

「あ?いきなり何言ってやがる?」

 エドワードはジョージに対して何の対抗心を燃やしてるの?

 どっちも私から見たらかわいいちびっ子にしか見えないけど?

 なんでゲーム本編じゃこういうやりとりが全部カットされちゃったの?

「ジョージは知らないかもしれないがメアリーがすごいのは勉学だけじゃないんです」

「・・・・・・剣術の稽古をしてる事とかか?それなら知ってるぜ?」

「・・・・・・なっ!?」

 エドワードは驚愕の表情を浮かべていた。そんなに驚く事?

 やっぱり女が剣を握るなんてこの世界じゃ非常識極まりないことなのね。

 エドワードもこんな乱暴な女が婚約者だなんてやっぱり困るものね。

「・・・・・・信じられない。僕以外の男に対して・・・・・・」

「あん?まさかお前、メアリーの事を誰よりも知ってるのは自分だと思ってたのか?」

「・・・・・・だって・・・・・・僕は、メアリーの・・・・・・」

「たまたま!たまたまジョージは知ったのよ!ね?ジョージ」

 エドワードは顔面蒼白でとてつもないショックを受けている様子だった。

 なんとかしてフォローしないとこのままじゃエドワードが折れてしまう。

 私は必死にジョージにアイコンタクトで口裏を合わせるように言った。

「え?あ、ああ。たまたま俺がメアリーの稽古場を見ちまったんだ」

「ほら!ジョージもああ言ってるし。大丈夫よエドワード」

 って言うかそんなにショック受けなくても良いんじゃない?

 私が剣術の稽古をしてる事をそんなに隠したいんだったら婚約破棄すれば良いのに。

 あ!でも、それじゃ私が口封じされるのか?

「どこまでも僕たちの間に入ろうって言うんですね?良いでしょう!」

「あ?やんのか?王子サマだからって手加減はしてやらねーぞ?」

「望むところです!僕・・・・・・私と一対一で勝負しなさい!ジョージ!!」

 ・・・・・・は?勝負?なんで?

 私には二人が勝負しなくちゃいけない理由がさっぱり分からなかった。

「私が勝ったらメアリーと関わるのはやめていただく!」

「じゃあ、俺が勝ったらお前はもうここには来るな。王子サマ」

「お二人とも元気がよろしいですね?ちょっとお外に出てはいかがですか?」

「ロベルタ!」

 収拾が着かなくなった状況に怒りの笑顔をたたえたロベルタが現れた。

 その凄味と言ったら、エドワードもジョージも一発で大人しくなるほどだった。


「はぁ~~、一時はどうなるかと思っちゃった」

 エドワードとジョージが帰った事を確信した私は大きなため息をついた。

 ロベルタが一喝したした後は二人とも大人しく授業を受けてくれた。

 小学校の先生ってこんな感じなのかしら?

「お疲れ様ですお嬢様」

「ありがとうロベルタ」

 ロベルタが出してくれたお茶を飲みながら私は頭の中を整理していた。

 エドワードとジョージがあんなに仲が悪いなんて、初めて知った。

 これから二人の間に入って取り持つのかと思うとそれだけで疲れてくる。

「しかし、一体何が原因でお二人は決闘だなんて言い出したのですか?」

「それが良く分からないのよ。急にエドワードが来たと思ったら喧嘩し始めたの」

「急に・・・・・・ですか?」

 ロベルタは顎に手を当てて首をかしげていたが、私だって何が何なのか・・・・・・

 でも、ロベルタは私の事を一番分かってくれている人だし出来る限り話さないと。

 え~っと・・・・・・何から話したら良いのかな?

「まず、私とジョージが勉強してたらエドワードが屋敷に突然来たの」

「はい、それはアンから聞きました。エドワード様は何の要件で?」

「それが良く分からないのよ。ジョージに向かって『これは何だ!?』って怒って・・・」

「ジョージ様に?お二人は勉強をしていたのですよね?」

「そうよ?だからジョージも『見れば分かるだろ?』って喧嘩腰で・・・・・・」

「つまり、エドワード様もジョージ様も最初から機嫌が悪かったと?」

「そう。ジョージもそれまで大人しく勉強してたのに、急に機嫌が悪くなって・・・・・・」

「それから決闘の話になったのですか?」

「ううん。途中までは三人で勉強してたの。私を挟んで二人が両隣で」

「メアリー様を挟んでお二人が勉強?喧嘩するほど仲が悪いのに?」

 ロベルタは私に聞こえない声でブツブツ何かを言っていた。

 こういう時のロベルタは頭をフル回転させているのだ。何を言っても聞こえない。

「・・・・・・お嬢様、喧嘩に至ったいきさつを教えて下さい」

「うん、分かったわ。私たち三人が教科書を読んでいたら・・・・・・」

 そこから私はロベルタが現れるまでに起こった事を覚えてる限り教えた。

 ロベルタはそれを真剣な顔で注意深く聞いてくれた。

「・・・・・・まさか、お二人はお嬢様の事を?いや、そう判断するには材料が・・・・・・」

 ロベルタは途中ブツブツ何か言っていたけど、結局『様子見』だと判断した。

 私、これからどうしたら良いの?


