第10話 Seam/ 波間
10.Seam/ 波間
海……。それはこの異世界は並行世界なのだから、海だってあるけれど、初めて海がみえるところに来た。
「海岸線は、どうしても見通しがよく、魔族に狙われ易いので、人々が暮らしやすい場所ではありません」
グランシールはそう説明する。
「でも、海岸近くまで人々はきます。それは塩を確保するためで、海水を汲んで、それを塩味として料理などにつかうのです」
塩田といったものではなく、海水をそのままつかうらしい。文化は尽く破壊されているため、料理もさほど複雑なものはつくれないので、それで十分らしい。
「じゃあ、今回はその海岸にくる子と?」
「ちがいます」
「……ん? なら、どうしてここに?」
ボクも戸惑いつつ歩いていると、波打ち際の岩に、すわっている髪の長い少女をみつけた。
ただその姿に驚く。上半身は裸で、海に水浴びにでも来ているようだが、下半身には尾ひれがある。つまり人魚なのだ。
彼女もボクに気づいたけれど、逃げるわけではなく、自分の姿を見られ、怒りを覚えたのか、ボクに向けて何かを叫んできた。
口をぱくぱくさせるけれど、何を言っているかは分からない。ただそれは、グランシールの力だった。
「彼女はマーメイドではありません。セイレーンです」
ボクも微かな知識で知っていた。人魚はただ、半人半漁で海に暮らしている……というイメージだけれど、ギリシャ神話のセイレーンは、その歌声で人々を魅了し、海の中にひきずりこむ怪物だ、と……。
恐らく、彼女はボクを生みに引きずりこもうと叫び声を上げている。それをグランシールが防いで、ボクに聞こえないようにしている。
この異世界にきて、魔族以外で敵意を向けられたのは初めてだった。
「待ってくれ。ボクに攻撃は利かない。落ち着いて話を聞いて」
ボクが必死でそう訴えると、セイレーンも叫ぶのを止めた。
「アナタは何者? なぜ攻撃が利かない?」
「ボクは勇者の子種をもつ、とされてこの世界にいる。グランシールという鎧が、君の攻撃をはじくんだ」
「グランシール……」
聞いたことがある、ぐらいの反応だ。海に暮らすセイレーンは、魔族の脅威も少なくて済み、その分勇者待望の機運が低いのか?
でも、グランシールがセイレーンとの子づくりを求め、連れてきたのだから、勇者の母親候補もいるのだろう。
彼女は待っているように言って、海に潜っていった。しばらくすると、もう一人のセイレーンを連れてきた。
年齢が分かりにくいけれど、先のセイレーンよりは年上のようだ。
「私はリリューカ。アナタが勇者の子種をもつ人物ですか?」
値踏みするような眼でみられる。基本、彼女たちは上半身が裸で、胸も露わだけれど隠そうとも、恥ずかしがる素振りもない。なので、ボクも気にしないよう顔だけをみて話す。
リリューカは大人びてみえるが、それはラテン系のはっきりとした顔立ちで、眉もキリッとした印象だからか? 明らかにボクより年上、ただセイレーンの寿命やら成熟度合がどうなっているか? それは不明だ。
「私たちも、人族との性交渉はできます。ですが、正直その着床率は極めて低いものです。それでも勇者が誕生すると思いますか?」
リリューカは厳しい声音で、そう尋ねてくる。
「ボクはその可能性に賭けるしかない、と思っています。この世界を魔族から救えるのなら……」
ボクの決意と覚悟、それをみてリリューカも「分かりました……」と呟く。「レレシア、アナタが相手をしてあげなさい」
「え?」
それはボクと最初に会った少女だ。少女といっても年上だと思うけれど、彼女は真っ赤な顔をして、リリューカをみている。
「最初にアナタが彼と出会ったのは、何かの兆し……かもしれません。幸い、アナタはまだ結婚していない……どころか、恋もまだでしょう? なら、ココでそれを体験しておくのも、よいのかもしれません」
どうやらリリューカの指示には絶対、というのがセイレーンの掟のようだ。とても納得しているとはいいがたいけれど、レレシアとボクは二人きりになった。
