第82話 寂れた漁村2

「こんにちわん? だれかいますかー、ってこっちもいないわん……」


 付近の家を覗くも食べかけの昼ご飯や作業中のまま放置された道具類が異常事態を感じさせる。


◯[これは突然住民が居なくなった真夏のホラー展開?]

◎[夏というか今は冬では? ってわん太のとこは夏ならホラー展開もありだな]

▽[後は心霊ものかパニックホラーか、はたまたサメが出てくるか。ミステリーもありか]


「サメはナギサくんがいるから間に合ってるわん。ホラーはほら、勘弁してわん」


「やっぱり誰もおりませんわ。この時間は暑いし普段ならみんな休憩してるんやけど……」


「住民の皆さんはどこに行ってしまったんでしょう? 状況から見ると私達が村に着く直前に急に居なくなってるのですが……」

「お嬢様、匂いから辿ると皆海岸の方へ向かっているようですぞ」


「えっ、匂いでわかるわん?!」

 ゴルディさんが鼻をヒクヒクさせながら海岸へと続く道を指差した。


∪[わん太も犬獣人なのに匂いでわからないの?]

∴[パウリ族だったよね。けど、わん太に鼻の穴はないように見える……]

◯[あっ……]


「えぇっ、た、確かに鼻の穴は……もしかしてない?! けど、ボクもちゃんと匂いは感じてるわん! ほら、今も海岸の方からなんだか焦げた匂いが……って煙が上がってるわん!! って、火事?! ナギサくん行くわん!!」


「しゃっ? しゃっしゃーっく!」

 ふわふわと浮いていたナギサくんが慌てて大きくなり、ボクたちを背中へと乗せる。


「そこを左に曲がったら後は真っ直ぐや!」


 家がまばらに立ち並ぶ村内を抜けると海岸に白煙をあげた大きめの木造船と周りから消火しようとしている小型の船が見えた。


「ナギサくん!」

「しゃーっしゃーっしゃしゃーっく!!」


 燃え上がる木造船の上に複数の青く輝く魔法陣が展開される。


◎[魔法きたーーーー!]

▽[おいおい、ナギサくん張り切ってるけど攻撃魔法じゃないよな]

◯[光った!]


 魔法陣から叩きつけるような水滴が豪雨となって木造船に降り注ぐ。


「おおぉっ!!」「火が消えるぞ!」

「うぉっ、波が……」「一旦離れろぉぉっ!」


 急な豪雨に水面は荒れ、木造船はギシギシと大きく揺れていた。


「わん太様、ナギサ様、これはちょっとやり過ぎなのではないでしょうか……?」


「えっ……あぁっ! ナギサくんストップ止めて! すぐ船に向かってぇー!!」



 ◆ ◇ ◆



「ほーんっとーに、ごめんなさいでしたわん!! ちょっとやりすぎましたぁ……」

「しゃ、しゃーくぅ……」

 ボクはナギサくんと二人で伏して謝っている。


 というのも、結局、木造船は豪雨に耐えきれずバラバラに崩壊してしまった。

 幸い周囲に展開していた周りの船で乗っていた人たちは回収されたため被害者はいない。


「いやいや、儂らは全員無事でしたし頭をお上げください。むしろ船を壊してくださらなければあのまま焼き鳥になるところでした」


◎[焼き鳥www いや、確かにそうかもしれないけど]

∈[これまた新種族の予感にゃ!]

◆[鳥獣人だとは思う……いや、鳥は獣人なのかな?]


「では、改めまして自己紹介を。儂は鳥妖精ペイシー考老来ころら、南の島より火急の用がありここ北の島を目指す途中で急な嵐と落雷で漂着したところを助けて頂いたのです。皆様には最大限の感謝を……」


 考老来ころらさんと後ろに控えていたお付きの人たちが一斉に頭を下げた。


◯[鳥妖精ペイシーは初めて聞くけど、どう見てもペンギンな件]

❤〚ペンギンさんかわゆすゆす〛

▽[わん太の親戚かもな。割と似てるwww]


 白いお腹に青灰色の羽毛のペンギンさんがタキシードをマントのように羽織っている。


「パウリ族の猫乃わん太わん。ちなみにぬいぐるみ系VTuberだわん」

「しゃしゃーっく!」「きゅっきゅーっ!」


 ボクに続いてナギサくんにイナバくん、それから他のメンバーもそれぞれ自己紹介を済ませる。


「ところで考老来ころら殿の火急の用とはなんであろう? 必要であれば我々も手助けしますぞ」

「そうだったわん。ボクもここいらでは顔が効くから任せてわん」


◯[ここいら(北の島全部)では顔が効く(一番偉い王様)]

∪[そう言えば王様なことを紹介してないのでは?]

◎[VTuberとしか言ってないね。考老来ころらさんは???ってなってたけど]


「おお、それはありがたい。詳細は話せぬのですが、フカルア山に住むと言われる氷龍様に会わねばならないのです」


「フカルア山の氷龍様ですか? 爺やは知っていますか?」

「長老達に聞いたことはありますが、祠の中のダンジョンに引きこもっていて姿を見たものはいないとか言っていたような……」


 シルヴィアさんは知らないみたいだが、ゴルディさんは聞いたことがあるらしい。


「フカルア山の祠に住む氷龍かぁ……ん?」


▽[なんだかとっても既視感のある話だなぁ]

∈[情報なら情報クランにゃ。この情報は安くするにゃ]

◎[氷龍! ってあれ? みんな知ってる感じ?]


「たぶん今、氷龍クロセルさんはフカルア山にはいないわん。明日にはあわせてあげられると思うから今日はゆっくり休んでわん」


「なんと! わん太さんは氷龍様に伝手が御座いましたか! よろしくお願い致します!」


 興奮する考老来ころらさんをなだめすかし早めに休む事となった。


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