第28話 ミッション8、ラスト兵器

「どうしてこうなったっ!?」『どうしてこうなったっ!?』


 状況が飲み込めず思わず叫んだら、反響してやまびこのように会場で木霊する。

 国王と吟遊詩人は我が意を得るようなムカつく顔でゆっくりと歩いてくる。

 

「セイランよ、貴女まで盗人に加担するとは思わなかったな」

「陛下! これはなにかの間違いよ! この人達がヒノモトという国の貴族ですわ!」

「ヒノモト? 聞いたこともない国だな。貴女は騙されたんだ!」


 セイランさんに国王は憐憫の目を向ける。


「貴方たち、私を騙したの……?」


 男子高校生の夜の出任せの嘘とはいえ、本当のことを言わなかったのは俺も一緒だ。

 返す言葉もなく、俺は申し訳なく項垂れた。


「そんな……」


 よほどショックだったのだろう。

 セイランさんの声は弱々しくなった。


「私の話は、村の畑を荒らしたのはほんとは魔物ではなく、仲間だと思われていた一人の村人というものだった。それを聞いて明らかに動揺したのは貴方だけ。つまり、貴方が王宮に出入りする立場で、外部の犯行と見せかけてアネラ様の宝石類を盗み出した犯人にほかならない」


 おーーーい!!

 こっちは怖い話かと思って冷や汗かいてるだけだ!!


 まさか、こんな時に怖がりに足を掬われるとは思わなかった!!

 これじゃ、万が一吟遊詩人が誰かを犯人と言ってパニックが起きた際に、アネラさんに会いに行くことも出来なくなったじゃないか……。


 ならば、一か八かやるしかない。

 このまま死刑になるよりはマシだ。


「動くなっ!!」

「なんだ!! その黒い物体は!?」

「俺のブラックバナーナソードが火を噴く前にここから離れろっ!!」


 何を隠そう。

 俺は急いでカバンからバナナを取り出して構えたのだ。


 それを見て国王は目に見えて動揺している。

 今この瞬間ほどバナナを持ってきてよかったと思ったことはない。


「ソードだって!! 剣よ!! きっと伝説の剣よ!!」

「火を噴くって言ってたわ!! きっと鉄砲よ!!」


 いや、ただのバナナだ。


 この国の人は十中八九バナナを知らない。

 ましてここまで黒くなったバナナは俺も知らない。


 案の定、黒いバナナを見て、我が身大事な貴族たちは一目散に逃げ出した。


「バナーナアタック!!」

「ひっ!!」


 それっぽくバナナを振り回してみる。

 それを見た衛兵たちは何人か後ろに倒れた。


「貴様!! 要求はなんだ!!」


 あれ?

 国王が案外食いついてきたな。


 パニックを作り出して逃げるつもりだったけど、まさか国王から会話を持ちかけられるとは思わなかった。

 男子高校生の夜は冷ややかな目で俺を見ているが、今は気にしたら負けだ。


 この場を切り抜けることこそ最優先事項。

 あと、決して俺らの目的はアネラさんだと悟られないように―――


「アネラさんに会わせろ」


 おーーーい!!

 男子高校生の夜よ、国王親バカに知られれば、もはや会うのがもっと困難になることも分からないのか!?


「貴様……今なんと言った……?」


 ほら、言わんこっちゃない。

 国王の声は低く重いものになっているじゃないか。


 それはほんとに怒っている証拠だ。


「アネラに害虫が付いたようだな……生け捕りにしようと思っていたが……」


 やばい!

 やばい……!


 活路は見いだせない。

 もはやここまでか……。


「アネラ様、いけません!!」

「アネラ様、今宝石類を盗んだ犯人が会場にいるので危険です!!」

「アネラ様を男どもが出席している会場に通したら陛下になんて叱られるか!!」

「しつこいです! 通しなさい!」

 

 万事休すと思われたその時だった。

 会場の外からけたたましい声が聞こえてくる。


 その中に懐かしい声もあった。


「しゅん!」

「お前っ!? どうやってここに来た!?」


 侍女も本気でその人を止めることが出来ず、彼女は俺らを取り囲んだ衛兵たちをかき分けて中へと入ってきた。

 すると、ラベンダーとじゃがいもの香りが鼻腔を優しく刺激してくる。


 そう、アネラさんだ。


「しゅん、会いたかった!」


 次の瞬間、知らない感触に身を包まれた。

 アネラさんは俺を抱きしめたのだ。


「ア、ア、アネラよ、これは一体……どういうことだ!!」


 驚いてるのはもちろん俺だけじゃない。

 国王親バカもだ。


「い、いつ男とこんな親密な関係になった!?」


 いや、国王親バカだけではない。

 アネラさんが男から隔離されているのはここにいる全員が知る事実だ。


「お前、保護されているんじゃなかったのか?」

「しゅんの声が聞こえたから無理やり来ちゃいました♡」


 まさか、パニックを作るために叫んだことがこのようにことを運ぶとは正直予想もしていなかった。

 思わぬ形で俺はアネラさんと再会した。


 とたんに、体から力が抜けていく。

 俺は今いわゆる放心状態になった。


 この世界に来てからずっと不安だった。

 帰れるかという心配もあったが、アネラさんにもう会えないのではないかという不安が何度も脳裏を過ぎった。


 それがこうして、また好きな女の子に会えたのだから。

 気づいたら、俺はアネラさんを抱き締め返していた。


 ずっと会いたかった。

 もう一度会いたかった。


 アネラさんに俺の気持ちを伝えたかった。

 ちゃんと告白の返事をしておきたかった。


 それが今ならできる……。


「アネラさん、俺はお前が好きだ……」


 保留にされていた俺の返事はやっとアネラさんに届いた。

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