第65話 正式サービス開始

―― Unmemoryアンメモリー Worldワールド Onlineオンライン

   現実リアルを超えた剣と魔法の世界の物語。


 市販レベルでは世界初となるフルダイブ方式のVRヘッドセットを用いたVRMMOが満を持して正式サービスを開始しようとしていた。

 とはいえ、正式サービス前のメンテナンス後、一斉にサービス開始という訳ではなく、ベータテスターが順次ログイン開始となり、次に招待用ライセンスでのログイン開始、最後に抽選により選ばれた新規プレイヤーのログイン開始と段階的なスケジュールになっている。

 そのため、正式サービス開始直後の混乱もなく、予想よりも静かな問題のない滑り出してあった。



「おはようわーん! ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん。遂に、遂に待ちに待った正式サービス開始のログインわん!」

 メンテナンスに数日、ログイン待ちに数日、やっとログイン可能になったことで自ずとテンションも高くなる。


▽[わん太テンション高いなw そこまで劇的に変わってるわけじゃないぞ]

◎[うわっ、犬獣人?さんですか? とってもトゥーンっぽいんですけど]

◆[お、初見さんかな。これは特殊個体なので残念ながら選べない種族だぞ]


 正式サービス開始第一弾でアンメモのプレイ人数もベータ時の三倍、その後も順次拡大予定となっているらしく、一気にプレイヤー数が増えることになる。


「お、もしかして初見さん? ちなみにボクの種族はパウリ族わん。街で見かけたらよろしくわん」

 新たなプレイヤーと会えるのもMMOの醍醐味と言える。ちなみにMMOは多人数同時参加型のゲームのことだ。


◎[あ、はい。ログインは数日先ですけど会えたらよろしくお願いします]

◯[会えたら……、うん、会えるといいね]

▽[まあ、正式サービス開始で何らかの対処がされたら会えるかもしれないし……]


「ほら、ログインしたら王都かもしれないわん。正式サービスでファストトラベル的なのが実装されてるかもしれないし……」

 ファストトラベルとはいわゆるワープとかテレポートとかのようなゲームでよくある移動方法のことだ。


◆[残念ながらファストトラベルはまだ見つかってないよ]

▽[まぁ、ログインしたらびっくりするようなところに出る可能性は残ってるなw]

∪[ともかく、そろそろログインできるんじゃない?]


「あ、ほんとだ。それじゃあログインするわん!」

 遂にログイン可能時間になったみたいだ。ロビーからアンメモにログインを行った。


 ふわりとした軽い下降感を感じて目を開けると……

「ふぇっ?! ここどこわん? って空?!」

 足元には見たような街並みが広がっており、空中から人々が行き来する様が見えた。


◯[草。やっぱりびっくりするよな]

▽[俺もログインしたら空中で焦ったわwww]



―― 『ようこそ、Unmemoryアンメモリー Worldワールドへ』


   ここは『パウリの街』多くの種族が集まる街です。


   貴方の旅路ストーリーに決められた道筋はありません。

   まだ見ぬ地を求めて旅立つのも、スローライフを求めて生活するのも自由です。


   もう一つの現実リアルUnmemoryアンメモリー Worldワールドを楽しんでください。



 オープニングともいえるアナウンスが流れ、吸い込まれるように真下へと転移した。



「おや、わん太ちゃんじゃないか」

「ここんとこみなかったね。串焼き持ってきな」


「おばちゃん、ありがとわん。今度は買いに来るね!」

 広場に降り立った途端に街のみんなに取り囲まれてしまう。今日もパウリの街は賑わっているようだ。



―― パウリの街を城下街にしよう。

   ミッションをクリアしました。



「え、城下街?!」

 突然目の前にポップアップしたミッションクリアのメッセージに思わず声をあげる。


「あれ、知らなかったのかい? みんな、わん太ちゃんが居ない間に完成させるぞって張り切って家を改装したんだよ。ほら、あれを見てご覧」

 屋台のおばちゃんが指差す丘の上には、小さいながらも屋根瓦の輝く城が建っていた。


∪[凄い、小さいけど城だね。天守閣があるw]

❤〚観光地にあるお城みたいでかわいい〛

▽[まあ、城は城だな。それより、パウリ城下街になったのか、おめでとう]


「ありがとわん。この後は『都』とかに発展できるっぽいわん。けど、住民をかなり増やさないといけないみたいだね」

 建国メニューも色々増えてるみたいだけど、確認は後にすることにしよう。


 街を見回すとあれこれと知らない建物も増えている気がする。というか、あまり街の探索自体行っていないことに気づいた。

「一応自分の街なのに何があるか知らないってのもどうなんだろう?」


◯[まあ、そんなこともあるさ。けど、街の中は見てみたいな]

∈[王都ラナよりは小さそうだけど、コトの街よりは既に大きいにゃ]

△〚街歩き配信希望!〛


「あれ、意外と街の探索も需要ありそうわん。面白そうだし、今度見て回ろうかなぁ」


「わんたー、いたー」「わんわん!」

「騒がしいと思ったら、わん太が戻っておったのか。これで宴会ができるな」

 なにやら食べ歩きをしていたらしき、フェンとヴァンにヒルメさんが大きな荷物を抱えながらやってきた。


「宴会?」


「そうだ、わん太の城の完成祝いは必要だろう。皆、待ちわびて既に二日酔いになってるものもいる始末だ」

 そんなヒルメさんの手にも酒瓶が握られてるのだが……


◎[二日酔いって、既に宴会が始まっているのでは?]

∈[わん太のとこは何かと宴会を開いている気がするにゃ]

▽[くそー、俺もそこで宴会したい。運営はファストトラベル実装してくれ!]


「良くわかんないけど、城の完成祝いってことで良いのかな?」


「うむ、そうじゃ。ということで、皆の者! 宴会だー!」

「おぉーっ!」「おっしゃー!」「わん太様バンザーイ!」

 ヒルメさんの掛け声とともにみんなが集まり宴会に突入するのだった……。



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