第29話 ミッション9、リスペクト俺の意思
「しゅん!」
「なんだ?」
「嬉しい……♡」
アネラさんは一瞬目を大きくして、やがて俺を抱きしめる手にさらに力を込めた。
アネラさんの体温が直に伝わってくる。
彼女の心臓の鼓動も、呼吸も肌で感じられる。
「貴様!! アネラをたぶらかしたな!!」
「お父様! この方を誰だとお思いですか!?」
そんな俺たちを見て大声を出した国王に、アネラさんはそれ以上の声で制する。
普段見ない娘の様子に国王は大きく目を見開いた。
「この国を根幹から支えているコセキ制度を考えた殿方ですよ!」
おーーーい!!
俺はなにもしてないぞ!!
というか戸籍制度は俺が考えたものじゃないから、その言い方はやめろ!!
「今なんと……?」
「この国を豊かにし、隣国との貿易を円滑にし、身分証明の役割を持ち、犯罪を減らしたコセキ制度は実はしゅんが考えたのです!」
やめろ!!
大半は全然俺の知ってる戸籍制度じゃないからやめろ!!
何もしていないのに絶賛されるとこんなにも恥ずかしいものなのか。
吟遊詩人のメンタルが羨ましくなってきた。
「ア、アネラ……その話はほんとか?」
「ほんとです!」
「なぜそれを早く言わない! この国を救ってくれた英雄に粗相をしでかしたではないか!」
あれ?
国王の態度が一変したぞ?
「しゅんをいつかお父様に紹介する時に言うつもりだったのですが……まさかこのような形でしゅんとお父様が対面するとは思いませんでした」
うん、全部お前のせいな?
お前が『グランドオブガン』に課金しなかったら、こんなことにはならなかったと思う。
「これは失礼した。しゅん殿、こっちも槍を収めるゆき、その黒い剣……いや、鉄砲か……を収めて頂けないか」
黒い剣? 鉄砲?
あっ、バナナのことか!
自分でも忘れていたな。
そういえば、バナナを出しっぱなしにしてた。
とりあえず、急いでバナナをカバンに入れる。
正直に言えば、ほんとは入れたくない。
もう腐ってるから、捨てたいくらいだ。
昨日はセイランさんがいきなり入ってきたから慌ててカバンにしまっただけだし。
国王の言葉に反応して、衛兵が少しだけ離れていく。
ただ、国王の護衛としてはまだ少し警戒するそぶりを見せている。
これは俺というより、バナナのほうを警戒しているな。
それほどカバンに入れたとはいえ、バナナはまだ怖いらしい。
「改めて礼を言う。しゅん殿が考案したコセキ○奴……失礼、コセキ制度は我が国の財政を建て直しただけでなく、今では身分確認にも用いられている」
あれ?
今危ないワードを口にしなかったか?
いや、きっと俺の気のせいだろう。
一国の王様がそんな下品な単語を口にするはずがない。
というか、俺が考案したものじゃないから、お礼なんて言わないでくれ。
普通に恥ずかしすぎる。
「お父様ったら、何度言えば分かりますか? コセキ制度です!」
お前のも違うから!!
戸籍制度だからな!!
「しゅんのことがお父様にバレては仕方がありません。お父様、私はしゅんと婚約します!」
「「なんだと!?」」
奇しくも、国王と声が被ってしまった。
なんだろう、この妙な親近感は。
「私はもう16歳ですよ!」
なるほど、こっちの世界の結婚適齢期は16歳くらいか。
いや、婚約だからもう少し上か。
にしても婚約者とか、ほんとにヨーロッパ中世みたいな世界だ。
「お前は一生嫁に出さん!!」
「往生際が悪いです、お父様! 私はすでにしゅんに胸を揉まれていますわ!」
「「なんだとっ!?」」
またしても俺と国王の声が被ってしまった。
今回は親近感というより気まずさを感じる。
それをここで言うか……。
あのときアネラさんの性欲に甘えておっぱいを揉んでしまった自分を殴りたい。
「アネラよ! そんなことを公衆の前で言うんじゃない! 嫁の貰い手がなくなるではないか!」
「さっきお父様は私を一生嫁に出さないと言ったではありませんか?」
「そ、それは……」
「それは?」
なんか、娘の扱いに
俺だっていつか娘ができて、そんなことを告白されたら卒倒する自信はある。
今ので倒れなかった国王はきっと数多の修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。
でないと心臓が止まってもおかしくはない。
「なんでよりにもよって貴族たちが集まっているこの場でそんなことを大声で言うのかな……これじゃ、ほんとにお前としゅん殿の婚約を認めるしかないじゃないか」
国王の葛藤がひしひしと声色を通して伝わってくる。
ただ、一つ忘れてはいけない。
そう、俺の意思だ。
俺はまだ16歳だから、結婚なんてまだ先のことだと思っているし、アネラさんとはちゃんと付き合っていく上で結婚について考えたい。
「あの……俺はべつに―――」
「そこまで言うなら仕方ない! お前としゅん殿の婚約を認めようじゃないか!」
「いや、俺の意思は―――」
「しゅん殿も嬉しかろう! 好きな女の子との婚約だぞ? なっ! なっ!」
なんだろう。
俺が断ろうとしたとたん、国王の圧が強い。
あれか。
ここで俺に断られたら、
ほんと、親バカだな。
でも、なぜか他人事だとは思えない。
「ちょうどみんなも集まっていることだし、余はここでエメラルドリア王国第一王女、アネラ・
俺の意思を無視して国王はバカでかい声でそう宣言してしまった。
こうして、俺はまだ高校二年生にして婚約者ができてしまった。
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