第27話 ミッション7、ストップ怖い話
翌日、俺らはセイランさんの馬車に乗り、王宮へと向かっていた。
検問はあったが、公爵令嬢のご友人と言われれば衛兵もしつこく質問するわけにはいかなかった。
馬車から降りて、舞踏会が開かれる宮殿に向かう。
俺と男子高校生の夜は怪しまれないようにセイランさんにこの国の服を借りた。
Tシャツで計画を台無しにしたら元も子もない。
ここまで来たんだ、是が非でもアネラさんを連れ戻す。
ただ問題なのはどうやってパニックを起こすかだ。
犯人は来賓の中にいない。
これだけは明確だ。
もはや真理に近い。
「すごい……」
いつの間にか、俺らは舞踏会の会場に到達した。
天井に吊るされているロウソクを照明に使っているシャンデリアを見て、気づいたら俺は感嘆の息を漏らしていた。
「あれを見ろ」
ただ、そんな感慨深い気持ちも男子高校生の夜の指さす方角を見れば怒りへと変わった。
「ポテトチップスじゃないか!?」
「知ってるの? アネラ様が考案した新しい料理よ」
なにが『アネラ様が考案した新しい料理』だぁ!?
アメリカ人の知恵がふんだんに詰まっているわ!!
それだけじゃない。
各机の上に七輪が置かれていて、その周りには生肉が配置されている。
「どう見ても焼肉じゃん!!」
「ヤキニクのことも知ってるの? これもアネラ様が―――」
「もういい!!」
俺の心配を返せ。
ご飯も喉を通らないかもと思ったのに、目いっぱい地球の料理を楽しんでいるじゃないか。
それでよくも焼肉味のポテチを俺に強請ったな。
どんだけ食い意地を張ってるんだよ。
「普通に美味いぞ」
あれ?
いつの間にか、男子高校生の夜はトングを手にしてお肉を焼いてる。
しかも、肉の焼き加減を確認するために鼻を七輪に近づけている。
彼の
どれどれ?
「うぅっ!!」
「どうしたのっ!?」
美味い!!
なにこれ!!
肉が口の中で溶けたぞ。
口いっぱいに広がっていく濃厚な香り。
こんなもんを食べてどうして『普通に美味い』という感想しか出てこなかったわけ?
絶品だ!!
こんなに美味い肉食べたことがない!!
しかもこのソースも、日本の最高級の焼肉屋でしか出されないやつだ。
食べたことがないから、想像でしかないが。
「本日はみんなに集まって頂いて礼を言う」
誰だ?
俺が最後の晩餐になるかもしれない焼肉を食べている時に大声で話してるのは。
肉の余韻が損なわれたじゃないか。
犯人を探しに声のする方角に目を向けると、豪華な階段から登れる二階に王冠を被っている髭を蓄えた男が立っている。
間違いない。
その人が
「舞踏会に移る前に、みんなもさぞ待ち望んでいた天下の吟遊詩人、タケル・サイトウにまた珍しい話をしてもらうぞ」
「やったー!」
「待ちわびたぞ!」
「今回はどんな話を聞かせてくれるかな!」
国王の言葉に来賓は熱狂した。
どんだけ人気なんだよ、あいつ。
しばらくすると、会場の正面にあるカーテンが開かれ、中から20代に見える男が姿を現した。
たぶん、やつが例の吟遊詩人だ。
うん、どう見ても日本人だ。
少し鼻が高い気もするけど、
しかもかなりのイケメンだ。
これなら、俺と男子高校生の夜が見ない顔立ちと判断されるのも納得が行く。
イケメンとは人種からして違うのだから。
「皆様、国王陛下のご紹介にあずかりました、タケル・サイトウです。今晩はみんなに私が考えた新しい話、『勇者と魔王』をお聞かせしましょう」
おーーーい!!
どう考えてもお前が考えた話じゃないだろう!!
なにちょっと得意げなんだよ!!
いい話を思いついたぜみたいな顔をやめろ!!
「むかしむかし世界は魔物の脅威に晒されていた」
俺の内心の叫びをよそに、会場が静まり返ったのを見計らって吟遊詩人は語り出した。
「魔物とは、人間とは違う外見を持つ恐ろしい生き物で、それらをまとめているのが、魔王」
よし、決めた。
俺はこれから絶対にアネラさんの前で『魔物』と『魔王』の話はしない。
へたしたら俺のがパクリだと思われる危険がある。
「それを討ち取るべく、ある村に一人の男が立ち上がった、彼こそ勇者」
それから、オタクの俺が飽きた設定や展開を自慢げに語っていく吟遊詩人。
ただ、その雰囲気は急に一変した。
「ある日、村人は勇者に畑を荒らす魔物の討伐を依頼した。でも、勇者が畑を何日も見張っているにもかかわらず魔物は現れなかった……」
やがて吟遊詩人は怖い面持ちになる。
「誰もが魔物の仕業だと信じて疑わないが、勇者だけが違和感を覚えた。自分がいるだけで畑を荒らすのを辞めたなんて、果たして魔物にそれほどの知能はあるのかと」
なんだろう。
怖い話を聞かされてるみたい。
勇者と魔王がホラーに出てくるなんて聞いたことないぞ?
というか、聞きたくない。
やばい、ちょっと怖くなってきた……。
「勇者は村人に疲れたから一日休ませて欲しいと伝えた。実は、彼は相変わらず畑を見張っていた。そこで案の定、人影が現れた……」
やばい、無理……。
俺は幽霊とか怖い話はほんとに無理なんだ……。
どうしよう、冷や汗が止まらない。
首の後ろが寒い。
ここで倒れたらどうしよう……。
そんなことを考えている時だった。
吟遊詩人は話をやめて、国王のほうに近づく。
「その人かと」
「うむ……取り囲め!!」
国王の号令によって、俺らは衛兵に取り囲まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます