第十二回 伊与原新著 月まで三キロ

 皆さんお久しぶりです。うすしおの読書備忘録の時間です。台風の中で今日もやっていきま……って、前置きしてる場合じゃないよ! 今回は早めに紹介するぞ!


 今回紹介するのは伊与原新著「月まで三キロ」です。まず一言だけ感想を述べます。


 今の時期に読んでよかった……!


 この小説は、自分が出会うべき小説だったなとひしひしと感じました。六篇(文庫本の方では掌編が一つあります)ある短編集で、全体的なテーマとしてはヒューマンストーリー×ちょっぴり理系って感じです。全て独立したお話なので、あの話の人物がここにつながってきて……みたいな感じではありません。


 この短編の中で僕が一番好きだったのが「アンモナイトの探し方」です。中学受験によってストレスを背負い、北海道の祖父母の家で静養している朋樹ともき君が主人公です。


 この少年は進学校を目指しているということもあり、勉強ができていろんなことを知っているんですよ。アンモナイトは中生代の示準化石である……みたいなこととか。受験が終わった僕からしたら「懐かしっ!」となるところなんですが、この少年が得ている知識って、塾や勉強机で教科書や問題集を見ながらカリカリやって身に着けているものにすぎないんですよね。だから、そもそもアンモナイトって何なのよって訊かれたら「知らないですよ、そんなの受験に出ないんで」みたいな感じになっちゃうんです。しかし、朋樹君はそんな自分を俯瞰的に見ていて、と思っているのは確かなんです。


 そんな悩みを解きほぐしてくれるのが、山の中の川で化石採集をしている、博物館の元館長である戸川というおじいさんです。戸川は朋樹に化石採集をやらせることで、実際に手を動かして物事を理解させ、ということは一体どういうことなのか、というのを教えてくれるんです。


 主人公の朋樹君が自然世界に触れ、知識を得ることが自分にとってどういうものであるのかを気づいてゆき、自分自身が形成されていく流れが本当に大好きで、朋樹君がえた答えがとてもまっすぐで、電車の中で読んでた僕は危うく泣きそうになりました(笑)。受験で問題集ばっか解きまくって、実際手を動かすことが苦手な僕に凄いぶっ刺さったんです。


 こんな感じで、人間ドラマと理系の掛け合わさった短編集、というテーマがあるのがこの作品の特徴です。本当にドラマチックに、あまり通な感じがしない話になっているので、理系に精通していない方でも楽しめると思いますし、自分の中の新たな発見もできる作品だと思います。僕はこの作品で、国際宇宙ステーションが地上でも肉眼で見れることを知りました(笑)。


 あと、創作活動について書かれている対談も面白かったです。文庫フェアの中の一冊に選ばれているので、よかったら読んでみてください! 僕はそれに気付かずに偶然買って、特典のキュンタくん栞をもらいました。キュンタくんがタコの足の上で、水中で読書しているデザインの栞です。読了ツイート(今はポスト?)なんかで写真撮ったら映えそうですね。それではまた!


 次回の備忘録「綾辻行人著 十角館の殺人」


 ↑これ、今から読みます(笑)。


 

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