第14話 作戦指令4、反撃の狼煙を上げろ!

「後ろの市街地まで走れ!! この日のために地雷を設置した!!」

オーライ復活まであと33秒

オーライ復活まであと32秒

「了解」


 走れないやつ死体が返事をするな!!


 あと男子高校生の夜よ、ちゃっかり俺から離れるんじゃない。

 お前のモニターが見えないではないか。


 ふふっ、俺の作戦はまだこれだけではない。

 アネラさんが慢心してアボガドさんに近づいたらが最後……。


『アボガド?』


 しまった!!

 アネラさんの世界にアボガドは存在しなかった!!


 俺らが撤退したのを見計らって近寄ってきた彼女は、倒れたアボガドさんのアバター死体を確認して頭を傾げている。

 またやらかしてしまった……これじゃジャミング飯テロもできないじゃないか!


 いや、落ち着け! 瞬!

 男子高校生の夜も言ってたじゃないか。まだ慌てる時ではないと。


 市街地まで撤退したら、ビルの中で隠れながら長生き蝉さんとアボガドさんの復活を待つことができる。

 砂漠にたたずむビルの群れは隠れるのにもってこいだ。


 恐る恐る足取りで、俺は一番ボロいビルに入って、エレベーターで20階まで上がった。

 ここなら姫大佐軍の動きはよく見える。


 なぜ砂漠にあるボロいビルのエレベーターが動くのかは俺も最初首を傾げたものだ。

 そういうもの仕様だと割り切ったら案外気にとめなくなる。


 運営を責めても意味はない。

 むしろ今の俺にとっては好都合だ。


 ここなら狙撃もできる。

 スナイパーライフルはないがチュートリアルを終わらせたばかりだから、マシンガンでも腕次第で当てることができるだろう。


 しかも運が良ければ、姫大佐が地雷を踏んでくれたりして。


オーライ俺の力が必要のようだ

オーライよく堪えたな! 相棒


 よし、長生き蝉さんとアボガドさんも復活したな。


 決め台詞と共に復活する。

 これこそ世界ランカー最強のプレイヤだ。


「そのまま市街地へ走れ! 俺が陣取っている! 姫大佐が追ってきたら俺が狙撃する!」

オーライきゃぁぁあっ!!

オーライぎゃぁぁあっ!!


 なんだと……?


しゅん! 市街地で待ち構えているのは何もしゅんだけじゃありません!』


 そうか……。

 そういうことだったのか……。


 市街地で待ち伏せしているのは何も俺だけではない。

 やつドブもだ。


 スコープで眺めていたら、まさか復活した瞬間、長生き蝉さんの頭はドブの弾丸によって弾け飛ばされた。

 血しぶきの方向からドブもこの市街地のどこかのビルの上にいるのが分かる。


 だが、それは仕方ない。

 俺の戦略ミスだ。仲間戦犯を責めるのは筋違いだ。


 でも、お前は違う!!

 アボガド!!


 なぜ俺の地雷を踏んで爆発してんだよ!!

 昨日ちゃんと位置を共有してんじゃないか!!


 いや、今はそんなことより、チェプチャの方が大事だ。

 チェプチャはどこだ? チェプチャの位置だけが分からない。


 あっ、これは俺のお腹が空いたとかじゃないよ。

 ご飯牛丼はしっかりと食べてきている。


 あれか?

 斜め前方50mメートルのところでいかにも初心者みたいななり俺と同じ初期装備で銃の練習をしているやつか?


 いや、違うな。

 そんな下手な撃ち方は真似できるもんじゃない。


 世界ランカーのチェプチャにできないことがあるとすればそんな下手な撃ち方を真似することあと彼女ができることくらいだろう。

 

 やつは哀れだ。

 この日の決戦は掲示板で話題になっている。


 そんなところでのんびりと撃ち方の練習をしていては、戦争の巻き添えを食らってしまう。

 やつは姫大佐の嗜虐心を満たす格好の標的だ。


 それを知らずにここでチュートリアルする一匹狼ひよっこがチェプチャなわけがない。

 ユーザー名も違うしね。


 ちなみにやつのハンドルネームキャラの頭の上にあるはゴッドオブガン。

 まあ、鳥の銃あたりの意味だろう。


 俺の方がよほどその名にふさわしい。

 現にこうして上空地上50mで戦場を俯瞰しているのだから。


 あれ?

 そいつの後ろに誰かいないか?


「くっ!!」

オーライ復活まであと85秒

オーライ復活まであと86秒

「トイレは玄関の隣だ」


 違う!!

 トイレの場所を聞いてんじゃない!!


 あと復活待ち時間を増やしてるやつらが一丁前に返事以下略。

 時間がないから、仲間割れする場合ではない。


 チェプチャだ!!

 やつが初心者モブの後ろに隠れていたんだ!!


「逃げろ!!」

我が辞書に逃亡の文字なし復活まであと82秒

死んでいるから不可能だよ復活まであと83秒

「了解」


 えぇ!!

 この期に及んでも世界ランカーのプライド諦めの悪さ潔さ諦めの早さをひけらかすんじゃない!! 


 まさかあの長い名前ゴッドオブガンはチャプチェのプレイヤー名を隠すためのフェイクだったのか!?

 やるな!! チェプチャァァア!!


 ユーザー名、ハンドルネーム、プレイヤー名を使い分けるほどの語彙力を持つ俺でもその作戦は見抜けなかった……。

 お前の勝ちだ。姫大佐。


『しゅん! 見つけました!』


 あれ? 

 なぜ姫大佐が俺の後ろに?


 なぜ無駄に豪華なピンクのドレスが廃墟を彩っている?

 

 振り向くと、そこには姫大佐の姿があった。

 モニターに気を取られて、スマホでアネラさんの行動を見ていなかった隙に、彼女はこのボロいビルに潜入してこうして俺の後ろで銃を構えている。


 誰だ!!

 廃墟のビルのエレベーターを動かせるようにしたのは!?


『新発売の焼肉味のポテチを買ってくれたら見逃してさしあげます!』


 だーかーら、カメラを見てニヤついてんじゃない!!


 なにちょっとヨダレを垂らしてるんだ、この廃スペック腹ぺこお姫様は。

 俺のお小遣いは貴女のおかげでほんとにお『小』遣いになったの気づいてないのか。


 しかも、戦場で取引を持ち込むんじゃない。

 それは戦士への侮辱だ。


 そもそもなにその焼肉味のポテチは?

 いっぺんに二つの美味を貪ろうとするな。


 そんなポテチが発売されるなんて情報は俺でも持ってないぞ?

 どんだけ食い意地張ってんだよ……。


「チェックメイトだ」


 あれ?

 なぜ男子高校生の夜は姫大佐の後ろにいる?


 チャットでアネラさんとやり取りしている間に、気づいたら男子高校生の夜は銃口を姫大佐の頭に突きつけている。


 そういえば、さっきから見かけなかったな。

 まさか、ずっとこれを狙っていたのか、男子高校生の夜!


「終わりだ」


 いや、チェックメイトと同じ意味だから、それ。


 男子高校生の夜の二度目の宣告によって、彼の拳銃から漆黒の弾丸が無情にも放たれた……。

 

 

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