第17話 千切れた糸

夏の大会、メインの試合会場である体育館の嫌に高い天井を見上げる。

柱の上に埃が溜まってるのが目につく。そして、頭上はるか遠くにある照明は目を痛めつけるかのようにギラついている。


「二高!二高!」


高校名を連呼する応援団の声は私にも聞こえている。

ただ、私がちょっとだけ試合に乗り気になれないだけで。


それでも、僕は決勝リーグを勝ち残ってここにいる。


「北条、上の空だがどうした?」

「呆気ないものだなぁ、と思いまして」

「まだ優勝したわけじゃない、気を緩めるな」

「はい」


優勝して、何になるのだろう?

内心、そう呟いた。


先生に喜んでもらえるわけでもないのに、よくやったなって認めてくれる仲間もいないのに。ただ試合に勝って、誰かの夢を遮って、僕は一体なにをしているんだろう。


これで最後にしよう。

もう、昔の総司である僕に引きずられている必要はないはずだ。北条薫として新たに歩むのなら、これとも縁を切るべきだろう。今日のこの試合結果で、お世話になった先輩への義務は果たした。


「北条?どうした?」

「一つ、決めました。私も歩いていかないといけませんから」

「そうか」


既に敗退をして、私の応援に回ってくれている大曲先輩に尋ねられた。


「先輩、いってきます」

「あぁ、待っててやる。行って来い」


形式的なものとわかっていても、その言葉が泣きたくなるぐらい嬉しかった。


そして、試合後、私の目の前には鈍い光を放つトロフィが置いてある。

やはり、私はそのまま負けることはなかった。


私は勝って何を手に入れたんだろう。何のために、誰かの道を妨げたのだろうか。昔のように、正当な理由を掲げることができない。わからない、わからないことだらけだ。


「あはは」

「優勝しておいて、そんな乾いた笑いとは。感慨も何もねぇな」


耳になじむ声が、それでも、ここにいるはずのない人の声が背からかけられた。

そんなわけない、彼の心残りは断ち切ったはずだから。

だから、彼がここにいるはずがない。


「おい、無視ったぁ、ひでぇじゃねぇか」

「どうしたんです?」

「どうしたも、こうしたも、優勝を祝いにきてやったんだよ」

「勝ちを決めたのはさっきなんですけど」

「お前が負けるはずねぇ」


妙に確信めいた、自信のあふれる目で人の勝利を宣言するとは、さすが元名軍師とでも言えばよいのだろうか。そして、なぜ、この人が、ここに来たのだろう。


もしかしたら僕をまだ覚えているのだろうか。ただの知り合いだとしたら、こんなにも私の勝ちを信じてくれるものだろうか?


「お一つ、聞かせてもらえますか?」

「何をだ?」

「…僕の名前は?」

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