第8話
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職人において仕事への向き合い方は様々である。
客の依頼を最優先に考える者、コストを切り詰め最大限の利益を取る者、自分の作りたい物のみに執着する者。
そして魔導技工士であるマキナ・シルキス。彼女もまた、武器を作るという行為に対して後者の考えを持っていた。
マキナが仕事を受けるのは月に一度有るかどうか。その殆どは彼女の気分に左右され、全く仕事をせずに半年を過ごした年もあるらしい。
その依頼も基本的にジグルドが持ってくるのだが、マキナは相手の人物と面識を持つ訳でもなく、あくまでジグルドの作成した資料を参考に判断を下している。
故に仲介役であるジグルドはそれが稼ぎに直結する為、資料作りにおいて非常に気を遣っていると言っても過言ではない。もちろん嘘偽り無き事が前提であるが、極端に人を遠ざける傾向にあるマキナには依頼人すら例外では無いのだろう。
しかし一度仕事を引き受けたなら話は別だ。彼女は自分の仕事に誇りを持ち、シルキスの名に恥じぬ作品を作り上げてきた。
そしてジグルドが素材を手に入れてくるまでの期間はその前段階、彼女が作品のイメージを膨らませる為の大事な時間だった。
人は嫌いだがインスピレーションは外から取り入れる。一見して相反する思想にも思えるが、これがマキナにとってのルーティーンである。
◆
魔法科学が発展した世界において、魔法は生活に必須と言えるだろう。
この世界を構成する魔法は火、水、風を基本に、氷、雷、光、闇といった様々な属性が存在する。適正は生まれ持ったものに左右されるが、ある程度は練度で鍛える事が可能だ。
しかしながら、一定数の人間にはその素質を持ち合わせず生を受ける者がいる。
彼女ーーーーマキナ・シルキスもまた、特別な体質を持って生まれた一人だ。
「……ダメね」
切り株に座り、不機嫌な様子で自らの指先を眺める。燻った煙がフッと風に消えると、青空を仰いで目を閉じた。
マキナは魔力が高い。
しかし何故か、それを魔法として放出する機能が生まれつき備わっていなかった。
体内で練り上げられる高密度な魔力はそのまま魔法の威力に直結するが、放出出来なければ全く意味を成さないと言い換えられる。
行き場の無いエネルギーの溜池、マキナの身体はまさにそれだった。
フレアショットーーーーにならなかった炎は残滓となって消えかかり、彼女の中で膨れ上がったままの魔力は行き場を失って体内を彷徨う。
異物にも似た嫌悪感、それは吐き気となって、胃酸が上がってくる感覚に眉を顰めた。
「…………ちッ」
短く吐き捨て、太腿に装着していた分厚い革の鞘からダガーを取り出す。そのまま柄を握って、僅かに力を込めた。
ーーーーカッ!
短く刀身が発光し、やがて緊張が解れた様にマキナの肩がゆっくりと下がる。ダガーは瞬間的な魔力に侵食されたらしく、刀身をボロボロにさせながら砕け落ちた。
「また壊しちゃった、ごめんなさい」
砕けたカケラを拾い上げようと刃に触れる。グローブ越しに伝わる鉄の感触を確かめながら、マキナは自分の中に存在する、大きく異質なチカラの奔流に対して「消えちゃえばいいのに」と悪態ついた。
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