第12話 作戦指令2、アネラさんを撃破しろ!

「こちら、戦慄恐怖の黒騎士。案の定、やつが現れた。今こそ姫大佐を倒して名を挙げる時と心せよ。各位、諸位置につけ!」

『オーライ』

『オーライ』

「了解」

R-2アールツー、ドブ、チェプチャの三人は無視しろ。我々の目標はたった一人、姫大佐だ。やつを、やつさえ撃破すればほかのやつらは烏合の衆雑魚にすぎない」

『オーライ』

『おっしゃぁあ!!』

「了解」


 一人だけテンションおかしいやつがいるが、まあ問題ない。

 士気が高い証とでも取っておこう。


 俺の計算通り、地平線の向こうに無駄に豪華なピンクのドレスを着た女の子が現れた。

 彼女はアサルトライフルを構えて廃墟が散らばる砂漠を優雅に歩いている。


 その姿は凛々しくも、神々しい。

 何を隠そう。それが換金と課金の言葉を覚えたアネラさんの成れの果て操作キャラだ。


 彼女は自分の持つ宝石類を持ち込んで質屋国際為替取引所で日本円に変えていたのだ。

 そして、それをありったけ『グランドオブガン』に注ぎ込んだ……。


 だが、廃墟の裏では四人自分の操作キャラを入れての強者が彼女を待ち伏せしている。




 とある休日追試を突破して迎えた夏休みの夜、俺こと戦慄の黒騎士は友達の家で『グランドオブガン』をプレイしていた。

 その目的はたった一つ―――姫大佐を撃破すること。


 そう、俺が考えた作戦は、アネラさんを『グランドオブガン』の中で倒して、彼女に敗北を突きつけることだ。

 残念ながら、腐っても物理的にも一国の姫だ。彼女が『グランドオブガン』のコントローラーを握って以来、その正確無比の指揮と天性の操作技術によって、勝利だけを収めてきた。


 きっと、彼女の国で貴族たちをまとめているうちにその指導能力を培ってきたのだろう。

 それは一朝一夕で身に付けられるものではないからな。


 案外なにかの政策を立ち上げてたりして。


 この日のために、俺は念入りに下準備をしてきた。

 ヘッドホンを買ったことによって、さらになけなしになったお小遣いで一番安い小型防犯カメラを通販で購入して、自分の部屋に設置した。


 自分の部屋だから、プライバシーの侵害などない。

 2000円くらいなのに、音声も拾える優れものだ。


 それから、掲示板で姫大佐を倒して名を挙げたい者を募集した。

 集まったのはざっと100人くらい。


 その中の選りすぐれた精鋭を厳選して二人までに絞った。

 残りは俺が今いる家の友達に参加してもらっている。


 何を隠そう。

 彼こそが『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』の真の所有者にして、その恩恵を俺にも分け与えた者。


 しかもゲームの腕はピカイチ。

 『グランドオブガン』で彼の名を知らぬ者はいない。


 その名も、男子高校生の夜。

 その名にふさわしく、『グランドオブガン』がリリースされて以来、彼はほぼ毎日の夜にログインしていて、その腕を磨いてきた。


 彼をチームメンバーに選んだのにはもう一つ理由がある。

 連携が取りやすいからだ。


 こうやって、マイクを通じてほかの二人と連絡を取りながら、彼とはモニターまで共有できる。

 彼の部屋のデスクトップPCの隣に彼のノートパソコンを設置すると、俺は二つの視点からフィールドを見渡せるのだ。実に死角なし。


 これなら確実にアネラさんを倒せる。

 やつの不敗伝説も今日までだ。


 人を一方的に撃ちまくる快感を、アネラさんは知ってしまった。

 それが彼女が頑なに『グランドオブガン』のコントローラーを手放さない根本的な理由だ。


 ならば、解決策は簡単。

 やつに撃たれる側の気持ちを味わってもらうだけだ。


 敗北のショックを知って、アネラさんはきっと落ち込むだろう。

 その隙に何食わぬ顔で彼女を慰めて、さりげなく外へ誘導する。


 そのために、アカウントを一から作り直した。

 アネラさんにPC捕虜を占領されたから、友達の家でチュートリアルを終わらせた。


 ちなみに前のアカウントのハンドルネームは、Theテンション。


 『俺に注意しろ』って意味だ。

 さすがにこれくらいの英語は分かっている。


 『ア』が抜けていたことをプレイしてから一週間後に気づいた時は、落ち込んだもんだ。

 そのあと、男子高校生の夜に、『それはアテンションプリーズなんじゃないの?』って指摘された時はこの世の終わりかと思った。


 部屋を出る時は、書き置きも残してある。


『探さないでください

        瞬←いい加減に俺の名前の漢字を覚えろよ!』


 案の定、アネラさんは俺のことを気にせず普通にこうやってログインしている。

 俺だってもっと色々書きたかったけど、漢字を使いすぎるとアネラさんに伝わらない可能性を考慮しての結果だ。


 『グランドオブガン』は広大なフィールドで自由に殺し合うゲームで、その自由度がウリのひとつでもある。

 莫大な数の武器と服装課金アイテムを誇り、幾百いくひゃくもの家庭の財政を圧迫した。


 ちなみに俺の服装は初期のままだ。

 ヘッドホンと防犯カメラを買ったから、服装を購入する金が残っていなかったからだ。


 最大四人でチームを組めて、チームメンバー同士の攻撃、つまりフレンドリーファイアは無効になっている。

 強い敵より高度に進化した武器を持つ仲間の銃弾のほうが余程恐ろしい。


 『グランドオブガン』の世界では裏切りは日常茶飯事だ。

 それが過酷な世界で生き延びるための手段だから責められたものではない。


 ただ、それよりも怖いものがある。

 それは操作技術が未熟で味方の頭に銃口を突きつけるやつのことだ。


 そのためにチームを組んだ。

 まあ、このチームに下手なやつはいないだろう。


 スマホでアネラさんのPC指示語であって、所有格ではないの画面を覗きつつ、待ち伏せに適した位置についた。

 あとは一斉射撃だ。


「目標の距離はあと100。長生き蝉さん、アボガドさん、準備はいい?」

『オーライ』

『オーライ』

「男子高校生の夜さん、手榴弾の用意は?」

「もちろんできているさ」


 チェプチャの飯テロに遭わないように、全員ご飯もしっかり食べてきている。

 ちなみに、俺は友達に牛丼を奢ってもらった。


 味方にも食べ物の名前を付けているやつがいるし、相手への撹乱ジャミングにちょうどいい。


 会敵まであと5、4、3、2、1。


「今だ!!」

『オーライ』

『オーライ』

了解今だ!!


 ついに、アネラさんとの決戦の火蓋は切って落とされた。

 この作戦の欠陥を敢えて挙げるとすれば、それは友達のマイクとの位置が近すぎて、俺の声が自分のヘッドホン友達から借りたから流れてきたものだった……。


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ついに10話で☆1000を突破する伝説が達成しました!!


しゅんとアネラさんの物語の続きを読みたいと思って頂けたら、是非☆を入れてくださると執筆の励みになります!!

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