第74話 迷い宿4

「しゃしゃーっく!」「きゅっきゅーきゅ!」


 大きくなったナギサくんの上でイナバくんがごきげんである。

 サメの姿のナギサくんは大きくなると人を乗せて移動できる。今もダンジョン村から東の森へと移動の最中だ。


 ちなみにナギサくんとイナバくんは僕の契約精霊らしい。


:――――――――――――――――:

名称:ナギサくん

説明:角なしサメの姿をしている水の精霊。

   実はお風呂が苦手。

   契約済み。

契約者:猫乃わん太

:――――――――――――――――:


:――――――――――――――――:

名称:イナバくん

説明:角なし兎の姿をしている土の精霊。

   四つ羽のクロウが好物。

   契約済み。

契約者:猫乃わん太

:――――――――――――――――:


 鑑定結果はこんな感じだ。


◯[精霊、しかも、騎乗できる精霊便利すぎるな。どうやったら手に入るん?]

▽[わん太以外のプレイヤーで精霊契約出来たって話は……、あ、あの手品師マジシャンも契約者って噂は本当か?]

∈[プレイヤーの個人情報の拡散は厳禁にゃ。ただ、検証中の情報としてはワールドクエストの進行によって精霊関連が開放されるんじゃないかという予想があるにゃ]


「えぇっ、そうなんだ。そういえばこっちは精霊自体は割とふよふよしてるけど、みんなのとこにはいないんだったかわん?」


∈[いないかどうかすら検証できてないにゃ]

◆[わん太みたいに『魔力操作』で手に魔力を集められる人すらいないから……]

∴[プレイヤーの熟練度やスキル構成の差か、それとも、地域差なのかの議論も紛糾してる]


「ちなみに『精霊魔法』自体は周囲に精霊がいれば使用できますが、精霊契約はめんどくさい条件がありますよ」


 シルヴィアさん達、猫妖精ケットシー等、自然と共に暮らしている種族は精霊魔法使いが多い。


「ふぇっ、そうなの? ボクのは気づいたら勝手に契約状態になってたわん?!」

 まあ、エリアボス戦の特別報酬的な何かなので一般論で語っても駄目な気はする。


「特殊な例も含めて、めんどくさい条件なんです。まず、そこらでフヨフヨしている精霊さん、下級精霊とか言われたりもする精霊さんとは契約できません。契約できるのは中級以上の独自の姿をしている精霊さんです」


❤〚わん太くんの兎やサメみたいな?〛

◎[精霊というと羽が生えて飛んでる小さいのを想像するかな]

◆[ホタルみたいな単なる光球は下級精霊なのか]


「わん太様のイナバくんやナギサくんのように独自の姿を取るのは中級でも上位か、上級精霊以上の精霊さんですね。そのレベルの精霊さんは、『わがまま』です」


「ん? 『わがまま』?」


「はい、『わがまま』です。なので、気に入った相手としか契約しない上に、契約条件も様々です。力比べで倒せば良いというのはかなり簡単な場合で、おいしい食事だったり、謎掛けを解くことだったりと精霊の数だけ条件があると言った感じです」


▽[つまり、精霊契約自体が結構難易度高いわけかぁ]

◆[わん太のところがベータ地域としても難易度高そう]

∈[ちなみにワールドエリアボス退治で精霊をゲットした人はいないにゃ]


「しゃっしゃっーーく!」


 ナギサくんの上で喋っている間に桜色をした東の森に到着した。


「……え、桜色? いつから東の森はサクラッキーの森になったわん?」



 ◆ ◇ ◆



「結論として東の森の植生が変わってるというか、やっぱり森全体がダンジョン化してるみたいだわん」


 周囲を探索するとある程度のブロック毎に植生が変わって入口っぽい道が増えていた。

 途中で出会った冒険者の話を聞いても北側、および、南側も同様のようだ。


 ちなみに、東の森へ入った冒険者が戻ってこないため、東の森への立ち入りは禁止されている、


「それでは、わん太さん達が出てくるまで我々はここを拠点としておきます」

 周囲を調査していた冒険者の一部が森の入口に常駐することになった。

 また、何組かの僕たちと一緒に森へと入るパーティとも合流できた。


∈[森へ入るのはわん太だけじゃなかったのかにゃ?]

▽[森から出れない理由の検証と中で要救助状態の人を発見した時の対応用に複数で入るらしい]

◯[一応は人海戦術ってやつか]


「それじゃあ、みんなで東の森に入るわん。あ、念の為に順番に手を繋いでいくからねー!」

 大所帯となった捜索隊で順番に森へと続く細道に踏み込む。


「桜の木だらけなのを除けば普通の森ですな」

「爺や、油断は禁物よ。けど、桜の木の中にサクラッキーが混ざってはいるようね」


「うーん、もうダンジョンの中な気もするけどフィールド型のダンジョンは境界があいまいわん」


 手を繋いでいる状態での戦闘は避けたいため、全員が森、特にダンジョン領域に入るまでゆっくりと歩を進める。


「わん太様、そろそろ最後のパーティが森へ入ります!」


 振り返るとちょうど最後の人がこちらへ手を振りながら入ってくるところだった。


「はーい、それじゃあ念の為点呼を……?!」


 気付くと拠点の冒険者に見送られて入ってきた冒険者の後ろは延々と続く森の一本道になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る