第84話 寂れた漁村4

「まあ! それでは南の島から船で来たんですかぁ! 海はモンスターが強くて大変って聞きましたよ」


「えぇ、そうなんですよ。儂ら鳥妖精ペイシーは泳ぐことにかけては天下一品、とはいえ流石に北の島まで泳ぐわけにもいかずなぁ」


 迷い宿へと場所を移して一通りの話を聞いた後、考老来ころらさん達は船旅の疲れを取るため宿で休むことになったのだ。


◯[考老来さんが完全にできあがっている件]

▽[くぅーっ、俺も迷い宿に泊まりたい。あ、迷い宿は元々こっちにあったっぽいからワンチャンある?]

∪[とりあえずは現状我々が手に入れられないその食事や酒をバザーに流してくれないかなぁ]


「迷い宿の移動は大きくはできないみたいわん。こっちに来たのは龍脈が大きく変動、変化した時に引っ張られたみたいわん」


「変動というか元々の正常な龍脈に戻ったというのが正解でしょう」

 お猪口を持ったクロセルさんがスススっと寄ってきた。


「ところで、その龍脈とやらはキュウビ族のみんなが居たところと繋がっているわん?」


「ええ、もちろんです。元々は全ての龍脈が血管のように繋がっていたのです。それがいつしか滞るところが出てきて今やあちこちが寸断、最悪の結果としては魔素エーテルが枯渇する地域ができてしまっていました」


∈[魔素ってつまりは魔力のことならもしかして枯渇した地域ってウチらのいるとこのことかにゃ?!]

◆[ああ、それで魔力のないこっちには精霊がいなかったから魔法が使えなかったわけか]

∪[つまり、龍脈が正常になった今なら魔法が使える可能性があがったと]


「なるほどわん。そういえばクロセルさんの居たフカルア山は魔力が溢れる魔力溜まりになってたんだったね」


「その通りです。そして、南の島も同じように龍脈が乱れていると考えられます。南の島を管理していた水龍も私と同じくらいの強さがある龍族ではありますが……」


 考老来さんがわざわざこっちの北の島までクロセルさんを尋ねてきた理由。それは、南の島の水龍さんの行方がわからなくなったからであった。

 クロセルさん曰く行方不明と言ってもいくつか考えられることはあるらしい。


 まずは、クロセルさんと同じように龍脈の管理のためにダンジョンに篭ってしまっているパターン。南の島にも同様の管理ダンジョンがあるはずでその最奥にいる可能性が高い。

 次に水龍さんが生まれ変わるタイミングの場合。良くはわからないけど水龍さんは定期的に生まれ変わる特殊体質とからしいけど、タイミング的にはまだまだ早いと言っていた。

 そして最後に本当に行方不明だったり、クロセルさんの考えの範囲外のなにかが起こっているパターン。


 いづれにせよ現地に行って確かめる必要がありそうだ。


∈[それで結局のところ南の島にはわん太がいくのかにゃ?]

∴[クロセルさんと同等の龍が居るならそれなりの人を送り込む必要があるよね]

◎[クロセルさんが行けば万事解決なんじゃないの]


「うんうん、クロセルさんがぱぱっと行ければ一番なんだけど、クロセルさんにはパウリ城下街をお願いしてるし、南の島からは出れないらしいんだわん」


「管理領域的な問題もありますが、私達龍族が空を飛ぶ場合は魔力を使っているのです。体内の魔力もですが、外部の空気中の魔力との相互作用によって空を飛んでいますので魔素の薄い海上を飛ぶのは難しいのですよ」


◆[なるほど、やっぱり魔法的な力で飛んでたのか、納得しかない]

∴[もしかして、こっちでワイバーンとかが居なかったのは魔力の関係だった?]

▽[じゃあ南の島へはどうやっていくんだ? 外海渡れる船はないんだよな?]


 考老来さんの乗って来た船は元々の火事と不幸な事故により復旧できないくらいバラバラになってしまっている。


「それだけど、元々この北の島と南の島は行き来ができていたらしいんだわん。つまり、南の端には何らかの行き来できる手段があるんじゃないかと踏んでるわん」


「ところでわん太様、南の島へ行くメンバーは――」

「駄目ですよ、シルヴィアお嬢様。我々はリスボンの町でやることが溜まっていますので遠くへはいけません」


「えー、とっても面白そうなのに? ねぇ、爺や乗りかかった船だよ。最後まで見届けるべきだと思うんだけど」

 参加したさそうなシルヴィアさんに対してゴルディさんは渋い顔で説教を始めた。


「あらあら、南の島へ行くメンバー集めですか? それなら是非とも参加したいと言う方がいるのですが?」


「ふぇっ、あ、女将さん。参加したい人って誰わん?」


「お初にお目にかかりますにゃぁ、それがしは猫妖人の武士もののふ勝魚かつお武市ぶしにゃぁ。武者修行の旅の途中で迷い宿と共にこっちに来てしまったのですにゃぁ」

 女将さんの後ろからにゃぁにゃぁと言いながら刀を持った猫さんが現れた……



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