「……嫌?」
ボクがそう尋ねると、レレシアは首を横にふって「アナタこそ、嫌でしょう?」
「そんなことはない。でも、さっきも言っていたけれど、人族とはエッチができても子供ができないって……」
「それでも私たちは、人族と恋をするしかないのよ。だって私たちには、男性がいないのだから。でも、人族と恋に落ちても、私たちは海の中でしかセックスできない。それによって、恋する相手を殺してしまうことだってある」
よく見ると、彼女の下半身はイルカのそれだ。通常、人魚といったら下半身は魚を想像するけれど、イルカのような哺乳類のそれなら、その下半身のままエッチができる。ただし、それは相手を海に引きずりこまないとできない。恋する相手を殺すことを覚悟して、コトに及ぶしかないのだ。
「ボクは大丈夫。グランシールに守られているんだから」
「本当に……いいの?」
もしかして、レレシアは相手のことを気遣って、これまで恋をしなかったのか? 好きになっても、成就したいと思ったとき、相手を殺してしまうかもしれない。それが重しとなっていた。
ボクが頷くと、彼女はボクにとびかかるように唇を重ねてきて、そのままボクたちは海へと落ちた。
彼女は尾ひれをつかって、一気に海の中を加速する。強く唇を押し付け合うのは、空気をボクに送りこんでくれているからだ。ボクも彼女にしがみつく。水圧で引き剥がされそうになる。
彼女が泳ぐのを止めたけれど、まだ惰性ですすむ。そのとき、彼女が手でボクのそれをまさぐってきた。そのまま自分へと導こうとしているるようだ。位置的には人のそれと同じ。ただ形状は……合うのか?
一回目は失敗し、海面へともどってくる。
互いに荒い息遣いの中で、「加速するのはナゼ?」と問いかける。
「セックスをしているとき、私たちは無防備になる。だから他の魚に狙われないように、速度を上げるの」
魚というより、サメやシャチか……。海の中ではセイレーンの歌声もつかえない。早く泳いで、攻撃を回避するしかないのだ。
何度もチャレンジする。しかしボクも初めてだし、彼女も初めて。中々うまくいかない。
「キスを止めよう。キミも苦しいだろ? ボクはその間、息を止めているから、下半身を結びつけることだけに集中するんだ」
彼女も頷くと、ふたたび海へと潜った。いくらグランシールに守られているといっても、酸素を供給してくれるわけではない。しかも、まだ挿入すらしていないけれど、それだけではなく、彼女の中で達しないといけないのだ。そこまで息がつづくのだろうか……?
否、つづけるんだ。ボクはその覚悟をもって、彼女にしがみつく。
彼女が泳ぐのを止め、惰性で前進しながらボクのそれを握った。そのまま自分の中に導いていく。
入った! 彼女の中の温かく、筋肉で引き締まったそれがボクに絡みついてくる。
……ッ!
彼女の中が動くのだ。からみついてきて、まるでしごくように中が動いてくる。しかも高速のそれは、腰遣いよりも激しくて……。
海面へと向かう中で、ボクはイッた。彼女の中へと流れこんでいくのを感じつつ、ボクたちは頭をだした。
レレシアは耐えきれなくなった様子で、息をするとすぐにボクに唇を重ねてきた。
まだ繋がったまま、彼女は抜けないよう、尾ひれをつかってゆっくりと泳ぐ。海面を漂いながら、ボクたちはしっかりと結びついていた。
離れることを惜しむように、むしろすべての隙間を埋めようとするかのように、彼女はボクを抱きしめ、ボクは彼女にしがみつき、波間を見え隠れしながら、その余韻をたのしむ。
「私……、恋なんて一生しないと思っていた。だって、相手が死んでしまうかもしれないなんて……。でも、よかった」
そういって、もう一度強く抱きついてきた。彼女が前向きになれたことが、ボクにも嬉しかった。
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