第13話 作戦指令3、追撃の手から逃れろ!

『人がいませんね……しゅんが待ち伏せするならこのあたりです。R-2アールツーさん、最大戦速でP16ポイント-ワンシックスに走って前方にバズーカを発射してください。ドブさんは出てくる敵の狙撃をお願いします』

『ラジャ』

『ラジャ』

「バカなぁあ!!」

『オーライ』

『オーライ』

了解バカなぁあ!!。戦慄の黒騎士」

「恐怖と呼べ!!」


 違う!! これは指示じゃない!!

 あとアネラさんもalphabetアルファベットを最近覚えたくせに一丁前に活用してんじゃない!!


 悔しいけど、アネラさんは自分の位置を中心にフィールドを座標化している。

 残念ながら、味方でしか分からない座標設定は敵&家主に共有されていない。


 俺にはどこからR-2アールツーが来るか分からないのだ……。

 アネラさんのモニター指示語であって、所有格ではないからR-2アールツーの位置が分からない……。


「全員今すぐその場から逃げろ!!」

オーライ我が辞書に退却の文字なし

オーライまさかここまでとは……

了解全員今すぐその場から逃げろ!!


 ダメだ。


 返事の割に一人は従う気ないし、もう一人はすでに諦めモードに入っている……。


『きゃぁぁあっ!!』

『ぎゃぁぁあっ!!』


 ヘッドホンから阿鼻叫喚あびきょうかんの声が聞こえてくる。


 R-2アールツーのバズーカの砲弾とともに、隣の朽ちた壁の後ろに隠れていた長生き蝉さんとアボガドさんは派手に爆発していた。

 それは指示に従わぬ者戦犯の末路だ。


 スマホから見えたアネラさんの口角が少し上がったと思ったら、いきなり突撃の合図が出された。

 その結果、協力者の二名戦犯はあっさりと殺された。


 世界ランカーだからこそ、彼らなりのプライドと潔さがあるのだろう。たが、それでも姫大佐に太刀打ちできなかったら意味がない。

 長生き蝉さんの不屈の意地諦めの悪さとアボガドさんの状況把握力諦めの早さが彼らを世界ランカー最強のプレイヤーたらしめているのだろう。


 辛うじて生きてるのは俺と男子高校生の夜との二人だけ。

 俺が指示を出した瞬間、男子高校生の夜は素早く姫大佐の方とは逆の方向に走り去った。


 俺は少しだけ操作が覚束おぼつかないから、逃げ遅れて爆風を食らってしまった。

 おかげで初期装備はボロボロになり、俺は満身創痍まんしんそういになった。


 まさか新しいアカウントを使う弊害がここに来て現れるとは。

 慣れないアカウントだから、コントローラーの調子がよくないみたい。


 Theテンションを使っていたら、こんなことにはならなかったのに……。

 

 なんでR-2アールツーとドブの声まで聞こえてるのかって?

 アネラさんが有り得ないくらい音量を上げているからに決まっている。


 そのほうが臨場感があるらしい。

 もっとも、そのおかげでこっちまでもが臨場感溢れている。


 だが、問題はそこではない。

 なぜアネラさんはこちらの行動を読んでいる!?


『しゅん! 私があなたの行動を把握していないとでも思いました!?』


 なぜだ!?

 なぜアネラさんがこちらを見ている!?


『カメラのことはこのゲームで勉強してあります!』


 やめろ!!

 ゲームを教科書みたいにいうな!! そして、そのニヤついた顔もやめろ!!


 そう、アネラさんは今俺の方を見て、にんまりとした邪悪な笑みを浮かべている。

 どうやら、彼女が『グランドオブガン機械学』でカメラについて学んだから、防犯カメラ共犯に気づいたらしい。


 これは決して安い防犯カメラだから性能が悪く、クリアな音声と画像を拾うためにアネラさんの隣に置いているからでは決してないのだ。


 ご丁寧にマイクを切って、彼女の仲間に俺の醜態失態を晒すのを防いでくれてる。

 それだけが救いだ。


 世界ランカーのR-2アールツー、ドブ、チェプチャの三人に戦慄の黒騎士が間抜けなやつだと思われたら、再び『グランドオブガン』にログインする勇気が出てこないだろう。

 それだけが唯一の救いだ……。


 だが、俺は諦めない……。

 諦めないぞ!!


「男子高校生の夜は撤退しろ!! 長生き蝉さんとアボガドさんが復活するまで逃げ切るんだ!!」

「『さん』が抜けてるぞ?」

「今はそういうことを論じている場合ではない!!」


 戦場から消された二人戦犯に今何を言っても無駄だから、俺はマイクを切って急いで男子高校生の夜に指示を出した。

 だが、やつはのんびりと構えている。


「慌てるな。まだチャンスはある」


 不覚にも深く彼のその言葉に心強さと安心感を覚えてしまった。

 男子高校生の夜はこの期に及んでもまだ挽回できると本気で思っているらしい。


 さすがは男子高校生の夜。

 夜な夜なゲームをしているだけのことはある。


「全員聞け! 我々にはまだ男子高校生の夜がいる!」

オーライ復活まであと59秒

オーライ復活まであと58秒


 長生き蝉さんとアボガドさんの復活待ち時間を確認して、俺は士気を上げるためにマイクをONにしてみんなを鼓舞した。

 今がリーダーシップの見せ所だ。俺だってアネラさんに負けてはいないはず。


『まだ二人がいるはずです。センリツのクロキシともう一人が生きてます。チェプチャさん、着替えて後ろから奇襲してください』

『ラジャ』


 キョウフ恐怖と呼べ!!


 いや、問題はそこじゃない。

 なんでアネラさんは俺の新しいアカウントを知っている!?


 来る!!

 やつが来る!!


 重課金者千の服をもつ者だから、どんな服装してるか分からない。

 どうしよう……。どうすればいいんだ……。


 このカメラの意味を知っているのに、奇襲の意味を知らない姫様にどう対処すればいい……。

 カメラを通して、俺に指示が筒抜けになっているというのに……。


「皆殺しだ……」

オーライ復活まであと43秒

オーライ復活まであと42秒

「えぇ……?」


 こうなったら、近寄ってくるやつ全員片っ端撃つんだ。

 まだ復活に40秒以上かかるやつの援護は期待出来ない。


「後ろに下がりながら弾丸を撃ち尽くせ!!」

オーライ復活まであと39秒

オーライ復活まであと38秒

「えぇ……?」


 死んでいるのに返事をするな!! 

 なにもできない癖に一丁前に自分らの存在をアピるな!!


 けたたましい銃声とともに、倒れた者は一人もいなかった。

 残るは銃口から上がっていく硝煙と、地面の弾痕のみ。


『かかりましたね! しゅん!』

「なんだと!?」

オーライ復活まであと37秒

オーライ復活まであと36秒

うん? えぇ……って言ったけど?なんだと!?


 いや、お前らには聞いてない。


『チェプチャさんに指示を出したのはしゅんを動揺させるためのフェイクです!』


 えぇ……? フェイクだと……?

 俺は……騙されていたのか……? この俺が……!


 にしても、そのドヤ顔はやめろ。

 一々俺に話しかける度に勢いよく振り向いてカメラを見るんじゃない!


R-2アールツーさん、突撃してください!』

『ラジャ』


 アネラさんの号令によって、戦慄恐怖の黒騎士こと生存者男子高校生の夜もう一人の生存者の方に向かってR-2アールツーが走ってきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る