第6話 どうやら、勇者はいないらしい

「醜いゴブリン達に囚われて、後ろ手に縛られたまま、地面に座ることしか出来ない俺は待ちなさい!……って、ルビみたいに被せてくんな!!」

「だってしゅんが人称間違えてますもん!」

「俺はプロの声優じゃないから!!」

セイユウ性勇?」

「勇者みたいに言うな!!」

「ユウシャ?」


 やばい……ついに俺の脳はアネラさんの言葉に漢字を自動的に振り当てていくようになってしまった。

 まだ出会って一時間かそこらしか経っていないのに、彼女の考えてそうなことが手に取るように分かってしまう……。


 にしても、異世界なのに、勇者って概念を知らないのか?

 というか、なんで俺は残念な美少女が見ている前で、エロゲの『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』を音読しているんだ?




「女の子の前でエロゲやるわけないだろう!!」

「これはエロゲって言うんですね!」

「エロゲエロゲ言うな!! 恥ずかしいだろう!!」

「じゃ、やってください♡」

「そんな脅しが通じると思うなよ!!」

「あとで胸さ―――」

「―――今すぐやろうか」


 というわけで、俺はおっぱいのために……じゃなくて、脅しに屈したから、仕方なく『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』の中身が入ったままのPC共犯を起動した。

 暴力に負けたという点において、俺は姫騎士のランチェーラさんと同じなのかもしれない。

 

 彼女はゴブリンの暴力に、そして俺はおっぱいの暴力に……。

 今ならランチェーラさんの悲しい境遇を理解出来る気がする……いや、理解できなくてどうする?


「ここはなんて書いてるんですか?」

「読めないならプレイできないな」

「しゅんも私の胸を触ることができませ―――」

「―――俺が声に出して読もうか」

「お願いします♡」




 そして、始まったのが今の羞恥プレイだ。俺は別にアネラさんの胸にあんなことやこんなことができるのではないかという期待から、『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』の吹き出しに書かれている文章を音読しているわけではないぞ?

 ちなみにこの作品も漏れなくフルボイスだから、俺が情景描写の部分を読み終わったら、ランチェーラさんのセリフが艶かしい彼女の喘ぎ声とともに再生されてしまう。


 実に地獄である。

 あとでアネラさんおっぱいを揉みしだかないと俺の嘆かわしい労力に釣り合わない。


「例えばこう、『俺は世界を救うぞ』とか『魔王よ、人類のためにお前を倒させてもらう』的なやつはお前の世界にいないのか?」

「しゅんってやはり面白いですね! たまに王宮に来る吟遊詩人み―――」

「―――俺の名誉を侮辱しているそいつを今すぐここに連れてこい!!」

「ところで、マオウってなんですか?」

「俺の要求を無視したお前のような、ランチェーラさんの悲鳴を無視しているこのゴブリン達の王だよ!!」

「あっ、ゴブリンなら知ってます! さっき教えてくれた、今この女の子にいやらしいことをしている緑の人間ですね!」

「人間にすごく失礼だな!!」


 気のせいか、アネラさんの目が一瞬ハート状になったような気がする。

 どんだけ欲求不満なんだよ……。


 まさか異世界の人間に『勇者』と『魔王』の概念を説明する日がやってくるとは……ついでに『ゴブリン』も。

 まあ、『勇者』と『魔王』の概念は日本の創作物の中に登場するもので、実際に存在しなくても不思議ではないか……。


「それで、勇者と言うのはその魔王を倒す存在だよ」

「こんなになゴブリン達を率いているマオウを倒すんですか!?」

「お前の性癖を一々暴露しなくていいから!!」


 ……ったく、『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』をプレイしてから、アネラさんはずっと息を荒らげている。

 どんだけ、陵〇されたいのか!? このドスケベマゾ王女めっ!!


「地面に座ることしか出来ない私は、姫騎士としてのプライドを守るために、『くっ……殺せ!』と目の前のやつらを睨みつけながら言い放った」

『いやんっ!』

「この子は『くっ……殺せ!』って言ってませんよ!」

「そういう表現の仕方だよ!!」


 とりあえず、さっさとおっぱい揉みたいから、勇者と魔王の話を置いといて、俺は続きを読むことにした。

 勇者と魔王に世界は救えるか? 少なくとも俺の世界は救えないからね……。


 地の文を読み終わったら、ランチェーラさんの声がすかさずに再生されていた。

 こういう人間の文字を読むスピードまで考慮したところが『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のクオリティが高いと言われる理由の一つだ。


 なのに、クオリティの高い表現の仕方はアネラさんには理解できなかった。

 それは彼女がポンコツである証明に成り下がったのだった……。


 目の前のゴブリンにいやらしく触られて、ランチェーラさんは悲鳴を上げている。

 ちらっと横目でアネラさんを見てみると、彼女は体を小刻みに揺らして、新雪のように白い頬が微かに上気している。


 ごくりと喉を鳴らして、続きを読もうとするが、時すでに遅し……。


「や、やめろ……!!」


 まさか俺がこのセリフを口にする日が来るとは思わなかった。


―――――――――――――――――――――

☆が500を超えたので、第6話を書きました!!


それでは、☆が600を超えたタイミングでまた、お会いしましょう!!


 

 

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