4月7日
深海の底
本編
「一枚目撮りまーす」
オリエンテーションを終えた私達は、クラス写真の撮影で校庭に集まっていた。天気は曇り。四月上旬の風は冷たく、おろしたての制服だけでは震えてしまう程だった。
「もっと内側に寄ってー」
隣りの子と目が合い、気まずさをごまかそうと笑みを作る。知り合って半日も経たない私達にとって、「適切な距離」というのは難しい。
「ねえ」
肩を叩かれて振り向くと、見覚えのある白皙の少年が立っていた。驚いて上げそうになった声を、すかさず呑み込む。
「見切れちゃうよ。もっと寄って」
そう言うと、彼は私の腕をきゅっと引っ張った。
カシュー。シャッターの心地よい音が響く。終了の合図が出て、皆がほっと息を吐いた。ひな壇を降りつつ目をやると、彼と視線が絡んだ。
「俺達、会ったことある?」
反射的に首を横に振る。彼は一瞬怪訝な顔をしたが、思い直したらしい。
「ま、いっか。名前なんていうの?」
彼は私の名前を聞くと、「よろしくね」と言って笑い、友達のもとへと駆けて行った。
やはり彼だった。受験の時に隣りの席で、なんとなく印象に残っていた彼。まさか同じクラスになるとは。きらきらとした泡が、ぷくりと胸に湧いた。
――名前、聞きそびれちゃったな。
雲が晴れ、次第に青空が広がっていく。私達を包む空はどこまでも高く、果てしない。
こちらこそよろしくね、と遠ざかる背中に向かって呟いた。
4月7日 深海の底 @shinkai-no-soko
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