第6話 新たな問題

 精霊型AI、アイとの遭遇という思わぬトラブルに見舞われながらも、想定以上の成果で以て私は古代の空島──空中要塞“メビウス”を手に入れた。


 現在、メビウスはアイの使役する精霊達によって、仕上げとなる魔物掃討作業中。その間、私はアイと一緒に飛行船で待っていたミアのところへ戻っていた。


「古代の空中要塞……? いやはや、ルリス様には毎度驚かされますね。まさか、そんなものを見つけ出すとは」


「見つけたのはお父さんだけどね」


 真顔で褒めてくれるミアに、私はあくまで事実を述べる。


 けど、ミアは「何を言っているのやら」みたいな感じで肩を竦めた。


「手に入れたのは、紛れもなくルリス様です。本当に、昔からルリス様には敵いませんよ」


「あはは……」


 私は転生者であり、この世界に生まれ落ちた時からちゃんと自我があった。


 だからまあ、ミアが専属メイドになった五歳の頃なんて、ようやく体が満足に動かせるようになった辺り。それはもう、はっちゃけまくっていたんだよね。


 それこそ、覚えたての魔法を試そうと派手に暴発させて、火だるまになりかけたりとか。


『なるほど、マスターの後先考えない性格は、昔からというわけですね。把握しました』


「いや、ちゃんと考えてるから。変なインプットしないでよ、アイ」


『ではお聞きしますが……この後はどうするつもりだったのですか?』


 この後? と首を傾げる私に、アイは続けた。


『マスターは、メビウスが要塞であることも、私のような防衛設備が存在する島であることも把握出来ていなかったと推察されます。その場合、先の作戦のみで魔物を完全に掃討出来た可能性はほぼゼロです。僅かとはいえ魔物が残る島を手に入れて、どのように活用するつもりだったのかと問うています』


「ああ、それなら簡単だよ。って言って、貴族に売り付けようと思ってたの」


 はい? と、アイとミアのリアクションが重なった。


 わかってなさそうだったから、私は更に説明を続ける。


「いい? 王国法では、貴族は所有する空島の面積に合わせて税金を納める義務があるの。でも、それには一つ抜け穴があって、の」


「つまり……?」


なんて珍しくもないわ」


 浄化作業中は救援を求められない限り他の人間が手を出しちゃいけないって法律まであるから、実効支配を続けても誰も文句は言えないしね。精々、浄化の進捗を報告する義務があるくらい。


 その点、うちの親は面積そのものの数字を誤魔化すなんて、素人みたいなやり口だったけども。


 あんなの、すぐバレるに決まってるでしょうに。


「それを利用して、メビウスを“浄化が終わってるけど終わっていないことになってる島”と適当な貴族に思い込ませて、裏取引で大金をふんだくろうと思ってたわけ」


 命を懸けてまで大雑把に浄化したのは、単に島の外から見ても分かるレベルで魔物が溢れていたら、騙しようがないっていうだけだ。


 普通に上陸出来るくらいに少なければ、正直なんでも良かったの。


「詐欺じゃないですか」


「貴族なんてみんな詐欺師よ。第一、取引内容は正当よ? だって、ちゃんと“浄化作業中の島”って名目で売るんだもの、相手がどんな勘違いをした結果だろうが、こっちの非は主張出来ないわ」


『なるほど、マスターはバカなだけではなく下衆なのですね』


「評価酷くない?」


『客観的事実です』


 ねえ、この精霊、ちゃんと私にマスター権限くれたんだよね? 全然マスターのこと敬ってくれないんですけど?


「でもまあ、メビウスはこの通り、本当に完全浄化出来そうだからね。売る以外に色々と選択肢が出来たから、そっちで儲けることにするわ」


「売る以外の選択肢……?」


「にひひ、なーいしょ」


 私が口元に指を立ててそう言うと、突然ミアが胸に手を当てて苦しみ出した。


「ルリス様、今の可愛らしい仕草をもう一度やって頂けますか? 写真に残して家宝にしますので」


「却下」


 鼻血を流しながら真顔で頼み込んで来るミアを冷たくあしらうと、「そんな……」と崩れ落ちてしまった。


 うん、まあ、変態メイドのことは放っておいてと。


「それで、アイ。浄化作業は後どれくらいかかりそうなの?」


『最終チェックまで込みで、あと三日ほどです』


「なら、フラウロス領に戻る頃には終わってるね」


 メビウスって、島を空に浮かべるだけにしては強力過ぎるコアが揃っていたけど……なんと、その力を利用して島ごと移動出来るらしい。


 まさに、空飛ぶ移動要塞。古代人って凄い技術持ってたんだね、現代の魔法技術じゃ到底無理だよ。


「今後の作戦でメビウスの力は絶対必要になるから、しっかりお願いね」


『はい、それは良いのですが……一つ、メビウスとは別に気になっていることがあります』


「気になること?」


『そのフラウロス領です。現在、シングルコアで浮遊しているのですよね?』


「うん、そうだよ。それがどうしたの?」


『マスターが持ち込んだ魔導コアを、私なりに解析したのですが……現代の魔導コアは、古代のものと比べると、生産性の向上と引き換えに、性能及び耐用年数で大きく劣っていると考えられます。カタログスペック上では、メビウスに倍する面積の島をコア一つで飛ばし続けることは十分可能なはずですが……こちらにあるコアの劣化具合から推察するに、もう片方のコアが突然の常時フル稼働にそう何日も耐えきれるかどうか、少々怪しいのではないかと』


「…………」


 アイからもたらされた、思いもよらない計算外。

 最悪の可能性に、私はたらりと冷や汗が流れ落ちるのを感じた。


「だ、大丈夫!! 予定より随分と早く終わったし、きっとなんとかなるって!!」


『マスター。それは“フラグ”ですよ』


 嫌なこと言わないでよ、めちゃくちゃ不安になるじゃん!!

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