第122話 マッスルマッスル

「それはもしやインベントリか? なんだ、ワンコは探索者プレイヤーというやつだったか。インベントリとやらは時間経過がないんだったな。ならば水も入れられるだけ入れておくが良い」


 シン・キウイバーガーを大量に用意してもらってインベントリに片付けているとレヴィさんにそんなアドバイスを貰った。


「確かに魔境には沼とか川もありはしますが、飲める水がすぐに手に入るとは限りません。入るのであればなるべく事前に用意しておいたほうが良いでしょう」

「あれ? ですけど、わん太さんの場合、えーと、そう、ナギサくん様がいますよね?」


「あ、そうわん! ナギサくんに頼めば水は大丈夫だったわん。けど、後でインベントリにも入れといたほうがよいわん」

「しゃ、しゃぁーくっ!?」


 呼ばれたと思ったのか角なしサメの姿をしたナギサくんが現れた。

 なお、場所を考慮はしたのか小さめサイズでふよふよと浮かんでいる。


「なっ、精霊! しかも中級、それも上級に近い水精霊か。我も久々に見たぞ。これなら確かに水には困らないかもしれないな。お、意外とつるつるしておる」


 レヴィさんがナギサくんをペチペチと興味深げに触っている。

 

❤〚いいなー、ナギサくん触りたい〛

◯[実は向きに寄って感触が違う。けど、本物のサメじゃなくて精霊だからなぁ]

▽[水があるだけで大分便利だな。精霊、いや、魔法欲しい……]


「わん太様、やはりあちらの元祖キウイバーガーも買っておくべきかと……」

「そうですそうです、本家との食べ比べは必要ですよ!」


「我はあっちのミートパイもお気に入りでな――」


∈[そこのケーキみたいにゃのも買うにゃ!]

∪[パブロバっぽいけど、なんでも良いから買ってバザーに!]

▽[街歩きというか食べ歩き、いや、爆買いツアーになってないか? ]


「ほら、そこのお大臣様、ウチの魚もオススメだよ。魔境に入ったら海の魚は手に入らないだろ!」

「生きの良いマッスルマッスルもあるよ。今朝の獲りたてだ!」


 海産物を扱っているらしき屋台もあり、ふくよかなおばちゃんとムキムキなおじさんに声を掛けられる。


「マッスルマッスルわん?」

「わん太様、マッスルな方が販売されているからでは?」

「お嬢様、どうやら貝のようです」


 拳より少し大きいぐらいの大振りな貝が網に入って売られている。


「その貝はマッスルマッスルというモンスターのドロップアイテムですよ。モンスターの名前がそのままアイテム名として定着したんです」


 両手に荷物を抱えたアマレロさん達が追いついてきた。


「おっとアマレロじゃないか。たっぷりと買っていってくれよ。なにせ今朝殴り合って手に入れたものだから新鮮だぞ」

 そう言って屋台のおじさんはむき出した太い腕に力を込めてみせる。


「殴り合って……?」

 ベアゴロー流スモー術免許皆伝のクレスさんには気になるところのようだが頭の上にハテナが浮かんでいるのが見えそうなぐらいに首を傾げている。


「ああ、マッスルマッスルはでっかい貝のモンスターでね、殻を開けて中の貝柱で殴ってくるんだよ。ウチの旦那いわく、真っ向勝負で殴り勝ったほうがドロップが多いんだと」

「おうよ、これはもう確立されたマッスルマッスルの漁の方法だな」


「確かにモンスターの倒し方でドロップアイテムが変わるけど、ボクにその方法は取れそうにないわん」


 おじさんは丸太のように太い腕を見せびらかすようにパンプアップを始めており、物珍しそうに屋台に集まる人が増えてきた。


∈[そう言えば倒し方によってドロップアイテムが変わるのは確定情報にゃ]

▽[検証クランが色々試して間違いないって話だったなぁ]

◎[いや、ドロップアイテムよりマッスルマッスルがどんなモンスターか気になりません?!]


「とりあえず、マッスルマッスルもいっぱい買ったわん。殻も使い捨てのお皿にすれば良いらしいわん」


 みんながそれぞれ買ってきた品物、主に食べ物なんだが、をインベントリに放り込む。

 多分、広場の屋台を全制覇しているんではなかろうか。


「食べ物はこれで良いとして、魔境に行くのに必要なものって後は何わん?」


「ある程度の物は騎士団の方でも用意しますので、わん太さんが必要なものがあれば買うぐらいで大丈夫ですよ」

「ウチの騎士団は若の無茶振りもあって遠征には慣れてますからねぇ」



「ところで、その坊っちゃんも魔境、ムトゥンガ遺跡に行くのかい?」


 探索者シーカーギルドの一室へと場所を移し、レヴィさんと依頼について打ち合わせだ。


「ええ、そうなんですよ。わん太さんがムトゥンガ遺跡に行くって聞いて殿下も乗り気で……」

「前から若は魔境に入りたがっていましたからねぇ。渡りに船って感じでしたよ」


「それで、レヴィさんが案内してくれるわん?」


 レヴィさんは屋台で買った肉をいつの間にか両手に持って齧りついていた。

 

「……ん、構わんよ。我も何となく呼ばれてる気がする」


「助かります。我々騎士団員だけですと魔境の中程までしか入ったことがありませんので……」


 この街の探索者シーカーの多くは魔境の探索へと赴く。

 その中でも特に奥まで進んでいるのがレヴィさんだと言う。


 その後、幾つかの探索者シーカーパーティと面接し、レヴィさんオススメのパーティもムトゥンガ遺跡探索に同行することとなった。



「さて、なんだか街歩きと言うほど歩かなかった気がするけど今日はここまでわん。次の配信はムトゥンガ遺跡探索わん!」


∴[おお、新エリア楽しみ。ところで私達の方の新エリアは?]

◯[みんなルーダン魔王国で手一杯です。西行きは……]

▽[それより、レヴィさん推薦のパーティ、顔が青褪めてたけど大丈夫か?]


「レヴィさん推薦の『眉無し団』わん? レヴィさんがこの街に来た時に世話になったって言ってたし、レヴィさんを姉御と呼んで慕ってるみたいだったからきっと大丈夫わん。それじゃあ、次の配信までバイバイわ~ん!」


◎[バイバイわ~ん!]

∪[おつかれー]

◯[マッスルマッスル~]


―― 本日の配信は終了しました……


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