第5話 どうやら、日本の文字と違うらしい

「それを今すぐ置くんだ!!」

「なんでですか?」

「それは俺にとって爆弾だからだよ!!」

「バクダン?」


 さすがに冷静な俺でも、狼狽えてしまった。

 誘惑に負けて、友達から『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』を借りるべきではなかった。


 一生の不覚とも言えるこの事態を招いてしまったのは、間違いなく俺の浅はかさだ。

 なんとかアネラさんの注意を逸らさないと……。


「そう!! 爆弾のこと知りたいだろう!?」

「いいえ、今はこの女の子の格好のほうが気になります」

「聞け!! 爆弾はニトロ化合物によって作られるもので、火をつけると爆発するんだ!!」

「それは今の状況に似てますね♡」

「そこは『ニトロカゴウブツ?』って聞き返さないのかよ!?」


 アネラさんは確信犯だ。

 彼女は俺が慌てていることを知っている。


 男の純情エロを弄んで楽しいですか!?


「だから、今はこの女の子がなんで手を後ろに縛られて、胸と股間をギリギリ隠せる鎧しか着ていない格好のほうが気になります♡」

「お前の格好もそう変わらんだろう!!」


 アネラさんにだけ、パッケージの表紙を飾っている『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のヒロインであるランチェーラ・グランストファーさんの格好を指摘する資格はない。

 なぜなら、アネラさんの白いネグリジェもかなり際どい。透け透けなので、彼女の白い肌は見え隠れする。


「私は手を後ろに縛られてませんもん!」

「いや、そこ!?」


 どうやら、アネラさん的に露出度が高い格好より手を後ろに縛られていることのほうが興味を惹かれるらしい。


「なんて気持ちよさそうなポーズですか……」

「お前絶対くっ殺の姫騎士になれないだろう!!」

「クッコロノヒメキシってなんですか?」

「ニトロ化合物より姫騎士のほうが気になるのか!?」

「ニトロカゴウブツ?」

「今その質問!?」


 もう、頭が痛い。

 鼻の上から額にかけて重苦しい感じがする。


 こっちがこんなにも必死になっているというのに、なぜアネラさんはそんなに輝かしい目で『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のパッケージを見つめているんだ。

 どんな羞恥プレイですか……。


「しゅん、ここになんて書いてるんですか?」


 アネラさんは俺のツッコミを無視して、『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のパッケージを掲げて見せて問いかけてくる。

 まるで黒歴史を見せつけられているかのような感覚になり、今すぐ布団にくるまりたい……。


 もう二度と太陽の光に当たらなくてもいいから、掲げているそれを降ろせ……!!


「読めないのか?」

「はい、この四角い文字とか丸い文字とか見たことないです」

「お前が今喋ってる言語だろうが!!」

「えっ? 私が今話しているのはエメラルド語ですよ?」

「…………」


 顔が熱くなっているのを痩せ我慢しながら、アネラさんに聞き返したら、驚きの返事が返ってきた。


 大丈夫? その台本……と、もしベランダの向こう側の光景を見ていなければ、どこかのマッドサイエンティストが空間に関する狂気的な実験以下略……。

 異世界なのに、偶然なのか必然なのか分からないが、エメラルドリア王国はどうやら日本語と同じ発音を辿っているが、文字に関しては違うらしい。


「とりあえず、その、エメラルド語をここに書いてみてくれる?」


 エメラルド語の文字を確認するために、机の上に置いてる紙とボールペンをアネラさんに渡す。


「この丸い棒状のものって―――」

「―――もちろんお前が想像しているようなものではないよ!!」

「ううっ……」


 もう変なことは喋らせない。

 俺の脳内に、アネラさん警報機ができつつある。


 残念そうにボールペンを取って、紙にエメラルド語を書き出すアネラさん。

 ムッツリドスケベ痴女だから、ちゃんと文字が書けるか心配だったけど、忘れかけているだけで、一応腐っても王女なんだよね。


「書けました」

「見せてみー?」


 うん、エメラルド語の文字はやはり日本語とは違うな。

 この蛇が走っているような文字に、日本語と共通するものを見つけるのは無理がある。


「……しゅんって今失礼なこと考えてませんか?」

「……考えてないよ」

「その間はなんですか?」

「気にするな」


 考えていることが表情に出てたか……。


 じっと俺を見つめてくるアネラさんは、まあいいかと言った感じで、視線を『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のパッケージに戻す。

 そして、PCパソコンとそれを見比べ始めた。


「もしかして、これってこの黒い木の板と関係あるんですか?」

「人類の叡智エイチを侮辱するな!!」

「私のミドルネームHがどうかしましたか?」

「これ以上人類を侮辱するのか!?」

「しゅんこそ、私の名前に対してすごく失礼ですよね!」


 ぷぅと頬を含まらせて、銀色の髪を揺らす。そんなアネラさんの姿は幻想的でありながらあどけない。


「私、この女の子が動いてるところ見てみたい! しゅんの世界ならできるでしょう♡」


 彼女もまた、叡智Hある人類ということを俺は忘れていた……。


―――――――――――――――――――――

お待たせしました!!

☆が400を超えたので、第5話を書きました!!


では、『☆』が500を超えたタイミングでまたお会いしましょう!!

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