第20話 作戦指令10、花火を打ち上げろ!
「回るぅ! 回るぅ! 回るっ!!」
「もっと回して差し上げますっ!!」
「やめろ!!」
お化け屋敷の後、色んなアトラクションに乗り、その後昼食を挟んで、またたくさんのアトラクションに乗った。
さすがにアネラさんの体力とテンションについていけなくなり、俺は休憩を提案した。
それは意外と
心地よい緩かなな回転とともに、遊園地の景色を眺められるというのも案外悪くない。
俺のプランに一つ欠陥があるとすれば、それはティーカップ自身も回ることだ。
「
「こんなに地球人に優しくない回転してないからっ!!」
アネラさんはその仕組みを理解したとたん、地球の自転が聞いて呆れるくらいのスピードでティーカップを回し始めた。
そして、俺の悲鳴を
「楽しかったですね!」
「……」
やっとティーカップを降りたアネラさんは乗る前より元気そうで、ほんとに休憩していたかのようだった。
それとは対照的に、俺はくたびれている。
「次はもっかいジェットコースターに乗りましょう! ―――痛っ♡」
「俺の内臓をダメにする気か!」
死の宣告をしてきたアネラさんの頭に急いでお化け屋敷の忘れ物コーナーで回収したパンフレットを載せてあげた。
「次は観覧車に行こう?」
「カンランシャ?」
「ゆっくり上に昇っていって、遊園地の景色を一望できる乗り物だよ」
「
やはり
アネラさんはすぐにターゲットをジェットコースターから観覧車に切り替えた。
「うわー、綺麗です!」
観覧車に乗り、少し登ったところでアネラさんは外を見渡して溜め込んだ感嘆の息を漏らした。
さっきのティーカップのせいか、彼女の本来の銀色の髪が
「しゅん」
「なんだ?」
「私をユウエンチに連れてきてくれてありがとうございます」
まさかアネラさんの口から感謝の言葉が出てくるとは思ってなくて面食らってしまった。
「男子高校生さんの強さの秘密なんて最初から存在しないと分かっていました」
なんと、彼女の口からさらに驚きの告白が出てきて俺を驚嘆させる。
「
信じられなかったから、思わず考えるのとともに聞き返してしまった。
だって、アネラさんはずっとその
「しゅんが嘘をつくから、やり返して差し上げようかと思いました♡」
「確信犯じゃん!!」
「嘘つきが何か言いましたか?」
ちなみに、俺とアネラさんは向かい合って座っている。
だから、彼女から
思い出した。
というより、ずっと考えないようにしていたのだが、アネラさんは最初から賢い女の子だった。
オタクになってから、俺はアネラさんのことを正直バカだと思っていたが、よくよく考えてみれば、彼女は何度も俺の予想を上回った。
だが、ここで終わりみたいな空気を出さないでもらいたい。
俺の作戦はまだ終わっていないから……。
「外を見てみろ」
そう、今日この遊園地では夜になると花火が打ち上げられることになっている。
日本の夏といえば、花火大会だ。
そんな風物詩とも言えるものをアネラさんに見せたい。
高さの問題で、決して横から花火を見ることはできないが、少なくとも地上より今の俺とアネラさんのが花火に近い。
菊模様に広がっていく光の玉が色を変えながら消えてゆく。
これなら、アネラさんも―――
「……」
「なんか言えよ!!」
「あれってなんですか?」
しまった!
アネラさんは花火の概念を知らなかった……。
知ってるものを見せれば「知ってます!」とドヤ顔をされるが、知らないものを見せればそもそも知らないから感想のしようがない。
デート初心者の俺が、異世界の姫様を楽しませるのは少し難しかったみたい。
「綺麗……」
だから、アネラさんの口から出てきたその言葉が俺の胸をじーんとさせた。
「花火っていうんだよ?」
「ハナビ?」
「炎色反応という金属の性質を利用し―――」
「私、しゅんのこと好きになったみたいです……」
「え?」
いつものようにアネラさんに説明しようと話していると、急に聞こえてきた彼女の声を信じられなくて、思わず聞き返してしまった。
「それってアネラさんの周りは男子禁制だから、俺しか男がいなくて―――」
「違いますよ?」
一瞬俯きになったアネラさんの顔が持ち上げられて、そこから優しい笑顔が溢れた。
「しゅんのこと、好きになりました」
優しくも力強くアネラさんは繰り返した。
「それって……」
「最初は確かにお父様は殿方を私に近づけないから、しゅんに出会った時は幸運だと思いました」
「言い方が……」
「でも、しゅんと一緒にいるとすごく楽しくて、しゅんが自分から手を繋いでくれた時はドキドキしたから、やっと自分の気持ちに気づきました」
俺だってドキドキしていたよ……。
今日アネラさんが俺の手を取った時はすごく嬉しかったし、彼女と手を繋ぎたいと思って勢いに任せて繋げたこともあった。
認めたくないが……俺はすでにアネラさんのことを好きになってしまっていた。
最初はむっつりスケベお姫様だと思ったし、女の子のおっぱいが触れるのはすごくラッキーとも思った。
でも、アネラさんが初めてベランダの向こう側に帰った時は少し寂しかった。
彼女がまた俺の部屋にやってきて、入り浸るようになってからはドキドキが止まらなかったし、彼女と一緒にいるとすごく楽しい。
彼女という人間自身を意識してから、不思議と恥ずかしくて彼女に触れるのが怖くなった。
「しゅんは……嫌いですか?」
「俺は―――」
自分から聞いといて、俺の答えを恐れているかのように、気づいたらアネラさんの唇が俺の唇に触れていた。
柔らかくて微かにラベンダーの香りがした。
この瞬間、一際大きい花火が空で炸裂した。
いや、こういうのがご都合主義に聞こえるかもしれないから、言い方を変える……。
途切れなく上がっていった花火が、俺がアネラさんと最初のキスをした時にも打ち上げられていた。
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