第8話 メッセージ
弁当を食べ終えると榎本は小説を読み始めたので、俺もスマホを取り出して『GFN』を開く。食後は各々好きなことをする時間にしているのだ。
すると新着メッセージ一件、と表示されている。
ブルーム:ありがとー 撮影もイベントも頑張るよ!
藤塚からの返信に、思わず頬が緩む。俺のメッセージに気づいてくれた。そのことがただ嬉しくて。俺は忘れないうちにフレンド支援で、藤塚ことブルームの体力を回復させた。
今頃、藤塚は撮影の最中だろうか。今日撮影した写真は、来月いや再来月発売の『IRIS』に掲載されるのだろうか。ちょっと買って読んでみようかな、と密かに思う。
きもいかな? いや、でも別に応援的な意味で買うだけだし大丈夫だろう。SNSでも写真は見られる。でも、もっと彼女のことを知りたいと思ってしまう。
イベントクエストを何回かこなし、体力がなくなったので『GFN』を閉じてかわりにメッセージアプリを開く。新太に連絡を取るためだ。同じ学校だから直接声をかけることもできるが、人気者を捕まえるのは骨が折れる。メッセージの方が楽だ。
新太のアイコンをタッチしてトーク画面を開き、教科書のお礼はフライドポテトの奢りで、と打って送った。
するとすぐに、OKというスタンプと合わせて、今日の放課後はどうだ? と返事が来た。
部活は大丈夫なのか? と返すと、今日はミーティングだけなんだ、とのこと。
今日は藤塚もいないし俺も暇なので、今日の放課後に決定だ。俺もOKというスタンプを押して画面を閉じた。
ミーティングが終わるまで待つ必要があるから教室で待つことにしよう。早々にミッションクリアできそうで安心する。俺はしなくてはいけないことを先延ばしにするのが嫌なのだ。落ち着かないから。
放課後新太を待っている間、俺はスマホでぼんやりバイト求人サイトを見ていた。
高校生OK、未経験歓迎、アットホームな職場ですといった見出し。基本飲食系が多い。どれも似たような内容で目が滑る。榎本が言った本屋の求人は通える範囲ではヒットしなかった。
成績が良いわけではないので、テスト勉強に差し障りがあると困る。よって、あまり長時間のバイトはできそうにない。家と学校から遠いのも大変そうだし。
正直、自分が何がしたいかわからない。だからどの求人もピンと来ないんだろう。案外バイト探すのって難しいんだな。
つい、ため息が漏れる。お金を稼ぐためのスタート地点に立つことさえ、遠い道のりになりそうだ。自分でやりたいことを見つけてお金を稼いでいる藤塚は、やっぱり俺よりもずっと大人びていて、しっかり先を見据えていて、遠い存在だと感じてしまう。
俺も自分で稼ぐことができるようになったら、もう少し自信が持てるんじゃないかって思ったのに。情けない。
そもそも動機が不純なのだ。経済的に少しでも自立することで、藤塚にほんのちょっとでも近づけたら、と思ってしまっているから。
「晃太。おまたせっ」
新太が息を切らせながら現れた。額に汗が滲んでいるものの、爽やかな印象を与える。
「新太、ミーティングお疲れ様」
俺はそう労いながらスマホをしまい、立ち上がった。
「思ったより長引いてさー、今度の練習試合結構強いとこなんだよなぁ。もうみんな気合い入りまくりで」
「へぇ……」
隣を歩いていると、よりはっきりわかってしまう。新太は男の俺から見てもかっこいいことに。顔やスタイルが良いだけじゃない。なんだろう、きっと藤塚と同様に人を惹きつけるカリスマ的魅力があるんだと思う。流石星5。最高レアは違う。
……羨ましい。
俺が新太だったら、藤塚の隣に並んでも恥ずかしくない。秘密を拠り所とせず、堂々と話しかけることだって出来るかもしれないのに。
「ポテト、駅前のとこでいいか?」
「……ん、あ、ああ」
「なんか元気なくね? どした?」
「別に。それより早く行こーぜ。腹減った」
「おう!」
新太は性格も良い。もし好きな人を聞いて、藤塚咲良、と答えられたらどうしよう。
藤塚は新太のことをよく知らない、と言っていた。知ったら、好きになるかもしれない。
そんな不安を振り払うように、俺は新太を急かした。
新太は俺にポテトのLサイズを奢ってくれた。こんな食えない、と言うとじゃあシェアしようということになり、お互いにジュースを頼む。
新太はさらにハンバーガーを追加した。流石運動部、胃袋の大きさが違う。
「さぁ食ってくれ!」
にこにこ笑顔でポテトをすすめられる。
「なんか、悪いな。教科書のお礼ってだけで奢ってもらっちゃって」
「いや、助かったから、ほんと。それに、久しぶりに晃太と話したかったからさ。小中高同じなの、晃太ぐらいだし。これからも仲良くしようや!」
「……ああ」
屈託のない昔と変わらない笑顔に、安心する。それと同時に小学生の頃は、背丈も同じくらいで、こんなに大きな差はなかったのにな、なんて少し寂しい気持ちになる。まぁ身長だけの話で、新太は元から人気者だったけど。
おっと、感傷に浸っている場合ではなかった。根室からのミッションをクリアしないといけない。
「あー、あのさ、新太って……」
「ん?」
ハンバーガーを頬張りながら、新太が俺を見つめる。
「その……気になる子とかって、いたりする?」
聞き方下手くそすぎだろ! と自分にツッコミを入れたくなった。直球すぎる。せめて、部活の話をして、そこからマネージャーとか、応援に来る女子とか、そういった子で気になる子いる? みたいな段階をふんで聞くべきだろ!
これじゃ不自然すぎる。どうしよう、と思った時だった。
「気になるって、恋愛的な意味で?」
低めの冷静な声音で聞き返されたので、驚きつつ頷く。新太は短い髪を軽く掻いた後、口を開いた。
「うーん……いる……にはいるんだけど、晃太、言いふらしたりしないよな?」
どくん、と心臓が跳ねた。
これ、聞いてしまって良いのか?
根室にこの後の新たな発言を伝えたら、絶対に他の女子にも話は広がるだろう。
それに、てっきり俺は新太には気になる子なんていないと思っていた。
部活で忙しいし、そんな余裕ねーよとか、恋愛なんて興味ない、といった回答だろうと思い込んでいた。
俺が黙りこくっているのを見て、新太は、ははっと笑った。
「その顔は、誰かに頼まれたんだな? 聞いてこいって」
見透かされている。こうなっては、もう正直になったほうがいいだろう。俺はクラスの女子に頼まれた、と素直に白状した。
やっぱりな、と新太はまた笑った。そして今度は真剣な面持ちになって、
「うーん、それじゃあ、誰にも言わないって晃太が誓うなら、教える」
と告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます