第71話 迷い宿
ふわりとした浮遊感とともにアンメモにログインした。
パチリと目をあけると木目の見える天井が見える。
「うん、知ってる天井わん」
上に乗っている寝相の悪い子狼たちを押しのけて布団から起き上がる。
フェンとヴァンのおおかみ族の双子はいつの間にかボクの寝室に侵入しているのだ。
ここはパウリの街の中央にある丘の上の一軒家、というには大きな、しかし、城としてはこじんまりした拠点である。
「あ、クロセルさん、おはようわん! っと、
ぽてぽてと向かった応接室では執事のクロセルさんと、キュウビ族の玉緒さんがなにやら話し込んでいた。
「おはようございます、わん太様。ちょうど呼びに行こうかと思っていたところです」
どうやら何かあったらしい。
少し疲れたような顔をした玉緒さんが話し始めた。
「……城下町の宿屋はお陰様で開始の目処もたったため、私達はその事を伝えに東の森の
迷い宿が居なくなったとは言え、エト獣族連邦国からこの島へ来たような大きな移動ではなく、元々のように近くを彷徨っているっぽいとのことだ。キュウビ族は迷い宿が近くに居るかどうかはわかるらしく、島内で彷徨っているのは間違いないらしい。
「それで、迷い宿探しを手伝っては頂けませんでしょうか?」
ぺたんと伏せた狐耳で玉緒さんに頼まれては断る選択肢はない。
「元々、『迷い宿』は訪問する予定だったわん。街のみんなにも手伝ってもらって必ず見つけるわん!」
クロセルさんを見ると大きく頷いている。
ちなみに、プレイヤーは
―― ピコン!
クエスト:彷徨える
ミッション:
目の前に半透明のウィンドウが表示された。
どうやらクエストが開始されたみたいだ。また、自動的にミッションも受注したことになっている。
◆ ◇ ◆
「というわけで、『迷い宿』を探しにいくわん!」
▽[いや、何が『というわけで』か全くわからないのだが?]
◯[迷い宿探しはいいけど、どうしてそうなった?]
◆[まあ、迷い宿と言うからには探す必要があるんだろうけど……]
「あれ? そういえば配信してなかったかな。実は……」
とりあえず、迷い宿が東の森から彷徨って移動していることとクエストが開始したことを説明した。
∈[クエスト! クエストが始まったのかにゃ?]
∴[正式サービス開始でクエストが増えたらしいけど、実際のところクエストの発見率は低いからね]
※[そう言えばメインクエスト以外は自動生成されて運営も把握してないって聞いたけど……]
アンメモにおいては一連のいくつかのミッションをまとめた形でクエストがあるらしい。
特にワールドクエストはアンメモ世界に影響を与えるストーリークエストだ。
現在判明して進行しているワールドクエストには『精霊樹の復活』があり、このワールドクエストが進行することでルーダン魔王国に行けるようになるという話だ。
「クエストとかってテンションあがるよね。まずはギルドで聞き込みと依頼をするわん」
とてとてと丘をくだり広場に隣接しているギルドを目指す。
広場に面した
「ああ、わん太様! ちょうど良いところに!!」
ギルドに入るなり受付のおねーさんに捕まった。あ、元々ギルド出張所だったが街になってギルド支部になってからは支部長さんだった。
「えーと、そんなに慌てて何かあったわん?」
あっという間に三階の支部長室につれていかれてしまい、話を聴くことになった。
「何ってクロセル様から依頼のあった迷い宿の話ですよ。早々に連絡を入れて東のダンジョン村の冒険者に調査に行ってもらったんですが……」
「……東の森に入った冒険者さんが、南の森から出てきた?? ってどういうことだわん??」
◆[迷い宿だけの問題じゃなくて、東と南の森全体がおかしくなってるってことかな]
▽[元々東の森がダンジョン化してるかもって話じゃなかったか?]
∴[東の森っていってるけど南の森とも続いてるんだよね、それならダンジョン化が進んでるだけとも言えるよ]
―― チリン
支部長のおねーさんの机の上に置かれたベルが微かに音を立てる。
「あ、続報が来ました。どうやら、東から南にかけての森が
プレイヤーはフレンドチャットとかの通信手段があるが一般にはそのような通信手段はない。しかし、ギルド間であれば文字だけはやり取りできる魔道具があるらしく、この支部と周りの村のギルド出張所で状況の共有を図っていたらしい。
そして、南の森の街道も森を抜ける事ができなくなっていたとのことだ。
「このダンジョン化は迷い宿が原因なのか、それとも、迷い宿は巻き込まれただけなのかはわからないけど、いづれにせよ迷い宿を探す必要はあるわん。それに、迷い宿にはキュウビ族が残っているんだわん」
支部長さんをしっかりと見つめ、この街を預かる立場から告げる。
「緊急ミッションの発動を要請するわん!」
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