第24話 ミッション4 アネラさんロスト

「一体誰がアネラ様の寝室の宝石類を盗んだのかしらね」


 ごめんなさい、俺の知ってる人アネラさんです……。


「あんなに大量の宝石類は一体どこに消えたのだろう」


 ごめんなさい、俺の知ってる場所質屋です……。


「盗んだやつは一体なんのためにこんなことをしたのか見当もつかないわ」


 ごめんなさい、俺の知ってる行為課金です……。


 セイランさんの馬車に乗ってから、ずっと内心で謝ってばかりだ。

 彼女は宣言通り、アネラさんの寝室の宝石類を盗んだ犯人の愚痴をしている。


 そのおかげで、俺は胃が痛い。

 

「ところで貴方たち、一体どこの人? 見ない顔だし、コセキも持ってないじゃない?」


 やっと関心が俺らに向いたのか、セイランさんがついに俺らの身分について尋ねてきた。

 

 ぶっちゃけ、さっきからいつ聞かれるか気が気じゃなかったのに、おまけにずっと俺が申し訳なくなる俺は悪くないような話ばかりしてくるから、普通に拷問だ。

 一思いにさっさと聞いてこいと内心で何度思ったことか。


 さすが公爵令嬢と言ったところか。

 愚痴を聞いてもらうと言ったから、ほんとに有言実行しやがった。


 これが上流階級というやつかもしれない。

 ひょっとしたらほんとは犯人分かってるんじゃないかと思うくらいの粘着具合だった。


「俺らはヒノモトという国の貴族だ」


 おーーーい!

 なんで同じ嘘ばかりつく!?


 共犯者である俺でも飽きたわ!!

 少しは捻れよ!!


「なるほど、どうりで見ない顔立ちだと思ったわ」


 お前もか!!

 お前までもが俺を人類ホモ・サピエンス扱いするのか!!


 今は地球がいとしくてたまらない。

 グローバル社会になってるから、少なくともアメリカに行っても人類ホモ・サピエンスとして認知されることはない。


「今は国の商人たちはみんな海を渡ってるから、今まで国交のなかった国の人達がよく来るのよね……」

 

 なるほど、この世界は今大航海時代なのか。

 どうりで男子高校生の夜の嘘が通じるわけだ。


 にしても、アネラさんがいないとどうも調子がおかしい。

 今になって無性にアネラさんに会いたくなってきた。


 元気にしているのだろうか?

 もしかしたら、俺に会えなくてご飯も喉を通らなかったりして?


 まあ、一番ありうるのはポテチが食べられなくて泣いてることだな。

 あれほど焼肉味のポテチが食べたいと言ってるから、一度くらい焼肉に連れてあげてもよかったかも。


「苦しゅうない」


 おーーーい、なんで本物の貴族に対して上から目線なんだよ!!

 男子高校生の夜よ、お前は忖度という言葉を知らないのか!?


「ふーん、なかなか気品のある男ね」


 おーーーい、尊大と高貴を履き違えてるぞ!!

 お前はほんとに公爵令嬢なのか!?


「ところで、そのカバンってなかなかいい材質ね。珍しいものでも入ってる?」


 さすが公爵令嬢といったところか。

 日本の繊維業界の結晶に目をつけるとはなかなか見る目があるじゃないか。


 ただ、言葉はもっとオブラートに包んだ方がいい。

 お土産強請りなのは分かっているぞ。


「ちょっと待ってください……あった」


 急いでカバンから日傘を取り出して、セイランさんに手渡す。

 しょうがない、俺は忖度が分かる男だから。


「これって傘?」

「はい、日差しから肌を守る一品でございます」

「ふーん、貴方たち気に入ったわ」


 俺から渡されたおしゃれな日傘を見て上機嫌になるセイランさん。

 なんて現金なやつだ。


「ちなみにですが、その戸籍というのはなんでしょうか?」


 ただ、俺もただ手をこまねいてるわけじゃない。

 相手の懐に取り入れたと思った瞬間にすかさず質問だ。


「コセキのことね。アネラ様が提案した画期的な制度だよ」


 微妙に訂正戸籍→コセキされてるのは気のせいだろうか。

 きっとイントネーションの問題だ。間違っても、セイランさんは自分の方が本家だと思っていまい。


 にしても、なんとなく察しはついていたが、改めて言われると腹が立ってくるな。

 初めて会った日にアネラさんはやたらと戸籍のことについて聞いてきたと思ったら、このようにパクるためだったのか。


 ほんとに侮れない女の子だな。

 今そばにいないのが悔しい。


『痛っ♡』


 彼女の頭を撫でてあげて、この悲鳴を聞くことも出来ない。


 俺は改めて決心した。

 かならずアネラさんを連れ戻す。


「実はね―――」


 おっと?

 戸籍、いや、コセキについての説明はまだ続きがあるみたい?


「外国の人も入れるのよ? コセキに。貿易の税収が二割減になるから、この際―――」

「―――お断りします!」


 おーーーい!!

 この国の人はどうなってんだ!?


 なんで衛兵から公爵令嬢までコセキの勧誘してんだよ!?


 ましでアネラさんを連れ戻したら問いただそう。

 彼女とはじっくり話し合う必要があるみたいだ。


「アネラさんに会う方法はないのか?」


 あれ?

 男子高校生の夜がいきなり核心ついてきたぞ?


 女の子の話を最後まで聞かない男はモテないぞ。


「実は……あるわ」


 セイランさんもミステリアスにならなくていいから。

 なにもったいぶってるんだ。


「明日、王宮で舞踏会が開かれるから、ひょっとしたら……」

「ひょっとしたら?」

「会えるかもしれないわ」


 なんだろう。

 さっきからこの二人意気投合してないか?


「俺らを連れてけ」

「そうだね、プレゼントも貰ったことだし、いいわよ」


 あれ?

 俺がいないところで話が進んでない?


 というか、プレゼントあげたのは俺だよ。

 なんで二人で完結してるんだ。


 まあいい。

 なにしろ、これでアネラさんに会えるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る