第8話 Relay/ 再会

     8.Relay/ 再会


 元の世界にもどってきて、ボクは疲労感でいっぱいになる。一体何人を相手にしてきたか……? そう思うところもあるけれど、それ以上にボクはきになっていることがあった。

「魔族と会っても、戦うことはできないの?」

 ドワーフの村に入る前、魔族の少年と遭遇したけれど、グランシールは逃げるよう促していた。

「私は鎧です。守ることはできますが、戦うことはできません」

 グランシールは淡々とそう語った。

「守るって、攻撃を手ではじいたけれど、かなり痛かったよ」

「それぐらいで済んだのは、私の力です。通常なら体が痺れて、心臓すら止まっていたかもしれません」

 怖いことを言うけれど、グランシールでさえボクに絡んできた先輩たちを、一撃で顔面を粉砕してみせた。魔法のある世界では、威力のある攻撃を魔法で回避するのが常識であって、魔法のない者にとっては即死レベルの攻撃が、当たり前のように襲うらしい。

「ボクは向こうの世界でも、魔法はつかえないんだろ?」

「資質はあります。でもそれを開花させるのは難しいでしょうね」

「どうして?」

「魔法の存在を、懐疑的にみるからです。生まれたときから魔法が身近にあって、魔法を当たり前につかう。微塵も疑うことのない、その純粋さが魔法における唯一といっていいコツです」

 確かに、疑わしいと今でも思ってしまう。

「それでも向こうの世界の人々は、わずかな魔法しかつかえない。魔族のような、強大な魔法をつかうことはできません」

「何で、魔族は強大な魔法を?」

「分かりません……。ですが、魔族は人より生まれ、人に帰る、とされます。人族の変異種かもしれません」


「魔族が気になることを言っていたけれど『何のために、ノマドを滅ぼそうとするのか?』って?」

「私には魔族の考えは分かりません」

 にべもないけれど、その無表情を装うグランシールが、何か隠し事をしているのでは? とも感じさせた。

 ただボクにそれを問い詰めることもできない。勇者の子種をもつ、という言葉を無条件で受け入れ、あちらの世界でそうした行為をしているのだ。ボクがそれに疑義を挟むことは、行為すべてを否定することになってしまう。

 相手の女の子も受け入れているし、ボクも気持ちいいので何となく乗っかっていたけれど、異世界に抱いた疑問。その僅かな引っかかりは、今後大きくなることにまだ気づけていない。

 ただ、こちらの世界でボクはふつうの中学生だ。しかも、異世界に行く前にトラブルとなった先輩たちの一件もある。ボクは呼び出され、ぼこぼこにされたにも関わらず逃げ果せ、かつ彼らは顔面陥没という多大な被害をうけたのだ。

 警察にも話を聞かれたけれど、ボクは知らないと答えておいた。気づいたら彼らが倒れていて、怖くなって逃げた、と……。

 本当はグランシールによる仕返しなのだけれど、そうも言えない。彼女は身を守る魔法をつかえるため、監視カメラに映るようなヘマはしていないはずで、ボクが証言しなければ、彼女が疑われることもないだろう。しかし嘘ではないけれど、本当のことが言えない心苦しさがあることも確かだった。


 ふたたび異世界――。

 森の中だった。この異世界では魔族の襲来におびえ、多くの種族が森の中など、隠れて暮らすのだから、こうして森にくるのも多くなる。

 ただそこで、魔獣に遭遇した。魔力の影響によって動物が狂暴化したもので、すでに意思はなく、人を食らうことだけを本能として行動する、という厄介な相手でもあった。

 ボクはグランシールをまとうので、致命傷どころか、魔獣程度の攻撃なら軽くあしらえる。ただ、攻撃する術がないので、まとわりついてくる魔獣を追い払う術がないことが問題だった。

