第123話 フクロウギツネ

―― 魔境

   城塞都市トゥアルアの西に広がる未踏破領域である。


 ボクたちは何者かに監視されているような視線を感じつつ、木々の間の獣道と言えなくもない細道を進んでいた。

 

「警戒を緩めるでないぞ。我らは既に囲まれているからな」

「なっ、ホントっすか! あ、フクロウギツネの群れっすね」


 レヴィさんの声に焙火ほいほ君が応える。

 魔境と呼ばれる森林地帯に入ってからは付かず離れずの距離でずっと囲まれていたのだ。


「お、坊っちゃんも分かるようになってきたか。これなら遺跡までには気配察知のスキルが生えるかもしれないな」


◎[フクロウギツネ? フクロギツネじゃなくて?]

◯[見ないとわからないけどフクロウなのかキツネなのか……。それより囲まれてて大丈夫なん]

▽[わん太より強そうなレヴィさんも居るし大丈夫なんだろ。騎士団は息も絶え絶えっぽいけど]


 騎士団のみんなは三人一組となり、レヴィさんの指示で先行してモンスター狩りをしている。

 今もジャッロさんの組が駆け足で戻って来たところだ。


「フクロウギツネも倒せたんですけど、残念ながらドロップはなかったです。あ、キウイからは肉がでたんで、わん太さん預かってください」

「オッケーわん、ところで、フクロウギツネは何か良いドロップアイテムを落とすわん?」


 ジャッロさんが背中の袋から取り出した肉を預かりながら訊いてみる。


「ああ、わん太さんは魔境は初めてでしたね。フクロウギツネはレアドロップとしてマジックバッグを落とすんですよ。わん太さんはインベントリがあるからいらないかも知れませんが、マジックバッグは小さくてもかなり高値で取引されるんです。魔境にくる探索者の半分はこのマジックバッグ狙いと言ってもいいです」


∈[マジックバッグ! やっぱりあったんだにゃ]

▽[あんまりプレイヤーには関係ないけどNPCには必要か。そういや、こっちで見たことある?]

∴[見たことはないですが、王族や一部の商人が持ってるらしいです]


「ん? スキルとしてのアイテムボックスはあるみたいわん。うちの街では何人か持っている人がいたわん……、あ、もしかしてこっちの島から伝わったのかもわん」


 パウリの都にいるドウェルフ族も元は南の島から渡ってきたと言っていた。そもそも、昔はわん太王国のある北の島とこの南の島は行き来が出来ていたらしいのだ。

 その北の島ではマジックバッグをドロップするモンスターがいると聞いたことはない。とはいえ、島の北側の探索はまだできてはいない。


「なるほど、昔は北の島と行き来できたとの伝説がありましたな」

「あ、北の小島の何処かに通路があるってやつっすね。ダンジョンで繋がってるとか……」


「あれ? やっぱりダンジョンで繋がってるわん? この島の北の方には転移ポータルで移動出来たみたいだけど、通路となるダンジョンは見つけられなかったんだわん」


「転移ポータルというのはベアゴロー様とわん太殿が現れた、あの聖域の事でよろしいですか?」

 キャンベルさんが若干困ったように眉根を寄せて考えている。


「そうわん。本当はボクも一緒に北側に転移するはずだったんだけど、ボクだけ何故か南の碧鳥人リヴァイア族の島に飛ばされたんだわん」

「でも、お陰様で私達の島は助かりましたわ」

「そうです、あれはベアゴロー様のお導きに違いありません」


 確かに寄り道にはなったけれど、迷い宿についてもわかったし、龍脈を直せる聖剣も手に入れたと考えれば碧鳥人リヴァイア族の島に転移したのは良かったといえる。


「わん太殿、あの聖域ですが、私はおそらく同じ物を『首都ヌイパパ』で見たことがあります」

 何やらずっと考えていたキャンベルさんが思い出したように言った。


「えっ、キャンベルはどこで見たっすか? オレは見たことないっすよ、王宮の隠し部屋とか隠し通路にもなかったと思うっす」

「えぇ、若様が見たことなくてもおかしくはありません。私も一度だけちらりと見ただけですから」

「で、どこで見たっすか? あれ、わん太さんが言うように転移ポータルだとしたらそこに移動できるってことっすよね。王族としては把握しとかないと駄目な案件っすよ」


 そう言って詰め寄る焙火ほいほくん だが、その眼はわくわく感で溢れていた。


「若様……、若様でも入れないところですぞ。聖域があったのはクマノ勇者教団の聖地ヌイパパ教会です。よく考えればベアゴロー様が国を去った時にトゥアタヒ村の転移ポータルを使用していないと考えれば首都のどこかに聖域があってもおかしくはありませんな。特にベアゴロー様復活を祈っているベアゴロー様原理主義のクマノ派が転移ポータルを押さえて聖域としているのは当然とも言えます」


「あぁ、教会っすかぁ。あいつら王族を目のかたきにしてるっすよねぇ」

 焙火ほいほくんはそう言って肩を竦める。


「え、そうなのかわん?」


「そおっす。ほら、この国はベアゴロー様が建国した後は朱鳥人フェニック族と碧鳥人リヴァイア族の王族が交互に王の座についてるじゃないっすか、ベアゴロー様が決めた事だから表面上は問題ないっすけど、それが気に食わないみたいっす」


◆[ベアゴローさんを宗教的にも宗主としてるなら認められないか]

∴[わん太君を勇者として認めるかも怪しい……]

▽[勇者派とクマノ派だっけ? どっちにしろ今の王族とは対立しそうだ]


「ところで、ワンコ達の言う聖域とか転移ポータルというのはトゥアタヒ村にある丸いやつだよな?」


「ええ、そうですがレヴィ殿も見たことがありましたか?」


「うむ。我は川に流されてトゥアタヒ村の辺りでコイツらに引き上げられたみたいだからな」


「そうですよ。姉御が流されてきてびっくりしたんですから。その上、記憶喪失って言うじゃないですかぁ」


 どうやらレヴィさんはトゥアタヒ村にクエストで来ていた『眉無し団』に助けてもらってからの付き合いらしい。

 

「レヴィさんは記憶喪失だったわん?」


「うむ。名前と断片的な知識はあるんだがそれ以外はさっぱりだ。で、その転移ポータルだが、似たようなものは今回向かっているムトゥンガ遺跡にあった気がする……」

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