第25話 ミッション5、ノット作戦会議

 セイランさんに一晩泊めてもらうことになって、宛てがわれた一室で俺は男子高校生の夜と作戦会議を始めた。


「どうする?」

「とりあえず喉乾いたから、水飲むわ」


 セイランさんに頼めば水は貰えたかもしれないが、それがH2Oかどうか分からないから自分が持ってきた二本の500mLの水を一本だけ開けてごくごくと飲み始める。

 

 ただ、それはあくまで理由の一つだ。

 なにより、重い。


 こんなもん、早く消費するに限る。

 背負ったら体力の消耗が早すぎる。


 500mlの水を二本持てば一キロになる。

 バカにできない重さだ。


 ほんとに持ってくるんじゃなかった。

 城から降りる時は命の危険を感じてぶん投げてやろうと思ったくらいだ。


「ふはー、生き返るぅ!」

「そんなに喉が渇いたのか」

「まあな」


 男子高校生の夜はいいよな。

 アネラさんが自分の寝室から宝石類を持ち出して換金して、『グランドオブガン』に課金しているの知らないから、平気でセイランさんの愚痴が聞けるんだ。


 俺なんか、途中から生きた心地がしなかった。

 別に俺が悪いというわけではないが、なぜかアネラさんのことは他人事だと思えなかった。


「俺にも水くれ」

「うん? 持ってきてなかったのか?」

「ロープでカバンがいっぱいだった」


 おーーーい!!

 ピンポイントでしか役に立たないアイテムのために容量ストレージを費やすんじゃない!!


 俺が聞いた時に『問題ない』と言ったのはなくても問題ないってことだったのか!?

 紛らわしいわ!!

 

 男子高校生の夜のことをドラ○もんだと思っていたけど、そうじゃなかったみたい。

 まあいい、ちょうどこの荷物H2Oを処理しようと思ってるところだし、助かったと思っておこう。


「助かる」


 男子高校生の夜は俺に渡された水をごくごくと飲み干す。

 その飲みぶりは壮観というほかない。


 なんだ。

 お前もめっちゃ喉が渇いてんじゃん。


「水も飲んだし、作戦会議を再開しよう」

「待って」

「どうした?」

「お腹も空いた」


 そういえば、この世界に来てからなんも食べてなかったな。

 来る前は牛丼高校生の財布に優しい食べ物を食べてきたけど、さすがにあれから数時間経ったから俺もお腹すいてきた。


「保存食あるけど食うか?」

「頂く」


 不覚にも深く男子高校生の夜の言葉遣いに、彼はほんとにヒノモトという国の貴族なのではないかという錯覚に陥った。

 カバンから保存食を取り出して、半分を男子高校生の夜に手渡して、半分を口の中に運ぶ。


 うん、美味い。

 普段なら絶対にそうは思わないが、お腹が空いてる時に食べると絶品だな。


 これならまだまだいけるぜ。


「もう少しちょうだい」

「あっ、ごめん、これしか持ってきてないよ」

「……」


 そこで黙るなよ。

 まるで俺が悪いみたいじゃないか。


 あれ?

 もし明日アネラさんに会えなかったら?


 俺らこの世界の金なんて持ってないよ?

 ということは、もう食料がないじゃないか!


「しまった!!」

「慌てるな」


 これが慌てずにいられるか!?

 明日なんとなくアネラさんに会えると思ったから、水と保存食を贅沢に消費してるんだぞ!?


 アネラさんに会えたとしても、彼女の寝室に辿り着けなかったら普通に地球に帰れないじゃないか。

 まさか異世界文明がある場所で遭難することになるとは、俺が甘かった……。


 こうなるのを予想していれば、うまい棒を箱買いしていたな。

 水もちゃんと2Lのやつを持ってくればよかった。


 いや、待ってよ。

 忘れてはいけない。


 俺にはまだバナナがある。

 よし、バナナの顔を見て安心しよう。


「うわーっ!!」

「夜中だぞ」


 どうしよう……。

 バナナが真っ黒になってしまっている……。


 部屋の明かりによって照らされたバナナはもはや昔の面影はない。

 カバンという密閉した空間に長時間入れたせいか、やつは悲しくも変貌してしまった。


 頼みの綱がいとも容易く切れてしまった。


「どうしたのっ!?」


 その時だった。

 部屋のドアが勢いよく開かれて、パジャマ姿のセイランさんが現れた。


「なにやら楽しいことをしているようだね! 私を混ぜなさい!」


 いや、帰れ!!

 こっちは生存について危惧している時だぞ!!


 お泊まり会みたいなテンションで来られても困る。

 とりあえず急いでバナナをカバンの中にしまっておく。


 この真っ黒なバナナを見て絶叫でもされたら、俺らは遭難する物理的によりも先に死んでしまう社会的に


「いや、お帰りください!」


 今は部屋を与えて頂いてる身だ、できるだけ丁寧な口調を心がける。

 アネラさんには部屋を占領されてる状況だから、遠慮などない。


「私だけハブる気!?」


 いや、そもそもセイランさんはなぜすでに仲間ノリなの?

 出会ってまだ数時間しか経っていないのに。


「どう考えても男子二人に女子一人は―――」

「俺は紳士だ」


 おーーーい!!

 男子高校生の夜よ、お前は入れる気満々だな!!


「ふふっ、そうだと思ったわ」


 やめろ!!

 その犯人の自白を聞いた時に余裕な笑みを浮かべる刑事みたいな顔をやめろ!!

 

 男子高校生の夜はともかく、俺は危険だ。

 いつイライラしてお前のおっぱいを鷲掴みにするか分かったもんじゃないぞ?


「お前も混ざれ」

「ちょっ……」


 作戦会議だというのに、なぜ男子高校生の夜は敵か味方か分からないやつを入れるんだ。


「やはり私の見込んだ男ね、物分りがいいわ」


 あれ?

 なんかすごいデジャヴだ。


 まさかセイランさんと男子高校生の夜が……いや、それはないか……。

 いつの間にか、セイランさんは俺らの隣に腰をかけて、保存食の袋に目を向けた。


「もうありません!」

「残念だわ……小腹が空いたのに……」


 セイランさんが無機質な保存食の袋を食糧と認識できたのは、多分屑が付いてるからだと思う。

 日本の高度に偽装された保存食を一目で食べ物だと見破れるわけがない。


 なぜだか、アネラさんを連れ戻す作戦会議にセイランさんが加わったのだった。

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