第75話 迷い宿5

◎[えっ?! 入り口が消えた?]

◆[一方通行タイプのダンジョンかな]

∴[転移した? それとも幻術かかってたりする?]


「ふむ、空間的に断絶した感じですな。匂いも途切れています」

 犬妖精クーシーのゴルディさんが最後に入った冒険者の周囲をウロウロと嗅ぎ回っている。


◯[おお、ゴルディさん有能。やっぱり犬妖精も鼻が効くのか]

∴[一応、犬獣人も匂いに敏感らしい]

◎[あれ、じゃあ、わん太も同じように匂いを辿れたりするのか?]


「え、ボク? ほら、ボクはぬいぐるみ系だから……」

 ご飯の匂いとかには敏感だけど匂いを辿ったりはできない。


「わん太殿、この道を引き返してみますか?」


「退路は確保しておくに越したことはないわん。そもそも、これまで探索に出て帰ってきてないパーティもあるしね」


 安全を確保しつつ、色々試してみた。


◆[少なくとも引き返しても出れないことは確定と]

∪[パーティ毎に行動して突然消えるようなこともなさそうなのは良かったかな]

◯[しかし、現在地は不明で戻ることもできないとなると進むしかない?]


「一組は入り口方向を探索してもらうとして、上手く抜け出たら今の状況をギルドに伝えてくれるかな。で、残りは奥に進むわん」


 見えている範囲では進む方も戻る方も一本道だ。ちなみに横道に逸れようと試してみたが木々が密集して抜けることはできなかった。


「……ところで、いつまで歩けばどこかに着くんだわん?」


 時々出てくるサクラッキーを蹴散らしながらかれこれ一時間は歩いている。


「同じ所を歩いてるわけでもなさそうや」


 秋人あきんどさんが途中の木に傷を付けているが同じ傷の付いた木には出会っていない。


「植生が変わってきてますし、そろそろ道にも変化が欲しいですね」


 桜の木に時々ヒノキや杉の木が混じっている。

 ということは時折現れるモンスターもサクラッキーにヒノッキーやスギッキーが混じるということでもある。


「おじょうざま、こごはお任せ……ずずっぅ……くだざい」


:――――――――――――――――:

名称:スギッキー

説明:杉の木が変化した魔物モンスター

   花粉によるランダム状態異常攻撃に注意。

:――――――――――――――――:


◯[スギッキー、あれは辛い……]

∪[蘇る花見イベントの悪夢。あの花粉にどれだけ苦しめられたことか]

≒[今もトラウマが……]


 ゴルディさんは特に花粉に敏感らしく鼻水を垂らしつつ目をパチパチさせていた。


 休憩時にマスクでも作ってあげたほうが良いかもしれない。

 そんなことを考えていると偵察に出ていたパーティが戻ってきた。


「わん太さん! 安全地帯セーフティエリアを見つけました。さらに、奥へ進む道も発見したのですが……」



 ◆ ◇ ◆



「外で食べるおにぎりはやっぱり美味しいわん」


 安全地帯セーフティエリアに無事たどり着いたので遅いお昼ご飯にしている。


◎[おにぎり裏山。ところで、こっちにもおにぎり、というか、お米ってあるの?]

◆[あれ? そういえば、わん太のとこも米はなかったはずだが?]

▽[日本酒、いわゆる米のお酒だけはあったから……、見つけたのか?!]


「あぁ、これはちょっとだけ分けて貰ったものわん。キュウビ族のみんなはエト獣族連邦国から来たらしいんだけど、そこの主食は米らしいんだわん」


∴[エト獣族連邦国って王国の東にあるかもな国だよね]

◯[お米にケモミミの国かぁ、行きたいなぁ]

❤〚おいしそー、私も夜はおにぎりにしようかな〛


 さて、美味しいおにぎりに現実逃避しているばかりでは探索が進まないので、あきらめて安全地帯から続く三方向の道の先を見る。


「わん太殿、パーティを分けて探索をしますか? 幸い人数的には問題ないかと思いますが……」


「うん、元々そうするつもりだったし、ここに残るパーティと進むパーティの四つに分けるわん。ただ、一応はマッピングもするから、もし同じような分岐があった場合は一旦引き返して来て欲しいわん」


 迷い宿の探索には結構な数のパーティが入っている。しかし、まだ発見できていないばかりか、未帰還のパーティもいるので慎重に進む必要がある。


「ほな、どのようにパーティを分けるかパーティリーダーでじゃんけんを……、あ、こっちで決めときますんでわん太はんはゆっくりしといてください……」


 大きなおにぎりを持つ先っぽが茶色く丸いプリティなボクの手を見て秋人さんがそっと目を逸らした。


◯[【悲報】わん太じゃんけんができない]

∈[その丸い手はグーとパーどっちなのにゃ?]

▽[そもそも、どうやってものを持ってるんだよ]


「考えたらダメわん。こう、触るとペタッと持てるんだわん。握力は無限大?」

 そう言って近くに落ちていた石を持ち上げる。実は握っているわけではないため、手より大きいものでも重くなければ吸い付くようにして持ち上げることができる。


▽[おぉ! おぉーっ?? ローポリのゲームっぽいw]

◆[えーと、なんだかバグってるような挙動w]

※[その手の形状だと仕方ないから仕様なのでは……]


「さて、ボクのお手々はともかくパーティ分けが終わったみたいだから先に進むわん」


 ボクたち以外のパーティは少しメンバーを入れ替えたりして四つのパーティに再編成された。


「それじゃあ、一旦それぞれの方向を偵察、暗くなる前には再度ここに集合ということでしゅっぱーつ!」


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