第78話 迷い宿8

「ガーディアン戦を開始って聞こえたわん?!」

 慌てて武器を握りなおすもガーディアンとやらの姿はない。


「わん太様、うえ、上です!」

「あれは、グリフォン?? ちと知っているのとは違うような」

 シルヴィアさんの声に上を見ると鳥の羽の生えた獣のような四足獣が逆光の中に見えた。


◎[グリフォンって、あのグリフォン?]

∴[思ったより獣よりみたいだけど、グリフォンかなぁ……って結構尻尾がふさふさみたい]

◆[とりあえず、鑑定、鑑定お願いします]


 慌ててじっと見つめるけど逆光で眩しい。


:――――――――――――――――:

名称:狐憑啄木鳥グリフォン

説明:迷い宿の門の前に勝手に住み着いた魔物モンスター

   羽の生えた狐の姿をしている。

   つまるところ根無しの狐憑きの啄木鳥。

:――――――――――――――――:


「あー、うん、グリフォンだね、グリフォン、間違いないわん。とりあえず、みんな戦闘開始だわん!」

 半獣半鳥みたいなのは全部グリフォンで良いことにしよう。


◯[草w まあ、確かにグリフォンっぽい]

∪[鑑定にグリフォンって書かれてたらルビがあったら多分グリフォン]

▽[アンメモの鑑定結果はプレイヤーが変更できることに目を瞑ればグリフォンで良いんじゃないかな]


 鑑定結果はさておき、何気にきちんと空を飛んでいるモンスターとの戦闘は初めてかもしれない。サメは飛んでいると言っても浮いてるだけだったし。


「しゃぁ、しゃぁーっく……」

 戦闘に合わせて出てきたナギサくんが一生懸命高く飛ぼうとしているがせいぜい人の頭の上を超えたぐらいだ。


―― キョッキョッケッケッキュルルルルーー!


「くるぞっ! 全員防御ぉーっ!」

「風の防壁!」「しゃっ、しゃぁーっく!!」

「きゅっ、きゅーっっ!」


 シルヴィアさんとナギサくんの発動した風と水の防御魔法が上から降り注ぐ羽根の攻撃を防いだ。

 イナバくんが石礫をグリフォンに放っているが風に押されて届いていない。


◎[お、おぉーっ、殺意高い攻撃。羽根を魔法で飛ばしてる?]

∪[イナバくんの攻撃も届いてないよ。あれは風で押し戻されてるね]

▽[やっぱ空を飛んでるだけで圧倒的に有利だな]


 他の冒険者パーティの弓士の攻撃も簡単に回避されている。


「疾き矢をその身に宿し火を纏い その敵を討て炎の力 ファイアアロー!」

「ウィンドアロー!」「ウォーターアロー!」


―― ケッキュルルー、キョッキョッ


「おおっ、当たったわん」


 魔法の矢はグリフォンが避けた方向に曲がってダメージを与えた。


「精霊魔法は結構融通が効きますからね。追尾まではいかないですけどある程度は精霊さんが頑張ってくれます」

 シルヴィアさんが次々とウィンドアローを放つ。しかし、やはり距離と高さがあるためかダメージをそれほど与えられたようには見えない。


◯[追尾は精霊さんの頑張りなんだ。ちょー頑張ってるな、精霊さん]

▽[少しずつ高度は下がってる気がするけど、このままだとジリ貧だな]

∪[わん太は空飛べないの? ほら、ゴルディさんに投げてもらうとか?]


「わん太殿、投げますか?」

「いや、投げてもらっても倒す方法がないから遠慮するわん」


 真顔で近づいてくるゴルディさんをかわすが、今回は何も準備をしていていない。せめて鉤縄とかだけも用意してあれば投げてもらうのもありだったかもしれない。


「ところでナギサくんは何人くらい乗せて大丈夫?」

「しゃしゃしゃーっく」


 まかせろとばかりにナギサくんが大きくなる。その大きさは5メートルはあるだろう。

 シルヴィアさんにゴルディさん、それに弓士の人を乗せて2メートル程浮かび上がる。


―― ケッケッキョッキョッ


 グリフォンは警戒したようにホバリングしながらこちらを睨んでいる。

 狐憑啄木鳥グリフォンの体は狐だが口は鳥の嘴となってかなり尖っている。あれにつつかれるとかなり痛そうだ。


「わん太様、多少は近づきましたがグリフォンを倒すにはまだ遠いです。なにか策があるのですか?」


「一応なくはないかなぁ、ってことでスキル『浮遊』! あ、ナギサくんは動かないでわん」

「しゃっ、しゃーっ??」


 『浮遊』スキルの効果によりナギサくんごと更に上空へと浮き上がる。

 『浮遊』は元々1メートル程浮き上がるだけで移動もできないスキルだ。このスキルが固有ユニークスキル化して、さらに熟練度が上がったことから今や1メートルとは言わずかなりの高度まで上がることができるようになった。


―― キョッキョキョーッ!


 突然同じ高さまで浮き上がってきた巨大なサメにグリフォンが慌てたように叫び声をあげる。


「お嬢様、彼奴を落とします!」

 ゴルディさんが斧槍ハルバードを手にナギサくんから跳び出した。


「天を舞う 風の精霊 地に伏せよ ウィンドウォール!」

 すかさずシルヴィアさんによる魔法が発動しグリフォンの周囲に風が渦巻く。


◎[ゴルディさん跳んだぁぁっ!]

▽[魔法でグリフォンを拘束?! あぁっ、ゴルディさんごと落とすのかよ!!]

∪[ゴルディさあぁぁん?!]


 グリフォンの真上まで跳び出したゴルディさんを魔法による強烈な下降気流が後押し、斧槍ハルバードがグリフォンの背中へと突き刺さる。


「うおぉぉぉっっっっーーー!!」


―― ケッキョッ、ケキョキョーッ!!


 ゴルディさんとグリフォンが凄い勢いで落下していく。


―― ドゴォォォーーン!!


「うわぁっ、ナギサくん! えっと、『浮遊』『浮遊』『浮遊』!」

 強烈な衝突音と共に爆風が吹き荒れた。バランスを崩して落下するナギサくんに『浮遊』をかけてなんとか落下速度を落とす。

 眼下には大きなクレータ状になった地面と砂埃、そして、周りで暴風に煽られて倒れている他のパーティのメンバーが見えた。


◯[やったか?!]

∴[まて、それはフラグだ]

∪[あぁ、ゴルディさん……]


―― ガーディアンが討伐されました。

   これにより、迷い宿への入場が可能となります。

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