 走って、上って、川を飛び越えてその追撃をかわそうとするけれど、そこは人としての能力しかなく、暴走する魔獣に敵うはずもなかった。

 つまり守備力が最強だけれど、それ以外が人並みのボクは負けることはないけれど勝つこともできない、消耗戦に突入する、ということだ。

 不毛な戦いをしているとき、剣をもって飛びこんできた者がいた。あっという間に魔獣たちを斬り伏せ、ボクを救いだしてくれたのだ。

 改めてボクもその相手をみたとき、「あ⁉」と声をだしてしまった。

「アルティ⁉」

 ボクが初めて異世界にきて、初めて体験した相手である。彼女とは家にいるときに会ったので、職業とかは知らなかったけれど、剣をもって鎧をまとう彼女は、剣士のようだ。

 そういえば、最初に家を訪ねたときに剣で貫かれそうになったっけ……。

「また、私に会いに来てくれたんですか?」

 エメラルドグリーンの美しい瞳を輝かせ、ボクをみつめるアルティに、ボクも何も言えなかった。


「どうやら子は授からなかったようです」

 アルティはそういって、ボクをふたたび小屋に誘った。

 ボクにはまだ一週間前のことだけれど、彼女はあれから三ヶ月経っているそうだ。

「ボクはあのときのこと、誤ろうと思っていたんだ」

「?」

「ボクもまだ慣れていなくて、君のことを傷つけたんじゃないかって……」

「むしろ私の方こそ、初めてだったので上手くできず、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。せっかく勇者の子種をさずかれるのに……って」

 この世界の勇者待望の機運は、彼女のような考えを抱かせる要因にもなる。

「アルティは剣士なの?」

「まだ修行の身です。いずれは冒険者となって、魔族と戦って世界を救いたい……と考えていますが、そのとき勇者となった息子とともに、旅ができれば楽しいかな、と……」

 やや照れたように、アルティはそう言ってほほ笑む。

 彼女はこうして山で、一人暮らしをして研鑽を摘む。そもそも恋愛とか、そういうことは考えていなかった。だからボクが現れたとき、すんなりと受け入れてくれたのだ。勇者を生みたい……と。

 ならば、やはりそれに応えてあげたい……ボクもそう思った。

 アルティの小屋で、ふたたびボクらはまぐわうこととなった。

 彼女の腰を優しく抱き寄せ、唇を重ねる。あのときはまだ、ボクも初めてでキスも下手くそだったけれど、今ではもう緊張することもない。

 アルティもそれを感じたのだろう。唇を放しすと、はにかんだように俯いて「き、キスが上手くなりましたね」と、噛み締めるように言った。

「あのときが下手過ぎた。今日はキミのことを喜ばせ、子供ができるようにしてあげるよ」

 アルティのことを抱きしめ、もう一度唇を重ねる。彼女はもう唇を放そうとせず、ボクとのそれを喜んでいるようにも感じられた。


「す……すごい!」

 その胸を優しく愛撫するだけで、アルティは感じてくれて、涙ぐんでいる。最初にしたときが、すごく下手くそなボクを受け止めてくれたけれど、今回こそ彼女にちゃんと感じてもらうんだ……。

 彼女はボクとしかしたことがない。というより修行をしているので、人と会うことすらないそうだ。

 ボクとの交わりは、彼女にとって久しぶりの人との交わりであって、人恋しさも手伝ってその分、激しくなる。

 前回は互いによく分からないことばかりで、手探りの状態だった。でも今はちがう。ボクは彼女の感じるところをしっかりと責め、彼女はそれを受け止め、歓喜の声をあげる。

 そして、ボクもそんな彼女の健気なところをみて、さらに興奮し、彼女のことを責める。

「いくよ」

 前回、彼女を傷つけてしまったそこを、ゆっくりと優しく、改めてその道を開拓する。

「あぁ~……」彼女は余韻ののこるつぶやきを残し、入ってきたことを噛み締めている。恐らく前は痛くて、それを耐えるのに必死だったけれど、今回はしっかりと彼女も感じて、ボクを受け止めてくれるので、彼女には気持ちよさ……だけが伝わったようだ。

 ボクは今度こそ……そう考え、彼女の期待に応えるためにもしっかりと、何度も、何度も出し尽くすまで腰をふった。









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