第30話 ミッション10、フィナーレラブ
「ごめんね……」
「いいわよ、そういうことだったんだね」
何もかもが終わって、俺はセイランさんに謝っていた。
彼女は
「ごめん、そしておめでとう」
おーーーい!!
男子高校生の夜よ、なにいっぺんに解決しようとしてんだよ!!
「いいわよ、ほんとにめでたいんだもん。あのアネラ様に婚約者ができるなんて私も嬉しいわ」
ったく、そんなことを言われたら余計に申し訳なくなる。
俺は改めてセイランさんの人の良さを認識した。
セイランさんに出会ってから、ずっと疑問に思っていたことがある。
この子ってアネラさんの友達じゃないのかって。
でも、今やっと理解した。
この世界には日本では想像できないくらいの身分の壁がある。
セイランさんが『様』を付けてアネラさんを呼んでいるのが何よりの証拠。
いつか、セイランさんも
「ふはーっ、生き返るぅ」
「それはなんですか?」
セイランさんと
それを見て、アネラさんは首を傾げている。
せっかくだから国王は舞踏会を続行させた。
アネラさんは一緒に踊りませんかと誘ってくれたが、その前に体力を回復させる必要があった。
今ならアイドルの気持ちが分かる。
これ、癖になるやつだ。
こころなしか、酸素が体を巡っているような気がする。
さっきまでの疲れは嘘のように吹き飛んだ。
「酸素缶だよ」
「サンソカン?」
「空気中には酸素というものがあってね、人間が生きるにはそれを吸う必要があるんだ」
「ふふっ、しゅんって面白いですね! まるでそこの吟遊詩人―――」
「そこで飲んでるあいつを今から王宮からつまみ出せ!!」
しばらく会っていなかっただけで、このようなやり取りが懐かしく感じる。
今ならちゃんと分かる、俺はほんとにアネラさんのことが好きだ。
「準備が出来たよ」
「はい♡」
アネラさんが差し出した手に自分の手を重ねて、彼女のもう片方の手を軽く握る。
アネラさんが踊り出すのに合わせてゆっくりと足を動かす。
「しゅんはダンスが下手ですね」
「こっちは庶民だぞ」
「そんなしゅんを私は好きになりました♡」
やめろ。
めっちゃくちゃ恥ずかしいからやめろ。
改めてアネラさんが俺の婚約者になったことを意識すると、彼女の顔を直視できない。
あの日、空き巣コスプレイヤーだと思っていた女の子が今は俺の婚約者だなんて、正直夢にも思わなかった。
「そういえば、あのときなんで俺の返事を聞かなかったの?」
「私の寝室から宝石類が消えたのをお父様が気づいたから、もしかしてもうしゅんに会えないかもと思いました―――痛っ♡」
「感傷的に言ってるけど全部お前のせいだろう!」
いらっとしたので、アネラさんの手を離して、彼女の頭に載せてあげた。
周りに聞かれないように、もちろん小声で話す。
今犯人がアネラさんだとバレたら、俺はきっと地球に帰れなくなる。
「これからも俺の部屋に来れる?」
「はい、これからもしゅんの部屋を占領しますね―――痛っ♡」
「確信犯じゃないか!?」
小さく舌を出すアネラさん。
うん、めっちゃくちゃ腹立つな。
というか、アネラさんはいつ『てへぺろ』を覚えたんだろう。
あんなに『グランドオブガン』に夢中していたのに。
間違っても『グランドオブガン』に『てへぺろ』は存在しない。
撃たれててへぺろなんてできるやつは世界ランカーにもいない。
帰ったら調べてみる必要がありそうだ。
あれ?
今気づいたけど、宝石類盗難事件全然解決してなくない?
「というか、お前元の部屋に戻れるのか?」
「お父様に許可を貰いました。もう宝石類はないから、犯人はもう現れないと言い聞かせてなんとか―――痛っ♡」
「犯人はお前だ!」
なんでちょっともの寂しそうな顔してるんだ?
そんなに『グランドオブガン』に課金できなくなることが悲しいのか?
「しゅん」
「どうした?」
「会いに来てくれてありがとう」
慣れないステップを踏んでいると、アネラさんは次第に俺の目を見つめてそう言った。
なんのこともない、ただの感謝の言葉だ。
でも、それだけで異世界にアネラさんに会いに来てよかったと思えた。
「これでまた『グランドオブガン』をプレイできますね―――痛っ♡」
「ゲームはもうやめろ!!」
「
「……そうは言ってない」
「ふふっ♡」
「笑うな!!」
ったく、どこでそんな台詞を覚えたんだか。
にしても、アネラさんの笑ってる顔はほんとに無邪気な子供みたいだ。
あどけなくてそれでいて綺麗で、大人びていてけれどどこか子供っぽい。
「私の告白の返事、聞かせてくれませんか?」
「ちゃんと言ったじゃん、さっき」
「そんなの、返事のうちに入りません♡」
ったく、調子狂うな。
アネラさんはいつもよりしおらしいし、よほど俺と婚約者になったことを意識しているのか、顔も赤い。
「俺も……」
「俺も?」
「お前が好きだ」
「よく言えました」
俺の返事を聞いて、アネラさんは嬉しそうに笑った。
ほんとに今更だな。
すでに婚約者になっているのに、告白の返事が聞きたいなんて。
むず痒くてしかたがない。
「しゅんの顔すごく赤くなってますよ?」
「お前もな」
額をぶつけ合って、お互いにふふっと笑ってしまう。
やはり、俺にはアネラさんがいないとダメらしい。
お母さんは俺のこと面白い子だと言ってくれたけど、俺の言葉で笑ってくれた女の子はアネラさんが初めてだ。
それほどアネラさんは俺にとって特別な人だ。
もし、あの日俺の部屋のベランダと彼女の寝室のベランダが繋がっていなかったら、俺はきっとこの感情を知らなかっただろう。
「俺の足、踏んでるんだけど」
いつの間にか、アネラさんは俺の足を踏んでいた。
決して痛くはないが、抗議くらいはする。
「踏んでますね」
「足を退けて欲しいけど」
「そうみたいですね」
「なにが目的だ?」
「しゅんの世界に帰ったら、焼肉味の―――痛っ♡」
「お前毎日焼肉食ってただろうが!!」
会場の明かりが暗くなった瞬間、俺はアネラさんと……いや、こう言うとまたご都合主義に聞こえるから言い方を変える。
フィナーレに向けてロウソクの火がだんだんと消えていく中、俺とアネラさんは二度目のキスをした。
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ご愛読ありがとうございました。
『人形姫』の気分転換に始まった作品ですが、みなさまの応援のおかげでここまで来れました。
ほんとにありがとうございます。
一応、後日談を載せておきます。ほんとにありがとうございました!
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