第81話 寂れた漁村

―― 探索者シーカーの朝は早い。「まあ好きで始めた仕事ゲームで……」


「はぁい、わん太様! 起きてくださいね。いつまでも布団にもぐってぶつぶつ言ってないで朝食会場に行ってください。他の皆様は食べ始めてますよ」


「えぇ、もう少しごろごろしたいわん。このお布団絶妙に寝心地が良くて動けないんだわん……」


「はいはい、朝起こしてって言ったのはわん太様ですよ。それに今日は海辺の村に行くんですよね、さあ起きてください」


 容赦なくふかふかのお布団が剥ぎ取られた……



 ◆ ◇ ◆



「おっはよ~わ~ん! ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん。今日は迷い宿マヨヒヤドから配信開始わん」


 朝食会場は畳敷きの大広間に小さな一人用のテーブルと座布団が並べられており、すでにみんなは食べ始めている。


❤〚おはよー、美味しそう〛

▽[おおー、白米に味噌汁、これは完全に和食。食いてぇー]

◎[朝からメインは肉なんだ。何の肉?]


「ボア系の肉らしいわん。ちなみに今日は森を抜けた先にあるという漁村へ行くのでお魚の仕入れができれば買い込んで来るように頼まれているわん」


「小さい漁村ですが、魚介類はぎょうさんとれますから期待しといてください。干物も美味しいですよ」

 樹妖精もみじん秋人あきんどさんは元々海辺の漁村をまわっていた商人さんで今日も一緒に漁村までの案内をお願いしている。


「ところで、海沿いにはどれくらいの村や町があるわん?」

 いまでこそパウリ城下街周辺には町や村が増えたが最初は何も、いや、砦跡っぽい廃墟だけだった。

 南の森の先にはドウェルフ族の村があったらしいけど、そちらも高レベルモンスターの徘徊により村を捨てて移り住んできている。


 アンメモのモンスターは拠点近く程弱く、離れる程高レベルの強いモンスターが出るようになる。安全を確保するには拠点を強化して村から町や街へと発展させる必要がある。

 逆に過疎化して周辺の村が減ると周囲のモンスターも強くなる仕様なのだ。


「森の先の海は湾になってて幾つかの小さな漁村が点在してるだけやな。大きい村や町はあらへん。湾から他の地域へは山の中を通らなあかんからワイのような樹妖精もみじんの行商人じゃないと行き来も難しいんや」


 島の東側はそんな感じで後は猫妖精ケットシー犬妖精クーシーのように定住せずに転々としている集団と運が良ければ出会う程度らしい。



 ◆ ◇ ◆



「えーと、南東に下るように森を抜けた方がよいのかな?」

 ぽちぽちとダンジョンメニューをいじって東の海へと抜ける街道を調整する。


「小さい漁村ばっかりやけど、その中でも一番ましなところが南の村やさかいそこへ向かうんがいいやろ。残りの村を回るにも端から順に行くほうが楽やしな」

 本音ダダ漏れなあきんどさんではあるが一理あるので南東に抜ける街道を設置する。必要になったら東へ抜けるだけの道を増やすのも難しくはない。


▽[ダンジョンマスター便利すぎるだろう。土竜族の土建屋さん達が泣くぞ]

◎[いっそ島全体をダンジョンにすれば道も引き放題になるのではないだろうか?]

∈[ダンジョン情報プリーズにゃ。そもそもどうやったらダンマスになれるのにゃぁ]


 ダンマスになる方法……とは言っても良く考えたら全部押し付けられただけな気がする。

「ダンジョンは広さや設置場所には制限があるみたいだから自由にはできないわん。それに改造するのにもポイントを使用するから言うほど何でもは無理わん。なので、森を出てからの道路は土竜族のみんなにお願いしてるわん」


 カメラをスタンバっている土竜族のみんなの方に向ける。今回はドゥーエ達若手グループが道の舗装や必要に応じて漁村強化のためにボクらの後を着いてくる事になっているのだ。


「わん太さん、後ろは任せてくださいっす。まずは簡単に測量とかしながら追いかけますんで先に行っちゃってください!」

 こちらに気づいたドゥーエが手を振ってきたのでこちらも振り返して宿を出発した。


 ちなみにボクたちのパーティメンバーは東の森探索時と同じく樹妖精もみじん秋人あきんどさんに猫妖精ケットシーのシルヴィアさんと犬妖精クーシーのゴルディさんだ。

 あきんどさんの竜車にはゴルディさんも乗っているが、シルヴィアさんはボクと一緒に少し大きくなったナギサくんの上だ。


◯[わん太も竜車に乗らないの?]

❤〚ナギサ君乗ってみたい……〛

▽[そう言えばこっちでも竜車自体は流通というか乗れるようにはなったな。まだ個人で買うことはできないけど]


「竜車は乗り続けるとおしりが痛くなるわん……それに時々はナギサくんに乗らないと拗ねるんだわん」


「しゃしゃしゃーっく!」

「きゅっきゅっきゅっー!」


 宙に浮かんで滑るように進むナギサくんは振動もなく乗り心地は抜群なのだ。

 いつものようにナギサくんの頭の上に陣取るイナバくんもごきげんである。


「あそこに見えるのが漁村ですよ。名前は……なかった気がしますね……」


 途中にお昼休憩を挟み特に何事もなく進んだためか想定よりもだいぶ早く村まで到着したようだ。

 木の板や杭で雑に作られた木の柵で囲われた村が見えてきた。


「こんちはー! って誰もおらんがな。いつもなら門のところか声の届くところに誰か居るんやけどな」


 軒先に並べられ干された魚や、内臓を取り出しかけて放置された魚と刃物がいかにも漁村らしい……


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