明日妹が出来る事になったんだが
それから時間は流れ、普段通りならホームルームが始まる時間を過ぎており、転校生が来る事は確実視される様になっていた。
そうなればもちろん教室はお祭り状態で、ガヤガヤと騒がしい音が教室を満たしている。
そんな中俺もその例外ではなく、隣の麻美と会話を繰り広げていた。
「思ったんだけどさー、転校生の席ってうちらの後ろじゃない?」
そう言って麻美は視線を後ろに飛ばし、麻美の後ろの空席を指差す。
俺ら二人の後ろの席は二つとも空席であり、少しばかり寂しい気はしていた。
四人班を作る時は二人になっていたため、効率が悪く、転校生が来るのなら大歓迎だ。
あわよくば頭が良い奴がいいな。
「まぁ空席が俺らのとこしかないからな。必然的にそうなるだろ」
「えーーじゃあ何話そっかなーー。女子だったらやっぱり恋バナとか?」
「......お前初対面のヤツに恋バナするとか頭おかしいぞ。普通にこの学校の事とか話せばいいんじゃないか?」
「さっきのは冗談に決まってるじゃん。康太って冗談にマジになる人だっけ?」
「今の冗談だったのか? 冗談なら分かりやすくトーン変えたりしてくれ」
何て他愛のない話をしていた、その刹那。
俺らの教室の扉が横にスライドされ、一気に教室は静まり返る。
クラス全員の視線は扉に向かい、担任の後ろに付いてきている美少女......に全員釘付けになった。
無論俺も例外ではない。
目の前に立った担任の横に転校生が立ち、担任は口を開く。
「おはよう。今日はこのクラスに新しい人が入ってくる。みんな暖かく迎える様にな」
「私の名前は神楽美咲と言います。これからよろしくお願いします」
転校生の容姿は色白の肌に薄紫のセミロングヘアでかなりの細身。
一言で言うと美少女と言えばシックリと来るだろう。
美咲は淡白な挨拶を放つと、担任から指示された席へと向かった。
そこは麻美の後ろの席で、俺らと同じ班で過ごす事となるのだった。
それからホームルームが終わると案の定美咲は質問攻めに遭っており、クラス全員興味津々だった。
休み時間が終わり授業が始めるとみんな話しかけたくても喋れないため、美咲にとっては安らぎの時だろう。
しかし俺の隣の席にいる麻美はそうはさせないつもりみたいだ。
先生の隙を見計らっては後ろの美咲に話しかけている。
そんな麻美を横目に俺は淡々と授業に耳を傾けていたのだが。
「よーしここからは班活動にするぞー。四人班を作れ」
そんな教師の言葉で皆は席を移動させ、四人班を作る。
空席のところも一応形だけは四人班を作っておく。
そうして俺は転校生と初めて面と向かって話す機会が出来た。
「美咲の前の学校ってどんなとこだったのー?」
「あんまりここと変わらないね」
「......どこの高校だったんだ?」
俺は頃合いを見図り、そう質問をしてみる。
ここ最近で一番勇気のいる場面だったなと、俺でも思う。
......だが俺の質問に対して美咲は答える素振りを見せず、俺に視線すら合わせようとしない。
少しばかり気まずい空気が流れてしまい、それを打破しようと麻美は慌てた様子で言葉を放つ。
「ほら、やっぱり初対面だと緊張するしねーー。うちも高校入学したばっかの時はそうだったし?」
「......いや、そういう訳じゃないけど」
美咲の顔は笑っていなかった。
俺は早々転校生に嫌われてしまった様だ。
......俺、何かしただろうか。
初めて喋ったし、会ったこともなければ話したこともない。
容姿だって清潔感に気を使い、ちゃんと手入れしている。
俺にはあんな態度を取られる理由がわからなかった。
「ただいまーー」
と俺は誰もいないであろう家に対していつも通りに言葉を放つ。
......いつもなら、返事は来ない静まり返った家。
だが今日は例外みたいだった。
「帰ったか康太! 今日は重大発表がある! 早く来てくれ!」
そんな威勢のいい声がリビングから廊下を伝って聞こえて来る。
親父がいると言う嬉しさと、重大発表という不穏な空気とで俺の感情はぐちゃぐちゃだ。
何年も早帰りしていない親父が今日は俺よりも早く帰宅しているという事はそれなりに重大と言う事はわかる。
俺は恐らく強ばった顔でリビングに足を踏み入れた。
「......で、どうしたんだよ親父。こんなに早く帰って来るとか珍しいな」
俺はゆっくりと親父と対面する形で椅子に腰掛け、そう話す。
親父は嬉々として口を動かした。
「言ってなかったがもう再婚したんだぞ! だから明日から新しい家族が来るぞ! 三人の妹が出来るぞよかったな!」
「──は?」
これだから親父は嫌いだ。
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