 エドワードとジョージの決闘未遂事件があって数ヶ月したある日。

「メアリーとても良く似合っているよ。流石は私たちの愛娘だ」

「この日のために超一流のデザイナーにお願いしただけはあるわ」

 オリバーお父様とイザベラお母様は私の格好を見て大はしゃぎだった。

 今日の私はいつもの豪華な服より更に豪華な服を着ている。

 それには、ある特別な理由があった。

「これなら誰が見てもエドワード王子にお似合いに見えるだろう」

「公爵家の娘としてどこに出しても恥ずかしくないわ」

 私がこんな格好をしている理由。それは今夜のパーティーが関係していた。

 今夜は王城でエドワードと私の婚約お披露目パーティーが行われるのだ。

 そのために私はこんな一回くらいしか着ないようなおべべを身にまとっている。

「お父様、お母様、少し大げさでは?」

「何を言っているんだいメアリー?むしろ控えめなくらいさ」

「そうよ?私たちとしてはもっとゴージャスにしたかったくらいよ?」

 この服、最初に見せられたデザイン案は今の数段派手だった。

 ありとあらゆる箇所にフリルがつけられ、マリー・アントワネットのようだった。

 それを私はもっと控えめにするように強くお願いしたのだ。

「これでも十分過ぎるくらいに派手だと思います」

「そうかい?メアリーがそこまで言うなら・・・・・・」

 お父様とお母様は少し残念そうな顔をしたが、一応私の意見を聞いてくれた。

 この夫婦は私の要望を基本的に何でも聞いてくれる。

 こんな育て方をしたらメアリーがわがままお嬢様に育つのも道理だ。

「しかし、今からパーティーが楽しみだなぁ・・・・・・」

「そうですね並んで立つエドワード様とメアリーはさぞお似合いでしょうね」

 お父様とお母様はパーティーが待ち遠しい様子だが、私は全然そんな気分じゃない。

 だってエドワードは遠くない将来、私を殺すかもしれないのだから。

 そんな男と婚約させられるなんて保険金詐欺の被害者の気分だ。

「しかし、今回の催しはずいぶんと急な話だったな?」

「きっとそれだけメアリーの事を気に入っているのですわ」

 実はこのパーティーの開催が決まったのは割と急な事だった。

 エドワードが私の家に通うようになってすぐに決まったのだ。

 貴族のパーティーはかなり大々的に執り行うからギリギリのスケジュールだった。

「メアリー?表情が固いよ?お腹でも痛いのかい?」

「これは緊張の表情です。お父様」


 夜になるまでの時間がやけに長く感じられた。

 緊張と不安で痛む胃を抱えて私は少しでも気を紛らわそうと必死だった。

 緊張のせいでいつもの倍ぐらいの回数、トイレに行く羽目になってしまった。

「いやだな~エドワードが急に風邪とか引かないかな~」

「現実逃避しててスピーチの内容を忘れないで下さいね」

「・・・・・・分かってるわよ」

 部屋に戻った私はロベルタに釘を刺されてしまった。

 ロベルタは良いな。だって私とは違って死刑にも国外追放にもならないんだから。

「そうとは限りませんよ?わがままなお嬢様に振り回されるのですから」

「・・・・・・人の思考を読まないで」

「カモミールティーでもお出ししましょうか?」

「・・・・・・お願いするね」

 どうやら、ロベルタはこれからも私の思考を読むつもりらしい。

 主人の思考を読む事は優秀なメイドに必須のスキルなのかしら?

 そんな事を考えながら私はハーブティーをあおった。


「お嬢様、そろそろ出発のお時間です」

「はぁ~、いよいよか~~」

「ドレスを踏まないように気をつけて下さいね」

「・・・・・・うん」

 私はお父様、お兄様、ロベルタと共に馬車に乗り込むと王城へと向かった。

 シンデレラはお城へ行きたくて魔法使いにお願いしていたけど私は逆だ。

 私は今すぐ市井の女にしてほしい。

「メアリー、顔色が悪いけど大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。お兄様」

 正直、今すぐ屋敷に戻りたい。それで布団に潜って今日を終わらせたい。

 だけど、そんな事をしたらどんな罪に問われるか分かったものじゃない。

 最悪、一族郎党皆殺しなんて事もあり得るかもしれない。

「メアリー、知らない異国に嫁ぐわけじゃないんだ。安心して良いんだよ?」

「心配していただき、ありがとうございます。お父様」

 お兄様やお父様から見ればこのパーティーはめでたい事この上ないだろう。

 国民にも明るい話題を提供出来るし、国の将来の安定にもつながる。

 この場においてこんな表情をしているのは私ただ一人だろう。

「メアリー、王城が見えてきたよ」

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