第73話 迷い宿3

 僕は『緊急ミッション:迷い宿マヨヒヤドを探せ』をこなすために東の森近くのダンジョン村(仮)に来ている。

 なお、ダンジョン村の名前が仮なのはパウリ城下街周辺の村の名前をまとめて付けようとしているからであり、領主である王様が名前を思いつかないからという理由では決して無いはずである。


「おはよ~わ~ん! ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん。今日から東の森の迷い宿探索に入るわん」

 宿屋から出て今日のパーティメンバーとの待ち合わせ場所に向かう前に配信を開始した。


❤〚わん太きゅん、おはよー〛

◯[ところで、昨日のワールドアナウンスは聞いた?]

◎[ワールドアナウンス? 昨日はログインしてなかったから、何があったの?]


「おっと、ストーップストップ。その話題はストップわん。とは言え、わからない人もいるからネタバレにならない程度に説明するわん」


 ワールドアナウンスがあったのは昨日の午後。



―― ワールドエリアボスが討伐されました。

  これにより、ルーダン魔王国エリアへの通行が可能となります。



 そんなアナウンスが流れたのだ。


「このワールドエリアボスはワールドクエスト『精霊樹の復活』の進行に関連するエリアボスだったわん。そして、関連があると思われていたルーダン魔王国エリアが実際に開放されたみたいだわん」


 このエリアボス討伐は複数の攻略クラン合同でのレイド戦で倒しており、複数の配信も行われていたらしい。


「討伐後も色々あったみたいだけど、ネタバレになるからボクの配信では扱わないことにするわん。気になる人は配信も複数あったみたいだからそっちを見てわん」


◆[確かにネタバレか。エリアボスとか弱体化するけど再戦できるしな]

∴[ルーダン魔王国が気になる人はそっちの配信見ればいいしね。こっちはこっちでしか見れない配信だもんね]

∪[どっちも気になって自分の探索が進まないw]


「そりゃあボクも復興したロコノオ城下街とか気になるんだよ? いっそ同時視聴配信とかにするかわん」


▽[それはそれで面白そうではあるが、キュウビ族の皆さんを探しにいって差し上げろ]

◯[けど、ルーダン魔王国というかロコノオ城下街はわん太が復興させたようなものだから気になるのもわかるわ]

◆[ただ、ルーダン魔王国が夏イベントの時のルーダン魔王国とそのまま同じかはわからないんだよね]


「ああ、そうか、夏イベントそのままかはわからないのか。じゃあ、ちょうどギルドについたことだし、そっちの方は一旦忘れてボクらは迷い宿探索に集中するわん」


 パウリ城下街のギルドが出張所から支部になったことに伴い、このダンジョン村など周辺の村にはギルド出張所が開かれた。

 そのギルド出張所も緊急ミッションにより慌ただしくしていた。


「わん太様! お待ちしてました」

 ギルド出張所に入るなり職員さんに捕まる。

 このギルドの職員さんは 犬妖精クーシーのマーカスさんと言うらしい。


「それで、緊急ミッションのことですが、ここのギルドの探索者も結構な数が行方不明となってまして、今現在は森へ入る探索者は制限しています」


 森の異変が確認される前に入って帰ってきていないパーティが三組、調査のために派遣されて戻っていないパーティも三組いるらしい。

 基本的に探索は二泊三日までとしたが予定日数を過ぎても帰ってきていないパーティが出だしたため現在探索を一時中止したそうだ。


「つまり、迷い宿探索もだけど行方不明の冒険者も探して欲しいということかわん?」


「ええ、その通りです。見つけた場合は一緒に行動できればよいのですが、そうでない場合は食料を渡していただきたいのです」


 探索パーティは多めの食料を持ってはいっているものの、既に予定をオーバーしており、その前に森に入った冒険者はそもそも野営も想定していないだろう。


探索者プレイヤーのわん太様はインベントリを持っていますので食料の持ち運びは問題ないかと思います。ギルドの方でも食料等を用意してますので運搬をお願いします。それと、予備のパーティメンバーとして商人の方を連れて行ってください」


 ボクたち探索者プレイヤーはゲームシステム的にインベントリという複数のアイテムを重量に関係なく持ち運べる便利な仕組みを持っている。

 近い機能として、スキルのアイテムボックスやアイテムのマジックバック等があるがそこそこ珍しく、また、容量や使い勝手ではインベントリに及ばない。

 それでもこのような場合には荷物の運搬役としてアイテムボックス持ちは特に重宝されることになる。


「というわけで、わてら商人も一緒に行くことになりますんでよろしゅう頼んます」

 そう言って現れたのは樹妖精もみじん秋人あきんどさんだった。

 あきんどさんは以前東の森に行った時に出会った商人さんだ。東の森の先から来て帰れなくなっていたのだ。


「後のメンバーは……」


「お久しぶりです、わん太様」

「わん太殿、今回もよろしくお願いたします」


 こちらも見知った顔だ。猫妖精ケットシーのシルヴィアさんに犬妖精クーシーのゴルディさんである。


◎[おぉー、猫のお嬢様きたー]

≒[このメンバーなら東の森も安心かな]

❤〚もふもふいいなー〛


「見知った顔ばかりでちょっと安心したわん。それじゃあ、迷い宿探索開始わん!」


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