第13話 領内整備
「やっとちゃんとしたご飯が食べられるーー!!」
侯爵との交渉を終えてフラウロス領に戻ってきた私は、久し振りにお腹いっぱい味わうちゃんとした料理の味に涙を流していた。
コーンウェル家が借金を一旦肩代わりしてくれた上に、支払い開始を少し遅らせてくれたからね。
正直、侯爵家に乗り込んだらそのまま監禁されたりしないかとヒヤヒヤしたけど、優しい人で良かったわ。
ここまで良くして貰えるなら、少しくらい抱かれても……あ、いや、ごめん、やっぱ無理。
「良かったですね、ルリス様。私も嬉しいです。さあ、その溢れんばかりの喜びを共に分かち合いましょう」
「うん、ハグするくらいなら別に良いけど、どさくさに紛れてセクハラしないように」
というか、喜んでばかりもいられないのよね。
何せ、コーンウェル家が肩代わりしてくれたって言っても、あくまで一時的なもの。ちゃんとそのお金は耳を揃えて返さなきゃいけないし、それに……。
「領内の整備も大変だしね」
食事の傍ら、私は留守にしている間にミアがこなしてくれた仕事の一つ──領内の視察結果に目を通す。
うん、かなり酷いなぁ。
「ただでさえガタが来てた魔水菅が、この前の墜落騒ぎの影響で本格的にダメになったかぁ……」
「はい。現在は暫定的な処置として、町の中心に魔水の溜め池を設置、そこから必要な分を各自汲み出して利用して貰っています。当然ながら不便ですし、農家からはこのままだと仕事が出来ないと再三の陳情が届いております」
私の頭とお腹を撫でながらも、内容だけは真面目なミアの説明を聞き届ける。
私の計画としては、フラウロス領を魔導コアやその関連兵器、設備の製造業で発展させようと思ってるんだけど、今現在主流なのは農業だ。
仮に製造業を伸ばすとしても、農業はこの先もずっと必要な産業だし……何なら、ボロットの元になった農業用
そのための知識と技術を持った農家達を、ここで失うわけには行かない。
「すぐに魔水菅の修理を業者に依頼して。ひとまず、農地へ続く配管を優先的にね」
「構いませんが、資金は如何致しますか?」
「私がメビウスで出稼ぎに行ってくる。浄化の協力依頼がいくつかあったはずだしね」
胸にまで伸びてきた手を叩き落としながら、私は淡々とそう告げる。
お父さんみたいな貧乏男爵でも空島を見付けられたことからも分かる通り、案外この世界には無人の空島が数多く漂ってる。
そのほとんどに魔物が巣食い、各貴族家がそれぞれ一つくらいは浄化待ちの状態でキープしているのが普通だ。
有用な島ではあるけど、魔物が強力で浄化がなかなか進まない。
かといって、全く進まないまま放置し過ぎると、“浄化の見込みなし”ってことで他の貴族──特に、既に力を持っている上級貴族に優先権を持っていかれてしまう。
それを防ぐため、戦力に乏しい下級貴族達は、他の下級貴族に幾ばくかの謝礼と引き換えに浄化の協力を依頼するのだ。
そうすれば、たとえ浄化がほとんど進まなかったとしても、名目上は第三者である貴族から「間違いなく浄化作業は進んでいる」って証言も貰えるしね。
まあ、貧乏貴族同士の生活の知恵ってやつ?
「メビウスの力の宣伝にもなるし、一石二鳥ってやつね。ミアはその間に、新しく建設するコア製造工場で働いてくれる若者を募集しておいて。就労開始は来年の春からの予定よ」
メビウスの精霊を使った方が早いといえば早いんだけど、それじゃあお金が回らない。
経済発展には、雇用の確保と活発な金銭のやり取りが必須だ。
どうしても必要な時以外は、出来るだけ領民の手を借りて回したい。
「かしこまりました。では、そのように」
「お願いね。アイ、いる?」
『おりますよ』
声をかけると、どこからともなく妖精姿のアイが姿を表した。
これぞ神出鬼没ってやつか、なんて思いながら、私はアイにぴらりと一枚の紙を見せる。
「この前、ドラゴンからも私を守ってくれるって言ってたよね?」
『はい、一体や二体であれば問題なく』
「じゃあ、これも倒せる?」
私が見せた紙には、フラウロスから程近い場所にある、とある子爵家が浄化作業中の空島──そこに巣食う一体の魔物が描かれている。
その名は、コカトリス。
鶏と蛇を組み合わせたみたいな外見をしていて、強大な毒を撒き散らして大地を汚染する人類の天敵みたいな存在だ。
コレの討伐に、子爵が結構な懸賞金をかけている。
『余裕ですね。精霊に毒は効きませんし、メビウスが戦うまでもありませんよ』
「なら、こいつらは?」
続けて、私はパラパラと何枚も紙を並べていく。どれも、コカトリスと同じ空島に生息し、子爵から懸賞金をかけられた魔物達だ。
群れをなし、強固な防衛陣地を構築しているゴブリンキング。
巨大な体躯に鋼のごとき強度を誇る筋肉の鎧を持ち、岩をも砕く怪力と猿のように俊敏な動きを両立したグレーターオーガ。
その他にも色々と、金持ち貴族が大部隊を率いて討伐に乗り出すならともかく、伯爵位にも届かない貴族にとっては絶望的な相手が次々と並んでいくんだけど──
『どれも問題ありません。鎧袖一触です』
アイは、ノータイムでそう断言した。
「決まりだね。それじゃあ、人助けという名のお金儲け兼、宣伝作業に出掛けますか」
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