第83話 寂れた漁村3

「おはよ~わ~ん。ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん。漁村の朝が早いのを舐めてたわん」

 眠い目を擦りつつ配信を開始する。


◯[ん? 今頃配信ってもう朝なのか]

◎[ソコって海岸?]

∈[魚がいっぱいにゃ。地引網なんて初めて見たにゃ]


「そりゃー! お前ら気合い入れて引けー」

「土竜族の意地見せたれやー!!」


 村民総出での地引網だが、昨日遅くに村に着いたらしいドゥーエたち土竜族のグループも何故か参加していた。


「ドゥーエさん達は既にこの村までの仮舗装も終わらせてきたらしいですよ。ちなみに爺やと秋人あきんどさんはあちらで村長と商談中です」

 こちらはまだ眠そうなシルヴィアさんだ。

 爺やことゴルディさんはリスポンの町でも偉い人の一人で今回の東側の村との交易関連をまとめる権限を持っているらしい。


「ところで地引網って海のモンスターに破られたりはしないわん?」

 でっかいサメのモンスターとか地上より凶悪なのがいるイメージがある。


「そういえば昨日の船もモンスターに襲われたって言ってましたね」


「村の近くの浜辺であればそれほど心配する必要はないのですよ猫妖精ケットシーのお嬢さん」


◯[ペンギンさんきたーー!]

∈[あの魚はなんにゃ?! モンスターにゃ?!]

◎[でかっ、どうやって獲ってきたんだよ]


 海から上がってきたばかりの考老来ころらさんが身長の数倍はあるであろう大きな魚を引きずっていた。


「ああ、考老来ころらさんおはようわん。それ、素潜りで獲ってきたわん?」


「もちろん、儂ら鳥妖精ペイシーは水の中も自由自在に飛ぶが如くですからな。それに、ここらは潜って獲るものもいないようで大きな魚がいたるところにおりました――」


 海でのアンメモのモンスターの発生ポップは陸と同様に拠点が近い程弱く、離れる程強くなる。

 更にその変化の割合は陸上よりも大きいらしい。そのため、拠点近くの海はかなり安全だが、少し離れると急に強力なモンスターが出現することになるらしい。

 つまりはこの世界での航海はかなり危険、いや、無謀と言われるレベルであり、考老来さん達はそれでも氷龍クロセルさんに会う必要があったということだ。


「クロセルさんには連絡入れてるからもうしばらくしたら来ると思うわん。まずは腹ごしらえをするわん」

 地引網でとれたお魚等の焼ける良い匂いがしてきた。


「おお、わん太さん有難う御座います……え、氷龍様がいらっしゃるのですか?!」


∪[やった、クロセル様くるぅ!]

◯[ところでクロセルさんに何の用だろう? 危険を冒してまで会う理由があるってことだよね]

◆[けど、考老来さん自体は面識がある風ではなかったよね]


「もぐもぐ、とれたてのウニは最高わん。あ、その魚のステーキちょうだいわん」

 獲れたての魚介類の美味しさは格別だ。東の森の街道が開通することによって新鮮な海の幸がパウリ城下街まで届くようにもなるだろう。


「えーと、わん太さん? 本当に氷龍様がこちらにいらっしゃるんですか……?」


 混乱する考老来をよそに陽が陰る。


―― バサッ


 朝日に照らされて白銀の氷龍が空高くを旋回していた。


「わん太様、お待たせしました」

 トンと軽快な音を立ててクロセルさんが砂浜に降り立つ。もちろん降りる途中に巨大な龍の姿から人化した執事姿に変わっている。


「お、おぉ、氷龍様でいらっしゃりますでしょうか?!」


 考老来さん達が五体投地の姿勢となった。ドゥーエの時にも見た光景だ。


「うむ、あー、顔を上げてくれないか。それにしても鳥妖精ペイシーがこちらの島に来るとは珍しい。水龍になにかあったのかい?」

 クロセルさんは穏やかなそれでいて心配そうな顔をしていた。


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