第4話 どうやら、異世界のマッサージはメンズエステ式らしい

「見るな!!」


 心頭滅却しんとうめっきゃく! 煩悩退散ぼんのうたいさん! 四面楚歌しめんそか! 十面埋伏じゅうめんまいふく

 とりあえず、興奮を抑えよう……後ろの二つは俺の危機感をあおるために足しといたやつだ。


 うん、これで大丈夫だろう。俺が揉んでるのは、車で走ってる時に窓から手を出したら感じられる空気でしかないのだ。


「あら、ちっちゃくなりましたね……残念……」

「こんな脂肪の塊になんて、俺は屈しないぞ!」

「シボウ?」

「それも分からないのか……」


 だめだ。フェイクって言葉は分かるのに、脂肪って言葉が分からないなんて、横文字の扱いに関しては、日本人と違う感性だ。


 まあ、生物学と医学が発展してなかったら、脂肪という概念は理解できないだろう。

 それに対して、人間はずっと争ってきたから、本能的に戦略的な言葉を知っているのだろう。


「えっと、ようはお前の胸はお前が食べた肉が変化したものだって言ってるんだよ」

「じゃ、魚は何になってるんですか!?」

「それもこの脂肪の塊になってるんだよっ!!」

「いやんっ♡」

 

 いらっとしたから、もう一度力を入れてアネラさんのおっぱいを掴んで見せた。

 見本があるほうが説明しやすいしね。


「ま、まさか、しゅん、こうやって私にあなたの世界の知識を教えてくれてるのも―――」

「―――もちろんお前を高潮させるためのフェイクじゃないよ!!」

「残念です……」

「それさっきも言った!」


 なんだろう。この、彼女の欲求を満たさないと、俺の存在価値が否定されてしまうような感覚。

 アネラさんと出会ってからずっと調子を狂わされる。


「ねえ、しゅん」

「なんだ?」

「ずっと立ってるの疲れたから、ベッドに座りましょう?」

「もう帰れ!!」

「でも、しゅんが離してくれないじゃないですか?」

「……とりあえず座ろうか」


 痛いところを突かれて、やむを得ずアネラさんの提案に従った。


 非常に名残惜しいけど、後ろ髪を引かれるような断腸の思いで、俺は再びアネラさんのおっぱいから手を離した。

 初めて触った女の子のおっぱいの感触は手にわずかに残ってて心地よい。


「しゅん、横になってください」

「座ったばかりだろう!! 段階を踏め!!」

「段階を踏めば私のものになってくれるんですか?」

「考えなくもないだけだ!」

「結局考えてくれるんですね♡」


 横になって、目を閉じる。

 言っておくが、これは決してアネラさんに言われたからではないぞ? 


 俺は自分の意思で横になっただけだ。

 別になんも期待してないぞ?


「なにかする気なのか?」

「マッサージです♡」

「マッサージかよ……」

「なんで残念そうにしてるんですか♡」

「うるさい! 男子高校生には色々あるんだよ!」

「あら、口が悪いですね、ふふっ」

「いやんっ♡」


 足を這うような艶かしい感触に、思わずアネラさんと同じ声を出してしまった。

 ちらっと目を開けて見てみたら、彼女はベッドに横座りになって俺の足を揉んでいる。


「触り方いやらしすぎないか?」

「これは私が侍女たちにされている伝統あるマッサージですよ」

「そうですか……」


 そういうアネラさんの手はふくらはぎを通り、鼠径部そけいぶを優しく撫でて、ゆっくりと俺の股間へと移動していく。

 

 今なら分かる。

 男との接触を禁止されているだけでは、アネラさんレベルの欲求不満にはならないだろう。


 ただでさえ、俺と同い年っぽい思春期の少女に、こんなメンズエステみたいなマッサージをほどこしたら、そりゃムッツリドスケベお姫様に育つわな。

 アネラさんの父親―――たぶん、国王なのだろう―――は、火に油を注いでどうすんだよ……。


 なんか初めての娘の子育てに四苦八苦しくはっくしている国王様の父親像が浮かんでくる。

 いつか俺も父親になる身としては、少し切ない。


「ひゃんっ」

「変な声出してますね♡」

「確信犯が何か言った!?」

「同じ確信犯のしゅんもなにかいいましたか♡」

「そ、そこはやめて……」


 再び膨らんだ俺の大事なところを、まるでレバーを引くように掴んだアネラさん。

 にんまりとした笑顔が、彼女の艶かしさに拍車をかける。


「今すぐそこから手を離せ!!」

「はーい」

「なんで離すんだよ!?」

「欲望に忠実ですね♡」


 そんなの、どう……いや、なんでもない……思春期の俺にとって、生殺しもいいところだ。

 まるで、ハーゲン〇ッツをやっとの思いで買ったのに、途中でこけてダメにしてしまったようなもどかしさだ。


「あれはなんですか?」

「いや、それよりマッサージはもう終わったのか!?」

「こ、この女の子はなんて格好してるんですか!?」

「話を聞け! あっ……」


 勝手にマッサージをやめたアネラさんは、脱兎のごとくベッドからそそくさと降りて、学習机の上に置かれているものを手に取る。

 アネラさんの体に釣られるように、俺も彼女を追いかけたら、思わず間抜けな声が口をついて出てしまった……。


 そう、彼女が手にしてるのは、ついさっき、俺がベランダに行く前にプレイしていた『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のパッケージだった……。


―――――――――――――――――――――

☆300を突破したので、第4話を投稿します!!


次話は☆が400を超えたタイミングで投稿いたします!!

どうか、応援よろしくお願いしますね!!笑



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