閑話 大迷宮時代

―― プレイヤーがエピッククエストのミッションをクリアしました。

   これによりエピッククエスト『大迷宮時代』が開始されます。


―― プレイヤーがロコノア城下街に到達しました。

   これによりワールドクエスト『精霊樹の復活』が進行します。

   これによりエピッククエスト『大迷宮時代』が進行します。


「……『大迷宮時代』ねぇ」


「チーフ、いくらログを見直したところでエピッククエストとやらが始まった事実はなくなりませんよ」


 アンメモ開発室ではチーフが何度目かもわからないログの再確認をしていた。


「本社にも確認を取ったんだけど、向こうも混乱しているみたい。ちなみに発動条件は細かくは色々あるらしいけど、ダンマス権限が5つね」


「ああ、わん太くんにダンマス権限渡しましたからねぇ……って5つ?!」


「そう、5つだって。だから、まあ、どんなに早くても今のワールドクエスト2つ、少なくともエト獣族連邦国まで進まないことには始まらないつもりだったらしいわ」


「時期はともかく、ダンジョンの数が合わない気がするんですけど」

 アシスタントの女性が指折り数えて首をかしげる。


「それより、プレイヤーの開始地点に『ロコノア城下街』を追加する件は上手くいきそう? 『精霊樹の復活』のワールドクエストの進みが思ったより早かったせいで次の新規プレイヤー追加タイミングでの話題が必要なのよ。メディアへの宣伝資料も用意しないといけないし……ああ、こんな状態で完全新規プレイヤー追加大丈夫かなぁ」

 チーフの体がだんだんと机に突っ伏していった。



 ◆ ◇ ◆



「んんー? やっぱりないわん」


―― マスター、何か探しものですか?


 ボクの呟きに反応してメルリンから声がかかる。メルリンは所謂音声アシスタントAIだ。『Hey! メルリン』と呼びかけたら色々やってくれる。


「手に入れたと思ったスキルが配置というかストックにもないんだわん」


 アンメモのスキルはスキルパネルに配置して使用するシステムになっている。

 使用しないスキルはパネルから外して置くことも可能だが、固有ユニークスキルは外すことができない。

 スキルは配置するのにMPの最大値を使用するため外せないことでゲームバランスをとっているとも言える。


―― マスター、落ちていないか探しますので何のスキルか教えて下さい


「流石に落ちてはいないとおもうけど……『ダンジョンマスター』と『迷い宿マヨヒヤド』わん」


 どっちもスキルなのか怪しい名前ではあるけど、多分スキルと言っていた気がする。


―― マスター、その2つのスキルでしたら配信部屋に片付けてありますので問題ありません


「そ、そう? 片付いているならオーケーわん」

 これはAIジョークというやつかもしれない。笑ってあげたほうが良かったのだろうか?


 そう言えば配信ではスキル構成についてあんまり喋っていない気もする。まあ殆ど使っていないせいもあるんだけどということで――


* ぬいぐるみ

* 裁縫

* 木工

* ランダム

* 料理

* 浮遊

+ 解体

+ 自己再生

+ 魔力操作

+ 狐憑啄木鳥グリフォン

+ 魔法陣


「じゃじゃーん、これが初公開のボクのスキルパネルわん!」


―― マスター、只今配信は行っていませんが、配信を開始しますか?


「……す、スキルはあまり他のプレイヤーには公開しないものだって店長さんが言ってたわん……」

 アンメモ内ではほとんど常時配信状態だから配信してる気分になっていた。そもそも、アンメモの配信ではシステムメニュー等は配信には映らない仕組みになっている。


「けどさー、スキルやステータス情報って配信のコンテンツとして受けるのかな?」


―― マスター、攻略情報の配信の需要は高いですが、アンメモにおいては情報クランや解析クランもありますので過度な情報は好まれない傾向もあります


「となると、あんまり配信でスキルやステータスは出さない方が無難かなぁ。派生スキルの情報も出さないほうがいいかもしれないわん」


 ちなみに、『ぬいぐるみ』は種族スキルで『裁縫』、『浮遊』が初期スキルの3つが最初のスキルだ。

 後からスキルを獲得する方法も色々あるが、プレイヤーの行動によってスキルが生えることがある。

 『生える』と表現されるように自然に取得されてパネルに追加される。

 この生え方だが関連スキルの隣に追加されることが多い。また、関連スキルがないと追加されないスキルも確認されていることから派生スキルと呼ばれている。

 例えば、『解体』は『料理』からの派生スキルだ。


 派生スキルの中でも2種類以上の条件を必要とされるものもあり、これらの情報は高く買うと情報クランの店長さんとかが息巻いていた。

 ボクの持ってるスキルだと『自己再生』が『ぬいぐるみ』と『裁縫』からの派生スキルになるが、『ぬいぐるみ』スキルの保持者が他にいないため検証できないと検証クランの人がしょんぼりしていた。


「うーん、この『狐憑啄木鳥グリフォン』も派生スキルになるのかわん?」


―― マスター、『魔力操作』と『浮遊』からの派生の可能性はかなり高いと推定されます

   また、同様に『魔法陣』は『魔力操作』と『裁縫』の影響が推測されます


「どっちにしろ検証クラン泣かせわん。『浮遊』も固有ユニークスキル化してるし、『狐憑啄木鳥グリフォン』も多分他では取得できないわん」


 せっかくだから情報を伝えるぐらいはしておこう。


「そろそろ、眠くなってきたわん。それじゃぁ、メルリン、おやすみわん」


―― マスター、おやすみなさい。良い夢を……

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