まずこの作品で最も特徴的かつ全体を効果的に支配しているのは、詩のような文体です。それに加えて一話が掌編程に短いことで次へ次へと休むことなく読めてしまうのには、全て読了した今感嘆させられます。
内容として、余分なものは描かれること無く、ひたすら主人公とヒロインとの淡くリアルな恋模様が先述の詩なタッチで描きだされます。物語のなかだけだと思っていた薄青のベールを纏った心奪われる恋の唐突な飛来が、物語そのままの甘さと暗中模索感で現実にも意外に降りてくることは、一度でも恋い焦がれる一種狂気の沙汰な愛情を覚えたことのある人であれば理解できるでしょう。
ですがこの作品を最も至高たらしめているのは、紛れもなく途中での驚くべき落差でしょう。それがあることによってこの作品は『一夏の恋』という使い古されたテンプレートでは説明不能となります。ここから幾文字かけて説明したとしても、陳腐になってしまうので辞めておきます。なぜかというに、この作品を完璧に表現するには、作品を全てコピーしてペーストするほか方法がないから。
恋の概念を知る人も知らぬ人も読むべき作品です。
1 読む前の印象や予想など(表紙やあらすじなどから想像したこと)
タイトルについて考えてみた。”溶けそうな”は暑さを表しているのだろうか?
それとも、溶けそうなくらいぼーっと魅入ってしまったのだろうか? 色んな意味に捉えることのできるタイトルだなと感じた。
今まで見たことのない女性が隣に居て、しかも窓が開いている。ロマンチックな展開を予想してしまう。
2 物語は(どのように始まっていくのか?)
主人公が恋に落ちるところから始まっていく。こんなシチュエーションがあったらロマンチックだなと感じるが、現実的な部分もあって面白いと感じる。
偶然に感じることも、実は必然であり運命であるなどという人もいるので、この主人公の母があえて部屋にエアコンを入れなかったことで、主人公は恋に落ちるきっかけを得たとも言えるだろう。さて、主人公の恋は叶うのだろうか?
3 良かったところ。印象に残ったところ。好きなセリフなど。
・恋をすると少し離れているだけでもソワソワしてしまうものだと思う。片思いならば切なさもあるだろう。主人公の気持ちがとても伝わって来る。
・相手のことがとても気になるのが”好き”という感情である。例えば饒舌になったり、顔色を窺ってしまったり、言動が気になってしまったり。過剰反応してしまうものだと思う。彼にもそういう行動が見られ、上手く行けばいいなと感じた。
4 作品の感想
後から彼女の事情について分かっていく。現実世界でも、誰かと結ばれるということは奇跡に近いものだと思う。互いの気持ちが同じである確率。ずっと思い合える確率。そしてその気持ちを伝えられるかどうか。
人の気持ちは簡単に変わってしまうものでもあるし、ずっと変わらない人もいるだろう。しかしそれでも平等なのは”恋愛”は一人でするものではないということ。相手の傷を受け止めるということは、簡単なことではない。その傷が深ければ深いほどに。どんなに想いを貫いても、一人ではどうにもならないこともある。それでも、主人公はきっと選び取るのだろう。
恋をして彼女を想う気持ちのとても伝わって来る作品であると感じた。
5 物語のその先を想像して
彼女の抱えているものを知り、主人公は決断する。しかしここからが本当のスタートなのではないだろうか? しかし彼ならば、乗り越えられると感じた。
あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。