第10話


 突如としたマキナによる城への襲撃。

 彼女曰く、目的はフェルスの実力を測る為だという。たまたま居合わせたユーリは驚くばかりだが、ここでひとつの疑問が生まれた。

 城へ侵入者が現れたにも関わらず、警備の兵が動く気配がない。普通なら騒ぎを聞きつけた兵が兵を呼び、瞬く間に包囲されるに違いない筈だ。


「なるほど、魔法障壁か」

「魔法……障壁?」


 ひとり納得した様に頷くフェルス。


「ユーリくん、辺りを見渡してご覧よ。よく見ると陽炎の様にぼんやりしているだろう?」

「あ……本当ですね」


 攻撃と治癒魔法しか扱わないユーリにとっては盲点だった“補助魔法”。幻惑や幻聴など、五感に影響を与える、いわゆる妨害にカテゴライズされる魔法だ。


「ご名答よ。これで周りの邪魔は入らないわ」

「なるほどね。これをクリアしなければ僕の武器は作ってくれないと?」

「ええ」

「じゃあ……やるしかないんだね」


 そう溢し、フェルスは再びキンと双剣を打ち鳴らした。


(フェルス隊長……構えが独特だな)


 双剣使いには様々な流派が存在する。

 剣の持ち方、構え方は千差万別ではあるが、フェルスはその中でも特異なものだった。

 双方共に剣を逆手に持ち、どちらかと言えば剣を構えるというより拳を構えていると言った方が近いだろうか。

 見れば剣のヒルト部分(拳を守る為の柄)には鋭利な装飾が施されており、そのまま打ち付けて打撃を与える形状をしている。フェルスの構えをそのまま解釈すれば、彼のスタイルは双剣では無くマーシャルアーツのそれだった。


「ふうん。それならあのオーダーも納得の構え方ね」

「おっと、失望したかい?」

「いえ……俄然ーーーー」


 マキナは屋根から飛び降り、地面に着地すると、瞬時に自らの周りに魔力を解き放った。


「創作意欲(きょうみ)が湧いたわ」


 ビリッと頬を撫でる風。

 マキナを中心として展開される魔力はみるみる膨れ上がり、彼女の作り出した障壁内で魔力の奔流は逆巻き肥大化していく。

 何が起こるのだろうと目を見張るユーリだが、次の瞬間に彼は自らの目を疑った。


「アレは……?」


 マキナの手中に収まっているのは、眩く輝きを放つ二本の剣だった。

 シルエットこそフェルスの武器に似ているが、光が強く細部までは視認できない。ただ、マキナはフェルスと同じ様な構えをとり、爛々とした目を輝かせている。


「ふふ、なるほど」


 独り呟き、瞬く間に光る双剣に魔力を流し込み、なんと輪郭を捻じ曲げて見せた。


「え、ええ!?」

「驚いたね。まるで戦いの中で武器を練り上げているみたいだ」

「近いわね。わたしは作る武器は直接扱って感度を試すの。使った事もない武器なんて、ちゃんとしたものが作れる訳ないじゃない」

「ふむ、流石は名工と呼ばれるだけはあるね。だけど……」


 ジャッと地面が砂煙を上げるや、フェルスは一気に距離を詰めていた。拳による一撃はマキナに受け止められるが、そのまま身体を翻して刃による斬撃が繰り出される。

 打撃と斬撃、それらは織り交ぜられ、一連の攻撃の中で美しい流れを生み出す。流麗たるフェルスの猛攻が続く中、それでもマキナの表情に焦りという概念は生まれなかった。


「刀身はあまり長さは要らない……いや、拳速を鈍らせない為に形状を変えるか」

「驚いた、まさか攻撃を受けながら分析していると?」

「どうでもいいから続けなさい」

「……こっちも肩書き上、あまり余裕を見せられるのも良くないんだよね」

「最適解とプライド、どちらが大事なのかしら?」

「どっちもさ!」


 一旦距離を置き、フェルスは双剣を順手に持ち替える。今度は打って変わって、よくある双剣の構えだ。

 マキナも体勢を整えると、彼を一瞥して目を丸くした。


「あら?」

「コッチも見てもらわないと」

「? 随分と多芸ね」


 言うや、剣を鳴らして右手を後方へ引く。左手の剣先はマキナの喉元に狙いを定めているが、僅かに揺らめく様に動きを交えている所為で初動のタイミングが上手く測れない。


「剣は振り方ひとつで表情を変える。まるで女性の心の様さ」

「ご高説どうも。でも寒気がするから遠慮してもらえる?」

「おお怖い。フードで見えづらいけれど、君も笑えばキュートだと思うよ」

「武器職人に容姿は関係ないわ」

「それもそうか。失言だったね、謝るよ」


 刹那、互いの剣がぶつかり、ユーリの目前で火花が散った。

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叛逆禁忌のマテリアライズ 魔法剣士と鍛冶屋の少女の物語 名無し@無名 @Lu-na

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